第120話 「次の異変」
静かだった。
拠点。
戦いの余韻。
まだ残っている。
だが。
異変は。
待ってくれない。
「……ん?」
白峰 蓮が顔を上げる。
何かを感じる。
違和感。
いつもの侵食じゃない。
「……どうした?」
蓮斗が聞く。
その時。
「……音がない」
白峰 蓮が言う。
短く。
全員が止まる。
耳を澄ます。
確かに。
何も聞こえない。
風も。
揺れも。
侵食の気配も。
ない。
その“無さ”。
逆に。
異常。
「……ぴー?」
ぴーちゃんが言う。
周囲を見る。
「回復……いらない……?」
範囲。
完全に安定している。
いや。
“安定しすぎている”。
その時。
地面が揺れる。
小さく。
だが。
確実に。
「……来る」
悠真が言う。
短く。
全員が外を見る。
遠く。
何もない場所。
その空間が。
歪む。
黒じゃない。
今までの侵食と違う。
色がない。
“透明な歪み”。
その中から。
何かが出てくる。
ゆっくりと。
だが。
確実に。
「……なんだあれ」
蓮斗が言う。
声が低い。
今までと違う。
本能が。
危険を感じている。
その時。
ぴーちゃんが言う。
「……わからない」
初めて。
判別できない。
モンスターでもない。
侵食でもない。
その存在。
“分類できない”。
その時。
それが完全に出る。
形。
安定していない。
揺れている。
輪郭が。
決まらない。
見ていると。
ズレる。
「……気持ち悪ぃな」
蓮斗が言う。
目を細める。
見ていると。
認識が狂う。
その時。
白峰 蓮が言う。
「……新種だ」
短く。
だが。
確信。
その時。
それが動く。
一瞬。
距離が消える。
目の前に。
「っ!?」
全員が反応する。
だが。
間に合わない。
速い。
いや。
“違う”。
移動じゃない。
“位置が変わる”。
その時。
悠真が一歩前に出る。
反射。
守る。
一撃。
叩き込む。
だが。
手応えがない。
当たっている。
のに。
“存在していない”。
「……は?」
蓮斗が言う。
理解できない。
その時。
それが触れる。
悠真の腕。
一瞬。
その瞬間。
感覚が消える。
「……っ!?」
悠真が後退する。
腕。
動かない。
痛みもない。
ただ。
“無い”。
「ぴー!!」
ぴーちゃんが叫ぶ。
回復。
かける。
だが。
戻らない。
「……効かない!?」
初めて。
通じない。
その時。
それがまた動く。
位置がズレる。
次は。
蓮斗の前。
「……来いよ」
蓮斗が言う。
構える。
だが。
目が。
揺れている。
本能が。
拒否している。
その時。
黒崎 恒一が言う。
「下がれ」
短く。
だが。
強い。
全員が動く。
後退。
距離を取る。
その時。
それが止まる。
追ってこない。
ただ。
そこにいる。
見ている。
何を。
分からない。
その時。
白峰 恒一が言う。
「……違うな」
小さく。
だが。
確信。
「これは侵食じゃない」
その一言。
重い。
その時。
悠真が腕を見る。
感覚が戻る。
ゆっくりと。
だが。
完全じゃない。
残っている。
“違和感”。
その時。
悠真が小さく言う。
「……別の何かだな」
短く。
だが。
確実に。
理解する。
ダンジョン。
侵食。
魔王。
九条。
そして。
これ。
全部。
別。
その現実。
重い。
その時。
それがゆっくりと消える。
歪みの中へ。
何も残さず。
静寂。
誰も動かない。
その時。
ぴーちゃんが小さく言う。
「……なにあれ……」
答えはない。
だが。
一つだけ。
確実に分かる。
これは。
次の段階。
今までとは。
違う戦い。
その始まり。
新しい異変は、始まった。
それは。
理解できない脅威だった。




