6-1 遺跡の入り口
アザミたちがリトリーらと決着をつける少し前。
アザミたちと別れた飛鳥、良月、文壱の3人は――――文壱の生得魔術《色即真空》によって引き寄せられた巨大なカプセルのような空気の集まりの中にいた。
その空間は、ゆっくりと海に沈んでいきながらイニシュモア島の遺跡の地下を目指していた。
せわしなく変わる戦況。
そんな不意に訪れた、のんびりとした時間。
そこで、良月はずっと気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、文壱2等はどうして地下の中に禁書の『場所』へ続く扉があると?」
すると、文壱は慣れない魔力のコントロールに意識を向けながらも、
「初めに違和感を持ったのは、なぜ“デュラハン”たちが僕らが来る前に存在していたのか、という点です」
と、答えた。
「なぜ、“デュラハン”が存在していたのか?」
「“デュラハン”は、魔術に対して強い耐性を持つものです。それは、確かに魔術士と相対するなら有利に働く。――――が、それにしては情報がなさすぎる。すでに敵対勢力として認識されているのなら、僕らがイギリスにやってくる前に情報が共有されているはず。けれど、そうじゃなかった。――――つまり、目的は対魔術体質ではない。と、するなら――――」
そこまで言えば、飛鳥も勘づく。
「真の目的は、対クラーケン耐性による水中での呼吸を可能にする体質……?」
「そう。それこそが、真の目的だったはず」
その呟きは、文壱の推理と同じだった。
「まあ、仮設の段階ですがね」
そう、文壱が口にすると、
「確かに、“宝珠”もさらに下を示してはいました……」
と、良月が付け加える。さらに飛鳥も、
「どのみち、そうだとしてもそうでないとしても確かめなくてはならない。ということですわね」
と、海の底を見つめるのだった。
しんとした海に似た冷たく静かな時間が訪れて、一同が真剣な目つきになる。
その時だった。
「……しっかし、おっそいですわね。潜っていくの」
飛鳥が、包まれている空気の空間の進む速度の遅さに言及した。
「し、仕方ないじゃないですか! この水流コントロール意外と難しいんですよ!」
「これじゃあ着く前に争いが終わってしまいますわ」
「あんまり言うと、飛鳥さんだけ外に出しますよ」
「あら、この様でそんな繊細なコントロールができまして?」
「……本当にやってやろうかな」
「その時は、良月も道連れですわ」
「ええ!?」
「その時は、すみません。良月さん」
「ええ!?」
さっきまでの静かな時間は、どこへやら。
“宝珠”の導きに従い移動しながらそんな会話を交わしていると、そのうちにいつもの温度感が戻ってくる3人。
しかし、そこに迫る影があった。
その異変に初めに気がついたのは、良月だった。
「む……? いま何か動きませんでしたか?」
海中の闇に目を凝らして、良月が言う。
あたりにはまだ岩も見えなくて、時折、泡がどこからかやってきては海面に消えていくだけだった。
すると、飛鳥が、
「……そういえば、サメとかウツボとか。海洋生物が襲いかかってきた時って、どうするんですの?」
と、首を傾げる。そして、文壱の、
「いや、その時は《茨衣封吾》で追い払ってくださいよ……。弾、飛ばせるんでしょう?」
という指摘に、
「ああ。確かに」
そう答えた次の瞬間――――飛鳥は横目で何かを捉え、そしてその何かに向かって、
「《茨衣封吾》」
と、魔力の弾を放った。
海をまっすぐ進んでいく、魔力の弾。
それが、何かに当たるとボンと茨になって広がった。
「当たった……!?」
そう驚く良月に、
「失礼ですわね! あたくしは、そんなノーコンじゃないですわ!」
と、飛鳥が返す。しかし、良月は、
「そうじゃなくて」
と、それを否定し、
「そうじゃなくって。――――ってことは、何かいたってことですよね」
と、続けた。
その言葉の直後――――飛鳥の放った茨がズタズタに引き裂かれる。
そして、次に闇の中に浮かんてきたのは――――“デュラハン”たちだった。
「デュ、デュ、デュ、デュラハン!? どうしてここに!」
良月の驚くさまに、
「向こうは”人魚の滴”を先に入手していたんだ! 遺跡のことは、当然把握しているはず!」
と、文壱は冷静に分析する。
そして、
「飛鳥、その弾で時間を稼いで!」
と、即座に指示を飛ばした。
「……っ、お任せですわ!」
飛鳥の放つ弾丸は、何体かの“デュラハン“を後方へと攫っていく。
しかし、それらをすり抜けてなお、“デュラハン”たちは迫ってきた。
そのうち、“デュラハン”の1体が飛鳥たちのいる空気の空間に飛び込んでくる。――――が、その時だった。
「――――ふぅうんッ!!」
良月が、まるで野球選手のように大剣を振るって“デュラハン”を打ち返す。――――と、ダメージはないものの、“デュラハン”は踏ん張りの機会ない海の中ということもあってずいぶん遠くまで押し戻されていった。
「良月……!!」
「飛鳥2等、近づいてくるやつは自分がやります!! だから、ともかく数を!」
良月の言葉に飛鳥は頷くと、それから何度も危機的状況を迎えつつも、文壱が、
「あった! 入り口!!」
と、神殿の入り口のような空間を見つけたことで、一同はなんとか逃げおおせたのだった。
▼ ▼ ▼ ▼
バシャッ――――海水のカーテンを、飛鳥たちが突き破って転がる。
神殿の入り口に続く道には、文壱が生み出したような空気の空間があって、飛鳥たちはそこに飛び込んできたのだった。
「こ、ここが……。禁書の『場所』ってやつなのか……?」
文壱が、顔を上げる。
すると、目の前を跡の入り口までの道沿いにつけられた魔石が順々に光を灯し始め、それから先に現れたのは――――6本の足だった。
「そうか、そうか……! 嫌な予感……。当たると思ったんだ……!!」
そう呟く文壱の横で、飛鳥が、
「これは、まさか――――“クラーケン“とやらですの!?」
と、目を丸くする。
その言葉通り、さらにずるりずるりと前に出てきたそれは、足は10本中4本欠けているものの確かに新緑色の体をした遺跡までの道を覆うほどの巨大なイカに他ならなかった。
「そうだよ。こいつは、“クラーケン“。元は、この場所の守り神。――――そして、今は僕の手下さ」
加えて、声が聞こえてくる。――――と、一同は体を強張らせて目を見開いた。
なぜなら、その声には聞き覚えがあったからだった。
「――――君は、アトム……!?」
良月の驚きに――――“クラーケン”の頭の上にいるエレミヤの弟であるアトムは、ずいぶん大人びた表情でニヤリと笑った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
励みになりますので、良いと思ってくださった方は【☆】や【ブックマーク】をポチッとしていただけると嬉しいです!




