4-end 死闘決着
見たくもない記憶が、一瞬で脳の中を駆け抜けていく。
そして、ようやく天日はそこから解放された。
イニシュモア島。
今は、カロとの決戦中に邪魔しにきた安久良を殺したところで、その安久良に白の魔力を流し込まれたところだった。
どんな攻撃を喰らうよりもおぼつかないその足取りで天日は上体を起こし、安久良の傍にしゃがんでいたカロを睨む。――――と、そこで、その異常に気がついた。
カロの中には、白い魔力があった。――――そして、それはカロを包む。
「さっき他人に理由を求めるな、って言ったよな。――――それって、お前のことか?」
白い光の中から、カロが言った。それに、天日は顔を顰める。
「あ?」
「いつまでも最強に執着してんのは、てめえじゃねえか」
「本質が見えてねえな。俺は強い奴を倒すっていう、自分の心に従ってるだけだ」
すると、次にカロは立ち上がり、手でその魔力たちを払う。
「なら、俺も生きてシズクの元に帰るっていう、自分の心に従うことにするよ」
雪のように宵の闇に煌めくその中で、カロを囲う禁書たちは全て白のページを開いていた。
カロの髪が、白く染まる。
しかし、それは先ほどまでの黒い魔力によるものとは違い、その髪色も瞳の色も生命力で溢れていた。
すると、それを見て天日も笑った。
「もしかしたら、お前以上に強い奴なんてもう会えないかもしれねえな」
そして、禁書から黒い魔力を集める。
「……そうでなくちゃな。だからこそ、叩き潰す価値があるってもんだ!」
天日の瞳の中のカロは輝いていて、カロの瞳の中の天日は笑っていた。
しかし、次の瞬間――――互いは、互いの視界から消える。
「――――《魔蜘蛛姫ノ綴織》」
「《五亡星》――――」
そして、その火花は空に浮かぶ巨大の月の中で交差した。
そこには小細工などなかった。
続くのは、ただの殴り合いである。
もはや禁書を使用することが息をするレベルで身についている2人は、攻撃を避けることなく互いの拳が当たったそばから時間を戻し、あるいは高速で傷を補修し、1歩も退くことはなかった。
変化が起こったのは――――とある瞬間に、天日が今までのラッシュよりも一瞬長く溜めを作って殴りかかったことだった。
一瞬生まれた空白時間の中で、それをカロが躱す。
そして、カロは拳を強く握ると、天日の腹に叩き込もうとした。
その手を、天日は待っていた。
天日は振り切った腕を呼び戻しながら、同時にカロの肘から先を捻じ切る勢いで捻る。――――と、そのまま正位置に戻った両手を強く握り、空間をヒビ割りながらカロの顔に向けて両腕を振るった。
もらったと笑う、天日。
しかし、それでも先に命中したのは――――カロの拳であった。
「ぐっ――――」
それは、カロが禁書を取り込んだ時に見せた背中から増殖した腕によるラッシュ攻撃だった。
そして、カロは壊された腕も《魔蜘蛛姫ノ綴織》と禁書《妄信》の魔力の粒子で治すと、そのラッシュに加わった。
「――――だッ! だッ! だッ! だぁッ!!」
「がッ、ぐッ、おぁ――――」
そのラッシュに飲み込まれていく、天日。
しかし、天日だって伊達に神夜と並んで最強と称されていたわけではない。
刹那――――天日は、カロの偽の腕を掴んでみせる。
すると、天日はそれを握り潰し、霧散させた。
そして続けて、天日はどれだけ殴られようと逆にラッシュを仕掛けるように反す刀で腕を掴み、その本数を減らしていった。
やがて、互いの本当の拳がぶつかり合う。――――と、それは白い魔力と黒い魔力をかたや氷ようにかたや雷のように迸らせながら空を割った。
それから、2人は互いに大きく飛び退き、体勢を整える。
そして、2人は息を合わせたように地面を強く蹴ると、白と黒の軌跡を描きながらもう1度中央でかち合った。
