6-5 何度でも、その眼前へ
「――――待て!」
アトムそっちのけで飛鳥と良月を取り囲む“デュラハン”たちを、エレミヤが止めた。
「俺たちは、こいつらに協力する。協力して、アトムを殺す」
その宣言は、自身の弟アトムに対して完全なる別れを告げるものであった。
「そのあとで、こいつらも殺す」
エレミヤの言葉が、“デュラハン”たちに新たな規則を与える。――――と、文壱も表情を崩さぬままエレミヤからアトムに視線を移し、
「殺されるのは、お前たちの方だけどな」
と、睨んだ。
“デュラハン”たちは、エレミヤの言葉に従って完全に標的を移してアトムに向き合う。と、それを眺めていたアトムは、
「あれれ? そうなっちゃう感じ?」
と、特段焦るでもなく言った。
そして、
「――――じゃ、まとめて潰すね?」
と、続けると――――次の瞬間、エレミヤたちに向かってまるで流星群が降りかかるように6本の触手を素早く何度も叩きつけた。
これでもかと攻撃が続いて、やがて収まると――――そこに残っていたのは、茨の絡み合う緑のドームのようなものだった。
それがじきに解けていくと、中からは飛鳥に加えて神輿を担ぐように大剣を支えていた良月と“デュラハン”たちが姿を現す。
「耐えた……!? どうやって……!」
自分を睨む者たちに、困惑するアトム。
しかし、一方でその光景を見た攻撃の範囲外にいたエレミヤは、
(そうか! ――――周囲に弾丸を放ち、茨をドーム状に張ってその下に大剣を据えることで連打の衝撃をその1点に集める。そのおかげで、あの男と“デュラハン”の力の注ぎどころをシンプルにし、大剣越しに踏ん張るだけで良くなったのか)
と、飛鳥たちがなぜ攻撃カラミを守ることができたのか理解していた。
(しかし、このままでは攻撃に転換できない……。どうするつもりだ)
すると、エレミヤにアトムが言った。
「きっと、最後のピースはあなたですよ」
思わず、エレミヤは文壱の顔を見る。
すると、その時、今までとは違う様子で、ずるりと“クラーケン“の触手が上がった。
「どうして、対クラーケン用の体質の中に魔術を防ぐ体液があると思う?」
アトムがそう口にすると――――次の瞬間、触手の先に魔力がググっと集まる。
そして “クラーケン”の触手は、その場から消えた。
「“クラーケン“と融合して、ようやく魔力ってものがなんなのか感じて見えて操れるようになってきた。おかげで、僕を襲った時のこいつの攻撃を再現できる」
その力を見て、文壱は察した。
「イカの擬態能力!」
「なんだそれは……!?」
「触手は無くなったんじゃない! 透明になっただけだ! ――――来るぞ! 不可視の攻撃が!!」
そう発した言葉の先で、文壱の目には空気の揺らぎが映る。――――と、文壱は飛鳥と良月を触手の脅威から逃すため自分の元へ引き寄せた。
しかし、一方でエレミヤは、
「全員! “クラーケン”に向かって、前進しろ!!」
と、あえて避けるのではなく、“デュラハン”たちに進むことを選ばせる。と、“デュラハン”たちはその言葉を疑うこともせず、“クラーケン”へと走り出した。
当然のようにそのうち見えない触手に払われると、その場に転がる“デュラハン“。
そして、それを文壱が、
「お前! なんで、前に――――」
と、咎めようとした時、エレミヤはそれよりも早く、
「全員! その爪を使って“クラーケン”の触手に喰らいつけ!」
と、命じた。
すると、何体かの“デュラハン”たちはすぐにむくりと起き上がり、近くにあるはずの透明な“クラーケン”の触手にまとわりつき始めた。
そして、そうなってようやくエレミヤは、
「ムチも、根元の方がダメージが少ないだろ」
と、前進させた意味を口にした。
「だから突撃させたのか!」
「それだけじゃない。こうして次の1手につながる」
それからエレミヤはそう言い残すと、自身も“クラーケン”に向かって走り出す。
しかし、胸の魔石は壊れていて先ほどまでの力の3割ほどしか出せていなかった。
一方で、アトムはその様子には気づかず、
「鬱陶しいんだよ!」
と、“デュラハン“を外そうと、触手をぶんぶんと振り回していた。
そうして、ようやく“デュラハン”を振り払った時――――しかし、その足元には1つの影があった。
「“デュラハン”たちが張りついていたおかげで、触手の動きが分かりやすかったぜ……!! アトム!!」
「エレ、ミヤ……ッ!!」
「――――《黒豹》」
エレミヤは爪を突き立て、獣のようにクラーケンの体を駆け上がっていく。すると、アトムは傘の仕込み刀を構えて、
「やるしかないか」
と、それを迎え撃つ構えを見せた。
エレミヤは、最後に両手でクラーケンを引っ掻くようにアトムに向かって思い切り飛び上がる。――――と、エレミヤはアトムの刀をすり抜けて、その爪がアトムの頬を掠めた。
そして、飛び上がったとなれば、落ちるのは必定。
エレミヤはアトムに向かって落下を始めると、アトムも頭上のエレミヤに向かって再び構えを取る。
そこから、間合いに入ってから落ちるまでの数秒――――2人は目にも止まらぬ速さでせめてと受け手の交換をし続けた。
その果て、アトムとぶつかる直前で、エレミヤは“クラーケン“の体を転がるように接触を回避する。と、その横顔を目に見えない触手が叩いた。
「ぐっ……!!」
触手に払われた勢いで、エレミヤの体が宙に投げ出される。――――と、アトムがエレミヤに向かって手を伸ばす。
次に、目に見えない触手攻撃が来るのは明白だった。
しかし、そんな場面を救ったのが――――文壱だった。
文壱は以前飛鳥たちにも見せた渦潮の応用で、回転するようにしながらエレミヤを1度ぐんと後ろへ引っ張る。と、そんな文壱を、
「あの男……!!」
と、アトムは睨んだ。――――しかし、文壱のアクションはそこで終わるわけではない。
文壱は、引き戻した勢いそのままハンマー投げの要領でぐるりと自分の周りを回し、アトムの背後にエレミヤを投げ飛ばした。
「……っ!? もう一度……!? ――――いや、しかし、距離が空いた!!」
すると、アトムはその光景に口角を上げ、触手の擬態を解除する。そして、今度は触手たちの中心をエレミヤに向けて構えた。
「お前になら、効くだろうこれは!! エレミヤ!!」
その様子を見て、
「エレミヤ! おそらく魔術によるジェット噴射だ!!」
と叫ぶ、文壱。
すると、そのピンチを救ったのは飛鳥と良月だった。
「《茨衣封吾》――――」
「《弌平死ノ太刀》――――《風雷雌雄》ッ!!」
エレミヤを狙う6本の触手のうち、2本に飛鳥の茨がグッと絡みついて、2本に良月の放った大剣がぶつかって照準を逸らす。
と、それらは明後日の方向に向かってビームのような水の噴射を放った。
「余計なことを……!!」
ギリッと憎しみを噛む、アトム。
そこへ、最後に残った2本のジェット噴射を回転しながら爪で切り裂いてエレミヤが迫ってきた。
「決めろ! エレミヤ!!」
そんな文壱の叫びに、エレミヤは、
「誰に命令している。……だが、この怒りはいい」
と、爪を突き立てる。
そして、黄色い魔石が光を放つ時、
「――――《黒豹》」
そう、エレミヤは口にするのだった。
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