5-4 復讐、果たされる
型に囚われず戦いの中で新たな魔術を次々と生み出し始める、アザミ。
かつての仲間であったルイスの魔石具を指輪として新たに手に入れた、リトリー。
風を操るブレスレットの魔石具との組み合わせによってトンファーの攻撃を進化させた、レン。
カロから魔石を通じて白い魔力を受け取ることでそんなレンと張り合う力を得た、シズク。
4人は、それぞれ今が1番強いと言える状態で対立する。
と、初めにぶつかり合ったのは――――アザミとリトリーだった。
「魔術的恍惚感に入ろうが……!! 別に急に強くなったわけじゃないはずです!!」
「そうかもな! 素の強さが顕になる、あたしにはそれでいい!! これでも素質だけなら、結構期待されてた方なんだよ!!」
リトリーの振るう刀を、アザミは細かく足元や手元を爆破させながらその勢いで躱しつつ付かず離れずの位置で隙を探る。
しかし、それはリトリーも同じでお互い最低限の攻めだけで受けに回っていると、当然戦いには進展どころか粗すら生まれなかった。
そこで、アザミが動く。
アザミはあるところで攻撃の手を止めると、自分の足元を爆破させる感覚を短くし、リトリーの周りをぐるぐると回り始める。
まるで台風の目に閉じ込められてしまったリトリーは、しかし、冷静だった。
(ぐるぐると、子供騙しな手……)
リトリーはその流れを見極めると、
(――――なら、あえて仕掛けさせる。どうしたって、向こうが痺れを切らすのが先のはずだ)
と、じっとその時を待った。
上がる土煙。
それが、リトリーの視界からアザミを隠す。
そして、次に煙が晴れた時――――そこにアザミはいなかった。
ただ、リトリーの周辺に円状の深い溝を残して。
(爆発で溝を……!? ならば――――下!)
直後、リトリーは跳ね上がると地面に向かって刀を構える。――――と、地面の中からは、マグマのようにアザミが炎を纏いながら勢いよく飛び上がってきた。
まさか手を読まれているとは思わず驚くアザミと、その攻撃に恐れず刀を構えるリトリー。
「刀!? ――――っ、焼き切ってやる!」
「炎ごと切る――――」
2人はぶつかるとその赤い炎は弾けて、赤い影は空へ、黒い影は地面に転がった。
「あいつ、あの瞬間に切りやがって……!」
赤い影――――アザミは、血を流していた。
すれ違いざまに身を捻ったものの、リトリーの刀によってその左頬と左腕を深く切られていた。
「……っ、今ので仕留めきれなかったか」
黒い影――――リトリーは、アザミを見上げていた。
そして、アザミの炎によって右目右腕以外の全てに刻まれた火傷痕を悔しそうに押さえていた。
やがてアザミは着地すると、リトリーに、
「その身なりでまだやるのか?」
と、問うた。
「なに勝手に終わらせてるんですか……」
アザミの体の一部に傷を入れたとはいえ明らかにアザミより負傷している、リトリー。
しかし、アザミの視界の中で、リトリーは満身創痍ながらよろよろと立ち上がる。
そして、
「死ぬまでやる。そうでしょう? 終わっちゃいない。まだ何も……。リトたちの戦いは、何も終わっちゃいないんだ……!!」
と、アザミを睨み返した。
次の瞬間――――アザミはその場で宙返りする。と、その足元を3枚のコインが襲撃した。
「危なっ――――」
「これでもダメなのか……!!」
歯軋りをするリトリーの元に、コインが1つに戻って帰っていく。
すると、そのコインをリトリーは辛うじて火傷を逃れた右手で受け止め、右目で見つめた。
「どうせ死ぬなら、賭けてみますか。――――リトの中の、怒りと可能性に」
そして、リトリーはアザミに向かってコイントスをするように手を伸ばす。と、静かに目を閉じて、
「岩手様から始めてもらったお金……。あの時は嬉しかった。自分に価値が生まれた気がして。何より、微笑みかけてくれた岩手様の顔が。――――だけど、あの光景はもう取り戻せない。もう、あの人はこの世界のどこにもいない」
と、呟き、
「お前たちのせいで」
と、涙を流しながらアザミを見た。
その瞬間、コインがパリンッと弾ける。――――と、コインに内包されていた魔力が一気に溢れ出し、リトリーの体を完全に治した。
リトリーは当事者ながら自身に驚いたような目を向け、それから、
「《コンティニュー》……。それが、この魔術の名なのですね、岩手様……」
と、治った体を見て、そう口にした。
「死してなお、リトを助けてくださるとは……。――――その期待に、リトも答えます。あなたのくれたこの身と、この刀で」
リトリーは、刀を手に取り、構え、両手をぐっと握る。
そんなリトリーの目と目が合うと、一方でアザミは姿勢を低くして構えた。
そして、直後――――足元を爆発させて加速し、リトリーに迫った。
左腕を負傷しているアザミはもはやハンマーを振るえず、爆破を叩き込むには近づく必要があったからだった。
一方で、リトリーもそれを待ち構える。
速度勝負に持ち込んでは、勝ち目などないからだった。
だから、一瞬の隙を、好機を、掴むしかなかった。
刹那――――リトリーの前にアザミが到達する。
しかし、アザミはそのまま攻撃することなくリトリーの頭上を飛んでその背後に、リトリーも刀を振らずそんなアザミの着地を狙った。
アザミが右手をついて着地したところへ、リトリーが刀を振り下ろす。
しかし、それすらも寸前のところで躱しながらアザミは、さらに刀を振るったリトリーの背後へ回り込む。――――すると、それを待っていたかのようにリトリーは、
「――――《銀牙万咬》」
と、瞬時に振り返って、魔石を赤く光らせた。
これが力比べであれば、あるいはアザミが生粋の戦士であれば、アザミはこの攻撃に真っ向から立ち向かっていたかもしれない。
しかし、アザミにはもはや余裕がなく、なによりリトリーは姉の仇だった。
そんな状況で、馬鹿馬鹿しくその攻撃とぶつかり合うなんて矜持をアザミは持ち合わせていなかった。
だから、体を捩って躱す。と、リトリーの斬撃は新たにアザミの右太ももを引き裂いて傷を作った。――――が、関係ない。
アザミの右手は、遂にリトリーの顔を掴んだ。
「――――《爆花爆々》」
次の瞬間――――リトリーの顔を、体を、爆発が連鎖的に駆け抜けていく。
と、遂にその刀は地面にカランと転がり、
「あたしだって、あの日で戦いが終わったなんて思っちゃいなかったさ。――――だけど、これでようやく止まれるな。あたしも、あんたも」
そんなアザミの言葉の後で、草原にはどさりと黒い塊が寝そべるのだった。
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