2人には、なんだか予感がしていた。
これで、今までの全てが終わるという予感が。
だから、そこに言葉は要らなかった。
要るのは、ただ自分の出せる最高の魔術で相手を倒すという意志だけだった。
「――――《魔蜘蛛の糸》」
「《五亡星》――――」
ぶつかり合う――――カロの真っ白な魔術のムチと天日の黒く歪んだ拳。
すると、天日が、
「――――かぁッ!!」
と、声を上げて、拳を押し込んできた。
「……っ!! ……っ、ぁ、ぁあああああああああッ!!」
しかし、負けじとカロも対抗する。
そして、カロは天日の拳を弾くと、夜空に向かって手を掲げた。
「ありったけ、寄越しやがれ!」
そう口にした途端、カロの手から月をまるで一直線に紡ぐように白い光が飛び出す。――――と、さらにその手を背中から生えてきた腕たちが共にその光を握り、支えた。
「それが、お前の全力か……!!」
空を覆う闇を突き抜けるそれは、まるで月と地球とを繋ぐ一筋の天の糸のようだった。
天日は感動する覚えるほどのその美しさに、表情を明るくする。
そして、強く強く大地を黒で染め上げると、自身の拳に黒の魔力を込めた。
「――――《廻天》ッ!!」
カロがそう宣言した次の瞬間――――その白い光線が、天日に向かって振り下ろされる。と、天日も、
「――――《壊天》ッ!!」
と、拳を振るって、それにぶつけた。
力は拮抗する。
そして、またも天日が押し込んでいく。
「俺の魔力はオレンジ……!! 強けりゃ強いほど燃えて、それに禁書が呼応する……!!」
「……っ!」
カロの白い魔力はその圧に押され、黒い魔力はカロごとこの世界を壊してしまいそうに血走っていた。
「俺じゃ、俺の魔力じゃダメなのか……!?」
しかし、その時、カロの頭の中に安久良の声が響く。
――――お前の強さは、孤独にはない。大切なもののために、生きるんだ。
すると、その背中に小さな白い魔力が灯った。
「大切な、もののために……」
そして、その頭の中には――――シズクの姿が浮かぶ。
「ああ、分かってる。俺は――――」
カロはそのうざったくもある最後の言葉に、自分の情けなさに、歯を食いしばる。――――と、次の瞬間、強い目と意志を持って、
「シズクの元に――――帰るっつってんだろうが!!」
と、前を向いた。
カロの白い光は、カロの言葉に応えるように力を増す。と、その時――――天日の黒い拳に白いヒビが入った。
「なっ――――。……っ、ぁあああああああああッ!!」
自分を押し込んでくるその力に、地面が砕けるほど踏ん張って押し返そうとする、天日。
しかし、カロの、
「消えやがれ!!」
という言葉をきっかけに白の光はさらに力を増すと、その先で天日は夜を奪われたかのように白い光に包まれた。
「俺が、俺が負けるのか……!?」
天日は、その光を前にして困惑したようにそう漏らす。しかし、次の瞬間には、
「――――そうか。――――そうか! そうか!! 」
と、口角を上げると、
「――――まさに絶頂ってやつだ!!」
と、黒い魔力を再度その拳に宿して、ぶつけた。
イニシュモア島の草原を、白の光が満たす。
と、その光が晴れた時、カロは上を向いていて天日はその場に倒れていた。
「ふぅーっ……」
カロが長く息を吐く。
その時、カロの背中からは白い光が別れを告げる涙のように儚く散りながら、空へと昇っていった。
「最後に押し返せたのは、きっと……」
静かな風が草原をなでると、天日と安久良のもとから禁書が集まってくる。そして、その光景を見ると、カロは、
「――――全部、終わらせなくっちゃあな」
と、呟いた。
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