3-end その最後
禁書に飲み込まれかけて暴走する、カロの攻撃。
しかし、それを天日は飄々と躱すと、その眼前に迫り、そして今カロに向かって強く握った拳を振り下ろした。――――その次の瞬間だった。
「……! お前……!!」
天日の表情が、変わる。
その拳が貫いていたのは――――安久良だった。
「1冊分、貰っていくぞ……!!」
「まさか――――」
天日が何かに気がついて、拳を引き抜こうとする。――――が、安久良はそれをガッチリと両手で掴む。
「抜けん――――」
「――――逃しは、しない!!」
すると、次の瞬間、安久良の腹から天日の腕を通じて流れ込むのは――――安久良の白い魔力だった。
「……ッ、う、うぐぐぐぐぐぐぐ……!! ぬぁあああああああ……ッ!!」
その光景が到底受け入れられないのか、天日は白い魔力に侵食されていく自分の腕を見つめながら無意識に首を横に振る。
と、あたりに黒いヒビが生まれるほど抵抗しながら、それをなんとか引き抜いた。
天日は引き抜いた反動で地面に転がると、頭を抑えて身を縮めてのたうち回る。と、安久良もその場にどさりと崩れ落ちた。
それでも、安久良はまだ死んでいなかった。
やらなければ、ならないことが残っていたからだった。
「加、那太……!」
安久良は、カロが地面についている強張った手を握る。
と、次に、
「俺が、戻してやる」
そう言って、その手を温かな白い魔力で包んだ。
すると、その手の強張りも、剥き出しの歯も、トラウマを濯ぐ気もない脂汗も段々と和らぎ始める。白い魔力がカロの中に溶け込んでいくその様は、カロが渇望し続けた愛そのもののようだった。
ハッと目覚める、カロ。
その表情は、禁書3冊を取り込む前の子供っぽいものに戻っていた。
「親、父……?」
腹に穴の空いた自分の父の姿を見て何と言っていいものかどんな感情を抱けばいいものか分からず、自然とその言葉だけが口から出た。
「な、なんだよこれ……!」
そして遅れて、その傷口を《魔蜘蛛の糸》で塞ごうとした。――――しかし、それを安久良が手を掴んで止めた。
「無駄に魔力を使うな、カロ」
その顔を見ると、もう助からないことだけは明白だった。むしろ、いま生きているほうが不思議だった。
安久良はそのままカロの手をグッと握り、
「加那太。――――想像だけじゃ、渇望は越えられない。越えようとすれば、その身に余る力がお前を喰らってしまう」
と、続けた。
「でも、それじゃあどうやって……」
「あいつには、渇望がある。この世界を飲み込むほどの、空虚が。――――だけど、お前にだってあるものがあるはずだ。失うことを考えるんじゃない。大切なものを守ることを考えるんだ。――――お前の強さは、孤独にはない。大切なもののために、生きるんだ」
そう伝えると、安久良の手にかかる力が少し緩む。
「俺は神夜を生き返らせるまで死ねないと思ってた。……たとえ、今のお前を見捨てても」
そして、安久良が、
「だけど、お前のためなら死ねるんだな。俺は」
そう笑った時、その手は地面に落ちた。
「何も怖くなかった。こうして死ぬことでさえ。俺は、加那太、お前に何もしてやれなかったから、最後に少しでもお前のために何かできるなら……。できたなら、それで良かったんだ……」
「なんだよ、なんで最後だけ父親みたいに……! なんで良いやつになろうとすんだよ……!!」
カロが、その手を拾い上げる。しかし、その手にもう力は戻らなかった。
「なあ、加那太。俺は、知ってたんだ。――――俺は神夜に愛されていないって。だけど、神夜はお前を生かした。――――あの日、禁書災禍の夜。小さいけど、神夜のお腹の中には、お前がいたんだ。だから、本当はお前も死ぬはずだった。母親と一緒に。――――でも、お前は今ここにいる。神夜が、命懸けで守ったんだ。自分の命よりも、お前の命を選んだんだ。なら、俺もそれを守りたい。――――忘れるな、加那太。お前は、愛されて生まれてきたんだ」
安久良の目は、もう光を失いかけていてカロのことを捉えることはできなくなっていた。
「加那太、生まれてきてくれてありがとう。不出来な父親で、すまなかった……。迎えに行けなくて、すまなかっ……、た……」
そして今、その灯火も、消える。
「なんだよ、親父……。最後まで間違えていてくれよ……! やっとちゃんと、喧嘩できたんだ……!! すぐ、どこか行くんじゃねえよ! 気づいたんだろ!! 俺を迎えにくるべきだったって……」
カロは強く強く父の手を握る。しかし、その手はもう握り返してはくれなかった。
そんなカロの背中に、白い光がぽわっと浮かび上がる。
それは、安久良がカロの中に送り込んだ――――白い魔力だった。
「失うことじゃなくて、大切なものを守ることを考える……。大切なもののために、生きる……。分かったよ、親父。俺はもう、何も失わない。何も見失わない。それで良いだろ、親父」
すると、そう口にしたカロを白い魔力が包んだ。
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一方で、安久良に同じく白い魔力を送り込まれ、痛む頭を抑えながらのたうち回っていた天日。
そんな天日の頭の中には――――神夜との日々が流れ込んできていた。
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