7-2 時が満ちる
「罠が張られた通路を使った、最後の鬼ごっこ。いつの日かを、思い出しますわね。――――時間制限があるのが、救いですわ」
遺跡の中。
カロ、飛鳥、良月の3人は――――“デュラハン”2体に追いかけられて、《弌平死ノ太刀》その片割れ1本だけを手に罠の張られた分岐だらけの道に逃げ込んでいた。
「……ところで、どれくらい隠れる必要が?」
良月がふとそんな疑問を尋ねると、カロと飛鳥は顔を見合わせた。
「あの紋章を見るに、そう時間のかかることはなさそうですけれど……」
飛鳥の言葉に、
「しかし、まだ紋章の後でしなくてはならないこともあるかもしれません。今までだって、あれだけ時間もかかりましたし……。そのせいで、“デュラハン”が間に合っちゃいましたし……」
そう、カロが返す。
「なら、1度紋章を確認しに行きますの?」
「そうだとしても、もう少し時間はかけたい。じゃないと、変化量も分からなければ時間の目処も立てようが――――」
すると、その時、飛鳥と良月がカロの口を塞いだ。
そして、しーっと子供を静かにさせるように人指し指を立てると、その前を化け物の影が2つ――――通路の向こうを通り過ぎていった。
「……それもそうですわね」
カロの口から手を外し、飛鳥がそう口にする。と、良月も手を外して、
「なら、自分が時を見て囮を……」
と、言った。
その言葉に、飛鳥は表情を曇らせる。
「あなた、また盾だの囮だのそんなことを言って……」
しかし、そこで飛鳥は言葉を止めた。
「……いや、でもいいアイデアかもしれませんわね」
そして、カロの方を向くと、飛鳥は、
「骨喰特等。しばらくしたら、あたくしたちが囮になりますわ。だから、その隙にあなたはあの紋章の部屋に向かってくださいませ」
そう、告げた。
「正直、あたくしたちは足りない。“デュラハン“という怪物を相手にするには。けれど、それでもあなたが願いを叶えられれば全てが終わります。きっと、全て……。それがあたくしたちの、そしていま外で戦っている赤木アザミたちの、この戦いで死んでいったものたちの希望なのです」
カロは飛鳥の提案に食い下がろうとしたが、そんな言葉を聞いて納得するとこくりと頷く。
そして、そこから数分の間を空けて、“デュラハン”2体がそばまで近づいてきた時――――遂に、その作戦は実行されるのだった。
「行きますよ――――」
良月が飛鳥に声をかけて、通路からわざと目立つように音を立てて飛び出す。と、“デュラハン”たちは狙い通り2人を追いかけていく――――はずだった。
しかし、”デュラハン”のうち1体が足を止める。
すると、
「どうしたんだ……?」
と、困惑する良月の視界の中で、”デュラハン”は良月たちの飛び出てきた通路――――つまりはカロの隠れている方に体を向けた。
「まずい……!!」
見つかってしまっては、この作戦は泡と消える。
それだけは、阻止しなければならなかった。
だから、良月は投げた。
カロのほうへと向かう”デュラハン”目掛けて、最後の抵抗のための道具である《弌平死ノ太刀》を。
そして、それは見事命中する。――――と、良月は”デュラハン”の気を引くことに成功した。
「よし――――」
しかし、その時だった。
「良月!!」
そんな飛鳥の叫びの後で――――良月の体を、自身を追いかけてきていたもう1体の”デュラハン”の爪が襲った。
良月はその勢いに押されて、飛鳥の足元に転がる。と、駆け寄る飛鳥に、
「……っ、殴り飛ばしてくれたおかげで距離が取れました……! さあ、行きましょう……! 出来るだけ、なるべく遠くに……!!」
と、しかし笑って立ち上がってみせるのだった。
そうして、飛鳥と良月はなんとか”デュラハン”を引き付けることに成功する。
と、カロは通路に残った静けさの中から顔を出し、飛鳥たちが行ったのとは反対の円状の部屋に向かって走り去っていった。
先ほどから十分に時間は取ったし、禁書を使えるようになっていたら嬉しかった。そうでなくとも、紋章は少なくとも変化を見せるだろう。
「どういうことだ……?」
しかし、次の瞬間、カロは自身の目を疑った。
紋章の様子は――――全く変化していなかったのだった。
その身に宿るキラキラとした白い光も、部屋の構造も、何も変化がなかった。
「そ、そんなわけ……! 何か足りないのか……!?」
カロはその事実を受け入れられなくて、台座の中心に鎮座している白い14芒星に向かって歩いていく。――――と、その時だった。
紋章は、白の魔力をまたキラキラと瞬かせ始めた。
「まさか、この部屋に――――いや、この台座の中心にいないとダメなのか……!?」
ともなれば、話はだいぶ変わってくる。カロにとっても、囮を引き受けてくれている飛鳥たちにとっても。
「……ともかく、ここにいるしかないか」
カロは少しだけ辺りを見回してから、その場に腰を据える。
紋章は先ほどよりも光を強めていて、この選択肢に間違いはなさそうだった。
「思えば、遠くまで来たもんだ。……ってセリフを、まさか自分が言うことになるとはな」
天井を見上げれば、そこにはただ部屋をキラキラと照らす魔石が輝いていてそれ以外は何もなかった。
「これだけ静かだと、迷っちまいそうだ。――――自分が何を叶えるべきか」
それから、カロは再び視線を地面に戻す。
そして、自身の手を見ると、
「俺は――――禁書を破壊する。2度と、誰もこの力を手に出来ないように。狂わないように」
と、飛鳥と良月に語った願いの内容の続きを口にして、それから拳をぎゅっと作った。
その時、白い紋章が満たされる。
白い光がカロの周りに逆立つと――――カロはその場から消えてどこかへ連れていかれ、部屋にはただ静けさだけが残った。
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