第143話 「内側の準備」
群馬拠点。
夜。
外は静かだった。
だが。
誰も安心していない。
北海道の映像。
あれが頭から離れない。
「……資材足りねぇな」
桐谷 恒一郎が呟く。
拠点の壁を見ながら。
補強。
増設。
やることが多すぎる。
その横で、美月がメモを見ていた。
「保存食、減ってる」
小さく言う。
静か。
だが。
確実に重要な話。
「水も」
「前より使ってる」
その言葉。
現実だった。
戦うだけでは終わらない。
人が増えれば。
消費も増える。
その時。
助けられた人たちが動いていた。
運ぶ。
修理する。
食事を分ける。
誰も休んでいない。
その光景を見ながら。
悠真が小さく言う。
「……増えたな」
人が。
役割が。
守るものが。
その時。
祖父――黒崎 恒一が言う。
「当たり前だ」
短く。
「お前らが止めてるからだ」
その一言。
重い。
北海道。
東京。
外側が崩れ始めている。
だからこそ。
ここへ人が集まる。
その時。
ぴーちゃんが運ばれてきた箱を見る。
「……薬少ない」
不安そうに。
回復役だからこそ分かる。
足りない。
今後、もっと必要になる。
その時。
玲奈が静かに言う。
「……怖がってる人、増えてる」
全員が止まる。
玲奈は窓の外を見ていた。
避難してきた人たち。
眠れていない。
子どもが泣いている。
大人も、声を押し殺している。
その空気。
玲奈だけは特に拾う。
「……北海道の話、広がってる」
その言葉。
拠点の空気が少し重くなる。
無理もない。
街が消えた。
人ごと。
そんな話が広がれば。
不安は止まらない。
その時。
白峰 蓮が地図を広げる。
「……次を考える」
短く。
北海道。
東京。
群馬。
線を引く。
「もし侵食型が移動するなら」
「中継地点が必要になる」
その言葉。
全員が地図を見る。
つまり。
群馬も安全じゃない。
通過点になる可能性がある。
その時。
蓮斗が言う。
「……迎え撃つしかねぇな」
短く。
だが。
以前とは違う。
勢いだけじゃない。
準備が必要だと理解している。
その時。
03が壁にもたれて言う。
「……遅い」
全員が見る。
その時。
03が続ける。
「拠点の防衛線が薄い」
「侵入を前提にしてない」
冷静。
容赦がない。
その時。
桐谷 恒一郎が少し笑う。
「なら作るしかねぇな」
その言葉。
少しだけ空気が変わる。
絶望だけじゃない。
動いている。
積み上げている。
その実感。
その時。
美月が静かに言う。
「……ご飯、増やす」
全員が少し止まる。
だが。
黒崎 恒一が頷く。
「大事だ」
短く。
その通りだった。
戦うだけじゃ人は持たない。
安心。
生活。
温かさ。
それも必要。
その時。
外で小さな笑い声が聞こえる。
子どもだった。
一瞬だけ。
空気が緩む。
悠真がその音を聞きながら、小さく言う。
「……守るか」
短く。
だが。
強く。
北海道は崩れ始めている。
世界も変わっている。
それでも。
ここだけは。
まだ人の場所だった。
だから。
止めるわけにはいかない。
その時。
遠くで。
小さく歪みが揺れた。
誰も気づかないほど小さく。
だが。
確実に。
近づいていた。
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