7-6 心残り
「……よし」
悪魔たちが語った後で――――カロは白い空間の中、独りで決意を固める。
すると、アイポニーはそれを察してか、
「カロ。願いが決まったのなら、『魂に誓って、宣言する』と口にして」
と、カロを導くのだった。
「……魂に誓って、宣言する」
カロの言葉に従って、目の前にはまだ何物でもない新たな黒い塊が現れる。
しかし、そこから先の肝心な願いとやらが、カロの口からは出てこなかった。
アイポニーはその姿を、他の禁書の悪魔と並んでただじっと見つめていた。
(……この世界の脅威は、すでに去っている。それに、当初の目的である禁書の破壊を願うことはどうしたって叶わなくなった。――――だけど、これでいいのか?)
ここまで、まともに考える間もなくきてしまったような気がしていた。
しかし、そこでふとカロは立ち止まった。
今は悪魔も不思議と話しかけてこない。
当人の願いには、悪魔も干渉できないということなのだろうか。
(しかし、他の願いを叶えたところでアザミあたりは怒りそうだな。……シズクも、怒るかも。いや、2人とも案外許してくれたりして……)
カロの中で、小さなカロたちが意見を言い合う。
反射思考、理性、感情、情けなさ、恐怖、無謀……。
しかし、その中で1人のカロが、
(いっそ、悪魔が言っていたようにみんなからも自分からも記憶を消して、シズクと2人きりになっても……。それでも、許してくれるかな……)
と、言いかけた時だった。
今までバラバラだった小さなカロたちは、一斉に思った。
(でも――――それって、本当に消えたい――――消してしまいたい記憶なのか?)
そして、カロの心にぽつりと声が響く。
――――お前の強さは、孤独にはない。大切なもののために、生きるんだ。
それは、父である安久良の言葉だった。
次の瞬間、最も素直な反射思考は言った。
(――――なら、ダメだ。そんな結末なんて)
続いて、理性が、
(もっと、もっと本当に解決する何かを探すべきだ。少なくとも、心の迷っているうちはそれは叶えるにふさわしくない)
感情が、
(嫌だね、その選択肢は! なんか嫌だ!!)
情けなさが、
(責められることに怯えるより、褒められるってワクワクしたい……!)
恐怖が、
(みんなを忘れて、それは俺と言えないだろ……! どんな結果になるかも分からない確実性もない選択肢に、身を任せるわけにはいかない……!!)
無謀が、
(それよりも、もっといい結論があるはずだ! でもなけりゃ、思いつくまで考えるだけだ!!)
と、カロの思い描いた結末を――――拒絶した。
「……だめだ。これじゃ、やっぱりだめだよ」
そう呟くと、カロの前からは黒い塊が消え去る。
そして、その後で、
「何を……!」
と、食いついたアイポニーに、カロは、
「まだ、願いは決めない」
と、宣言した。
「どうして……! カロ、君は願いを決めていたはずだ……!」
「ああ、そうだ。だけど、それじゃダメなんだよ。――――大切なもののために生きろ。それが、親父からの遺言なんだ」
「……そうだね。でも、守れるはずだ! 今の選択肢でも、玉砂シズクと生きる未来を選んだとしても!!」
「けど、それじゃあいま戦ってる奴らは! 俺をここまで繋いできてくれた奴らは、報われない……!! この悲しみと争いの連鎖が2度と起こらないようにって約束したそんな奴らを前にして、俺が自分勝手に願いを叶えるわけにゃあいかねえよ」
「なら、どうするっていうんだ……! 何を叶えるつもりなんだ……!!」
「それは、今から決める!」
「――――は?」
すると、カロは考えなしなのにそう胸を張る。
そして、
「みんなが納得する未来に。大切なものを守れる未来に辿り着く。辿り着けるように、とことん考える」
と、宣言した。
その時――――カロの胸に小さな白い点が生まれる。
と、それが光を放った後で、
「――――よく思い出してくれた、加那太」
と、どこにも形のない黒い線も見えないのに、安久良のそんな声が聞こえた気がした。
「……親父?」
カロは、その胸の白い光にそう尋ねる。と、そこで、
「どうして、その光が……」
と、アイポニーが呟く。
その呟きは悪魔全員の胸中を表しているようで、悪魔たちは悪魔たちはカロのその白い光に目を奪われていた。
「まさか、カロが親父と口にしたから……」
そこで、サラはハッとする。
そして、その傍でサンズが、
「まさか、まだそこにいたのか……!? 白い魔力となって、そこに……!!」
と、口にした時、カロは、
「そうか――――」
と、何かを閃いたように目を見開いた。
「……ずっと、不思議だった。あの無限の白い魔力はどこからやってくるのか、封者という存在が現れると、なぜ悪魔たちは出てこなくなるのか」
カロの語りは、たった1つの結論に向かって進んでいく。
「――――お前たち悪魔は、封者という存在に勝てない。支配されているんだ魔力すら」
そう口にしたカロを眺める悪魔たちは皆、怯えたように顔を引き攣らせていた。
「それで、なんだっていうの?」
そう食い下がったのは、ヴァ―テルだった。
「たとえ、それに気づいたからってどうにかなるものでもない。でしょ?」
「その通り!」
ヴァ―テルにヴァイオレットもそう続く。
しかし、カロは、
「どうかな。心の中にあった白いこの光がこの世界に存在するなら、封者だって呼び出せるかもしれねえ」
と返すと、悪魔たちが制止するよりも早く、
「なら、試すまでだ。出てきてくれ。――――《尊重》、《行動》、《寛容》、《素直》、《理解》、《行動》、《自立》、《愛情》」
と、その白い空間の中に呼びかけるのだった。
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