4-3 開かれた運命の扉
「俺に、お前の《王魔伽刻》効かないみてえだな。神夜」
天日が特魔裏切りを決めてから幾許かの月日が流れた、雨の夜。
天日は、笑った。
未来で旧特魔と呼ばれることになるその地下で、天日と神夜は対峙していた。
「なぜ、こんなことを……」
神夜が問う。すると、それに天日は、
「――――だってつまんねえじゃねえかよ、こんな世界」
と、答えた。
「力もないのに、当主になるために血反吐を吐かなきゃいけないやつ。力がなくて、当主にもなれなくて心を閉ざしたやつ。――――そして、力があるせいでなりたくもねえ当主になって別人のようになったやつ」
「……!」
「それと、力があるのに当主にもなれず全て奪われたやつもな」
「……そう。あなたも絶望したのね、この世界に」
「不満だらけの世界なら、俺がこの手で変えてみせる。――――そのために、禁書が必要なんだ」
天日の言葉に、神夜は苦虫を噛み潰していたような表情になる。
その服にも体にも血が飛び散っていて、傍目には天日が優勢を取っているように見えた。
しかし、ずっと月日が開いたとはいえ、そのことは天日にも予想外だったようで、
「しかし、久しぶりとはいえこんなに手応えなかったか? お前……」
と、その拍子抜けな状況に天日はそう漏らす。――――と、そこで、天日は傷跡を辿って気がついた。
「……子供か!」
そう、神夜は全身に傷を負っていたが――――唯一お腹だけは傷ついていなかったのである。
「お前、それで本気が出せてないってのか……? 俺が、ここまで計画してどれだけこの日を楽しみにしていたか!!」
真実を知り、怒りを露わにする天日。
しかし、その時――――一瞬の隙をついて、視界の中から神夜が消えた。
「――――《王魔伽刻:1の刻》」
次の瞬間、天日の周りを――――かつて“鎖断会”を襲撃した時に見た、黄色の紋章が取り囲む。
しかし、天日はその現象に対して即座に手を左右に伸ばすと、自身の赤とオレンジの混ざった魔力を周囲に解き放ち、一斉に紋章らを砕いてみせた。
「分散した死の紋章か。しかし、こんなもの――――」
余裕綽々とまではいかないものの、焦った表情は決して覗かせない天日。
しかし、そんな天日に、
「――――1個、逃してるよ」
と、神夜が言った。
神夜のその言葉通り、天日の背後には1つだけ紋章が残っていた。
すると、次の瞬間――――残された紋章は天日の左腕に張り付く。
と、四方から見えない圧力が、その腕をバキバキに押し潰した。
「潰れ――――」
その能力の内容通り、紋章によって腕が圧死した。
さらに天日がその痛む腕に気を取られている隙に、目の前にひょこっと神夜が現れる。――――と、神夜はそのまま手から胞子のような魔力を放った。
「《王魔伽刻:2の刻》――――」
次の瞬間――――天日は意思とは関係なく、まるで眠ってしまうかのように意識を持っていかれる。
それは、一瞬に過ぎなかった。――――が、しかし、天日の意識が再び戻ってきた時、天日はすでにツタンカーメンよろしく黄金の巨大な棺の中にいた。
「《王魔伽刻:3の刻》……!」
その正体さえも、天日は知っていた。
そして、天日は笑う。
「……死ぬか心の底から絶望するまで出られない檻、だったっけか?」
そして、まだ生きている右の手で拳を握ると、
「俺の進化した《魔術:強化》――――《壊灰廻快》と、どっちが強いかなぁッ!!」
と、空間にヒビを入れ、それからひたすらにあたりを殴った。
結果、しんとした地下空間に作られた黄金の棺は、ぼこぼこと何度も身を沸騰させるように膨らませて――――やがて打ち破られる。
と、中から姿を現した天日は、
「……うーん。これは、禁書を取りに向かったか?」
と、棺と戦っている間に誰もいなくなってしまったその空間を見回して言った。
▼ ▼ ▼ ▼
一方、その戦いの裏で――――もう1つの戦いがあった。
「ヒュウガさん! どこに向かおうってんです……!! あんたの役目は、表で大量の魔石具使いどもと戦うことだ!!」
「緋山――――いや、骨喰安久良……!!」
それは、通路の緊急シャッターや全体を監視するための監視室を占拠したヒュウガと、その異変に気がつきやってきた安久良の間で起こっていた。
おそらく立場を見るに何かを決行したのはヒュウガのほうで、それを止めに来たのは安久良であったはずだ。
なのに、安久良を見るヒュウガの目は怯えていて、その指はどこか不安げに震えていた。
そして、その手こそが――――自体をさらに最悪へと急転させる。
「あんた、そのスイッチ押すつもりか……!」
ヒュウガの前にある机には3つの鍵が刺さっていた。
そして、その目の前にはガラス蓋で守られたボタンと――――パネルには“開錠承認許可”の文字が浮かんでいた。
「すまない……!」
ヒュウガがそう口にすると、安久良は止めるためにヒュウガに向かって突っ込む。
「婚約者なのか! あんたをそうさせたのは――――」
しかし、ヒュウガは再度、
「――――すまない」
とだけ言うと――――その到達よりも早く確かな力と意志を持って、拳をそのガラス蓋ごとボタンに叩きつけた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
励みになりますので、良いと思ってくださった方は【☆】や【ブックマーク】をポチッとしていただけると嬉しいです!




