5-end 嵐に似た近接戦のその果てで
同時刻。
シズクとレンの戦いは、アザミたちとは真逆で力のぶつかり合いへと突入していた。
「――――《砕雷狂嵐》ッ!!」
レンのトンファーが光を放って、次に地面を砕く。
それをシズクは土人形特有の身軽さで躱わすと、今度はシズクが前にステップを踏んでレンに殴りかかった。
「来るか!!」
レンは、シズクの攻撃をトンファーで受け止める。
それだけでなく、蹴りやタックルだって互いにぶつけ合った。
しかし、先ほどまでと違うのは――――やはりシズクがカロの白い魔力を纏ったことで、強度も素早さも全体的に高まったということだった。
レンは力だけでは押し込めない場面が増えてくると、「おおっと!」や「甘いな」などと遂には攻撃を躱すことを楽しむようになり始める。
そして、その均衡はすぐに崩れた。
何もないはずの草原。
だが、レンはやり取りを繰り返しながら移動する中で、転ぶ。
それは殴り合いの中で、シズクが足元の石を蹴り上げてそれをレンに向かって殴り砕き、破片によってレンの目を眩ませたことが要因だった。
レンは目に石が万が一にも入らないよう目を閉じた上で腕で防ぎながら、同時にシズクから距離を取ろうと後ろに退ける。
と、足をついたそこにあったのは――――先ほど自身で砕いてみせた、ひび割れた地面だった。
ガッと足を取られて後方に傾く、レン。
そこを、
「めがとん・くらっしゅ――――」
と、シズクが襲いかかった。
しかし、その時、レンは笑う。
「待ってたぜ――――」
そして、石の破片を防いでいた腕を思い切り払うと、その影からはトンファーが飛び出してきた。
「――――《砕雷狂嵐》ッ!」
拳とトンファー。
魔石の力を借りた、2つの巨大な力がぶつかる。
「かかったな! どんどん動きを増していくお前に勝つなら、やっぱりここだ! 力で押し勝つ! それしかねえ!!」
「負け、ない……ッ!!」
だが、その言葉とは裏腹に、転びかけて偶然にも状態を低く構えられたことで地面にも踏ん張りが効くレンとそのレンを咎めようと襲いかかりやや状態の浮いているシズクではレンの方が有利だった。
故に、シズクはレンのトンファーによって追い返されてしまう。
「くっ……!」
好機を逃してしまったシズクを、レンは笑って見つめる。
「そうか……! 死ぬのが怖いか! ――――土人形のくせになぁ!!」
すると、今度はレンから仕掛けた。――――そして、もうレンは止まらなかった。
シズクが攻撃を躱しながら攻撃に返す一方で、レンは攻撃を食らいその場で自身の生得魔術“《V・4》”で即時回復しながら戦う。
それは、シズクにとってはまるで消え去らない闇に向かってひたすらに拳を振るっているようだった。
さらに、その結果は――――手数という形で現れる。
簡単。
避ける必要のあるものとないもの、恐れるものと恐れないものでは攻撃を繰り出せるタイミングの数が違う。
それによって、削られる精神と募る焦り。
「そんなもんか! 結局、お前の覚悟ってやつは!」
さらにそんな煽りが加わると、シズクはむきになり、多少のダメージを許容しながら右腕を全力でレンに向かって振るった。
それを、レンは大振りになったそれをあえて受けた。
そして、鼻血を流しながら踏ん張って耐えきると、《狂嵐》の風の力でシズクの右腕を弾いた。
シズクの腕が上ずる。と、しばらくぶりにレンのトンファーがシズクの腹を狙う。
それを、シズクは何とか左腕を差し込んで受けた。――――しかし、
「――――《砕雷狂嵐》」
シズクは――――次の瞬間、左腕をぶち抜かれる。
と、左腕ごと魔石具のグローブははるか彼方へ。
コアもやや露出し、シズクは風に吹かれる風見鶏のようにくるくるとその場で回った。
「めがとん・くらっしゅ――――」
しかし、シズクは一歩も引かず、むしろその殴られた勢いのまま右手で殴りかかる。
否――――レンに勝つなら、今しかなかった。
その行動に、レンも1度は目を丸くするも、次の瞬間にはにやっと笑って、
「――――《砕雷狂嵐》ッ!!」
と、それに自身のトンファー―をぶつける。
草原の真ん中、白とオレンジの魔力がぶつかった。
2つの力は、拮抗する。
しかし、
「死んでも殺す……!」
レンがそう言ってグッと押し込もうとすると、オレンジの魔力がその意志に従うように力を貸した。
それにシズクは、
「……っ、私は死んでもなんて言わない」
と、抗う。
「あ?」
「帰る。生きて帰る。帰る場所が、幸せが、未来が――――私にはある」
そして、そう宣言した時――――白い魔力がロケットのエンジンのようにぶわっと溢れ出して、シズクの拳がトンファーをグググッとそれを押し返し始めた。
「俺たちからそれを奪っておいて、お前がそう言うのか!」
白とオレンジの輝きは、やがて周囲を包み込む。
そして次に、それが晴れた時、シズクは棒立ちで――――その足元には、右腕の捥げたレンが膝をついていた。
「あー、やべぇ……。魔力切れか、くそ……」
右腕から流れ出る血が、止まらない。
レンの魔力は、そのほとんどがトンファーの攻撃に使われてもう残ってはいなかった。
レンはその場に横たわると、その目にはもう何も映っていなかった。
だから、レンは自白する。
(――――最後に勝ちたいと思っちまった。岩手様、あなたのことを真正面から肯定したくなっちまった。胸を、清々しく胸を張りたかったんだ。力で……。あんたの魔石具で……。あんたの復讐は、この手でしっかり果たしたんだって……)
心の中で、誰に伝えるでもなくそう吐露した。
きっと紫衣羽だけには、その気持ちを知ってほしかったのだろう。
緑の芝を赤い血が染めると、シズクはレンの最後を見届ける。
と、その背中に、
「あんた、毎回ボロボロじゃないか?」
と、アザミが声をかけた。
「アザミは、いつも遅い」
振り返って、シズクがそう答えると、
「うっせ」
と、アザミが返す。
そして、シズクとアザミは互いに残った手でコツっと拳を交わすと、ここに長きにわたる因縁に決着がついたのだった。
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