6-6 血が交わる時
飛鳥たちの力を借りて“クラーケン”の触手によるジェット噴射を切り裂き、再びアトムの目の前に返り咲いたエレミヤ。
「――――《黒豹》」
そして、その言葉で魔石が黄色く輝きを放つ。
すると、それに対抗するようにアトムの胸についた《心臓喰い》も赤く光を放った。
次の瞬間――――アトムの仕込み刀から繰り出される剣技は、子供のチャンバラのように出鱈目ながらもものすごい力と素早さを以てエレミヤを襲った。
「――――ッ!! なんだ、この力は……ッ!! 俺のものより、強く赤い……! 何より、光が鈍らない……!?」
エレミヤはなんとかそれを凌ごうと爪で体を守るも、かろうじて致命傷を避けただけで腕や脇腹からは血が流れていた。
それからクラーケンの頭の上を転がってなんとかその場で踏ん張り、“クラーケン“と下半身が繋がったアトムを睨む、エレミヤ。
すると、アトムはぐるりとまるでその結合部が一種の関節であるかのように後ろに向きを変えて、エレミヤと向き合った。
そして、その胸の上では、攻撃を終えてアトムの《心臓喰い》はなお赤く輝いていた。
「まだ……、まだ光るのか……!?」そんなことをしたら……! 死ぬぞ……!!」
「この後に及んで僕の命の心配って……。まだ、弟扱い?」
その赤い光の中で、アトムは刀を構える。
「――――僕らは、敵だ。僕は、お前だけ殺せればいいんだよ」
そして、その光を置き去りにするように、エレミヤの方に向かってずるずるずるとクラーケンの皮膚の上をアトムの上半身が移動し始めた。
「動けるのか……!!」
エレミヤは、遅れて爪を構える。
しかし、そんなものアトムには関係なかった。
ただ爪を弾いて――――そのまま心の臓を突き刺すか、首を刎ねる。
それができてしまうほどの差が、《心臓喰い》を使えるものと使えないものの間にはあった。
「くっ……!!」
「ははっ!!」
足元もおぼつかない中、よろけながら攻撃をいなすエレミヤ。
それを、アトムは自在に“クラーケン”の体の上を動きながら楽しむように追い詰めていく。
そして、その果てでアトムが選んだのは――――エレミヤの心の臓に刀を突き刺すことだった。
アトムは《心臓喰い》を一際赤く輝かせると、エレミヤの両爪を弾き、
「――――今度こそ、その心臓貫くッ!!」
と、刀を構える。
しかし、その時、アトムの視界が揺れた。
バクンッ――――アトムは痛みに似た心臓の高鳴りを聞いて、
(しまった。――――《心臓喰い》を使いすぎた)
と、直感する。
しかし、ブレる視界の向こう。
確かに、エレミヤはそこにいる。
(なら、何も見えなくなったって貫くだけだ……!!)
アトムは覚悟を決めると、そうなってなお刀を強く握り、エレミヤに向かって突き刺した。
ズンッ、ズルルルルルッ……。
肉肉しい感触が、手に伝わってくる。
そこに、行く手を阻む骨はなかった。
そして、刀が根元までエレミヤにどっぷりと刺さると、エレミヤの腕がアトムを抱きしめるように覆い被さってきた。
遅れて、刀を伝う血がアトムの肌に触れる。と、その温かさにアトムは、
「……今さら抱きしめられても遅いよ」
と、呟いた。
その最後の兄弟の時間は、遺跡の入り口に続くこの空間に久しぶりの静けさを与えた。
「し……。ぞ……」
すると、それから少しして、エレミヤの口から漏れる声が微かに響いた。
嫌味だろうか。
それとも謝罪か、恨みか。
どんな言葉が出るにせよ、アトムはそれをちゃんと聞きたかった。
「聞こえないよ」
だから、聞き返す。――――しかし、次の瞬間、その耳に聞こえたのは、
「心臓が痛んで、照準がブレたな。――――そこは、腹だ」
というものだった。
「――――ッ!?」
直後、アトムは危機を感じてその場から逃げようとする。――――が、それよりも早く、アトムを抱きしめていたエレミヤの爪が背中を切り裂いた。
「がっ――――」
アトムは引き裂かれた勢いでのけ反りながら、“クラーケン“の頭の上を繋がったままでよろよろずるずると後ろに下がっていく。
と、そのあとでアトムの胸の魔石が点滅し、アトムは大量の血を吐き出した。
「喰われたか、その力に」
アトムは動悸の早くなっていく心臓を抑えて、その場に倒れ込む。と、同時に、アトムと繋がっている“クラーケン”も倒れ始めた。
エレミヤはその拍子に痛んだ腹の傷口を抑えると、
(俺は、生きなくては……!)
と、その血を見て思う。
しかし、脱出しなければならないのに急に地面が斜めになったことで体勢を崩してしまうエレミヤは、そのままキツくなっていく角度に抗えず宙に放り出された。
それを、見つけたのは――――“クラーケン“の下でその行末を見守っていた文壱だった。
「あれは……!」
文壱は、手を伸ばす。そして、《色即真空》を使おうとした。――――が、
「魔力が、届かない……!」
と、その力を距離が阻んだ。
一方で、今からその落下地点に走り出しても、“デュラハン”たちでさえ抱き止めるには間に合いそうになかった。
ただ、眺めているしかできないのか。
しかし、彼らには諦めるという言葉はなかった。
次の瞬間――――“デュラハン”たちは文壱を担いで、エレミヤの落下地点に向かって走り出した。
「――――おわっ! 何を……!?」
“デュラハン”らの意思は統一されていて、そこに迷いはなかった。
ただ担ぎ上げられていた文壱だけが、困惑していた。
しかし、だんだん落下地点に近づくにつれ、文壱も理解してくる。
「そうか! このまま“デュラハン”の速さで魔術の有効範囲内に入れれば……!」
そして、文壱は再び手を伸ばすと、《色即真空》を使用した。
「まだだ……!! まだ届かない……!!」
しかし、それでも足りなかった。
遺跡を覆うほどの巨体から投げ出されたその体は、追いかけているはずなのにむしろ遠ざかっているようにさえ思えた。
「これでもダメなのか……!!」
悔しさを噛み締める、文壱。
だが、文壱の判断とは裏腹に、“デュラハン”たちは諦めず宙にいるエレミヤを睨むと――――次の瞬間、文壱はエレミヤと同じく空にいた。
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