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第138話 「見た者たち」

寒かった。


装備越しでも骨に来る。


ロシア前線。


俺たちはただの兵士だ。


命令通りに動き。


命令通りに死ぬ。


それだけの存在。


そのはずだった。


「……おい」


隣のやつが言う。


「見たか?」


何をだ。


そう返そうとして、言葉が止まる。


見えてしまったからだ。


遠く。


雪の中。


三つの歪みが揺れている。


報告では聞いていた。


未分類個体。


だが。


実物は違う。


見ているだけで頭がおかしくなりそうだった。


その時。


別のものがいた。


一人。


人間。


いや。


人の形をした何か。


そいつが、三つに囲まれていた。


「……終わりだな」


誰かが言った。


普通ならそうだ。


確実に死ぬ。


だが。


次の瞬間。


分からなかった。


何が起きたのか。


三つが消えた。


一瞬で。


跡もなく。


戦っていない。


避けてもいない。


ただ。


“消えた”。


「……は?」


声が漏れる。


止まらなかった。


意味が分からない。


その時。


そいつが動く。


こっちを見る。


距離はかなりある。


なのに。


“目が合った”。


「……っ!」


体が固まる。


動けない。


怖いとかじゃない。


違う。


“理解された”。


その感覚。


その時。


そいつが口を開いた。


聞こえる距離じゃない。


なのに。


はっきり聞こえた。


「……邪魔だ」


その一言で。


全身が震えた。


死ぬ。


そう思った。


だが、何も起きない。


そいつはただ去っていく。


雪の中へ。


何事もなかったように。


残されたのは俺たちだけ。


誰も喋れない。


その時。


隣のやつが震えた声で言った。


「……あれ、人間か?」


誰も答えなかった。


答えられなかった。


だが。


一つだけ確実に言える。


あれは戦場にいていい存在じゃない。


あれは。


“別”だ。


その理解だけが残る。


その時。


遠くでまた歪みが揺れる。


増えている。


だが。


もうそっちは気にならなかった。


それよりも。


さっきの男。


あれの方が、遥かに怖い。


戦場の意味が変わった。


それを、俺たちは見た。


(次話へ)


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