2-8 撤退
祭壇の部屋。
良月とエレミヤは対峙し――――飛鳥はシズクに背を負われて共に“デュラハン”から逃げながら、アザミの発火で炎上させるための《茨衣封吾》」の弾をばら撒き――――そして、アザミはその発火を防ぐために自身に襲いかかってくる“デュラハン”の攻撃を躱し続けていた。
アザミは“デュラハン“の間を駆け抜け、飛鳥のばら撒き続けた茨を掴む。――――と、それは燃えるどころか、アザミの《爆花爆々》を全身に宿すかのように連鎖して爆破していった。
そうして一気に室温が上がり、からっと空気が乾く。
それをチャンスと、アザミは少し逃げた後で襲いかかってくる“デュラハン”たちが纏まったタイミングで手を伸ばしながら飛び退き、改めて《爆花爆々》を放った。
ズバァンッ――――直線上に集まった“デュラハン”たちを爆風が包む。と、アザミが着地した先、“デュラハン”の鋭い爪が振り下ろされた。
「……!」
アザミは、それを転がりながらなんとか回避する。傷は、少し引っかかれた程度だった。
それから少しして、爆煙が晴れた向こう。
立っていたのは――――明らかに数の減った“デュラハン”たちだった。
(いや、数自体は減っていない。奥に、まだもっとあたしを襲った連中はいる。だけど、あの皮膚は――――)
アザミが見たのは、たった今アザミに襲い掛からずに奥で待機していた“デュラハン”たちの皮膚についていた焦げ目だった。
(確実に、何人かは影響を受けてる……!!)
すると、アザミは弾の発射をやめていた飛鳥に向かって、
「確実に作戦は聞いてる! けど、1回じゃだめだ! もっと!!」
と、喝を入れるように叫ぶ。と、飛鳥も覚悟を決めた顔になって、
「行きますわよ!!」
と、騎手のように自分をおんぶするシズクに号令を出した。
そして、アザミも、
「んでもって、魔術が通る奴が生まれたってことは――――別にやっちまってもいいんだよなぁ」
と笑うと、魔術でハンマーを呼び出し、たじろぐ“デュラハン”たちをじっと見つめた。
▼ ▼ ▼ ▼
一方、良月とエレミヤはというと、
「――――《心臓喰い》+《黒豹》」
「《弌平死ノ太刀》――――」
と、2人の攻撃がぶつかり合う――――ことはなく、エレミヤは《心臓喰い》で無理やり早く動くと、良月の2刀をくぐり抜けてその胸部を引き裂くように爪を振るった。
「ぐぅっ……!!」
良月は後ろに倒れはしないものの、吹き飛ばされ、その場に膝をつく。と、着ている鎧のようなスーツの傷跡を撫でた。
(《心套》がなくちゃ、やられていた……! けれど、この鎧もどれくらい持つか分からない……!!)
良月は改めてエレミヤを見つめる。
(それに、これじゃあ彼の速度には届かない。――――差は分かっている。彼は自分にかかる犠牲を考えないことで、直接その体に魔石を埋め込んでいる。だから、その動きに100%のアシストがつく。一方で、あくまでこっちは鎧。言ってしまえば、この《心套》はギプスやサポーター程度の強化でしかない。あれと比べるなら、こちらは良くて75%……!)
すると、そう考えたところで再びエレミヤが襲いかかってきた。
「《黒豹》――――」
「――――《弌平死ノ太刀》ッ!!」
襲いかかってきたエレミヤを、良月は2つに分かれた大剣の片方で受ける。
爪と大剣は互いにつけられた魔石を輝かせると――――爪は荒々しさを、大剣は力強さをその身に宿してぶつかり合った。
飛び込んできたエレミヤの右肩から背中にかけてを叩き潰そうとする、良月の大剣。
それを、エレミヤは爪同士を肩あたりで交差させて受ける。――――と、その大剣の重みをズンッと感じながらも、そのまま交差した爪を刃をなぞるように滑らせながら前進。
自身の脇腹を目がけて反対側から振られたもう1つの大剣を目にするとその場で体をくるっと捻って横回転し、脇腹を狙ってきた大剣は飛び越えて爪で押さえていた大剣もその回転に巻き込むようにして弾き飛ばした。
「もらった――――」
「――――ッ! まだっ……!!」
両手に持った剣を弾かれて浮く、良月の腕。
そこを遠慮なしに襲う、エレミヤ。
しかし、その時、良月は両剣を躊躇せず手放した。
そして、自ら突っ込む。――――と、エレミヤの爪は想定よりも早く良月の鎧を捉え、あまり威力を与えられなかった。
「――――こいつ! 怖くないのか!!」
エレミヤが困惑する一方で、良月はその腹に掌底をぶち込む。と、よろけたエレミヤの顔に肘鉄をさらにぶち込んだ。
「魔術士じゃないなら! 自分だって!!」
「そういう問題なのか……! なぜ痛みを恐れない……!!」
エレミヤは、良月を睨む。そこに少しだけ大振りになった良月の拳が飛んでくるのを、エレミヤは閂のように良月の腕に腕を交差して止めた。――――はずだった。
「《心套》……ッ!!」
その時、良月の魔石が明滅する。
すると、良月の腕はエレミヤの腕をグググと押し込み始めた。
「まずい……!」
そう直感したエレミヤは、咄嗟にその爪で良月の腹を突き刺しにかかる。――――が、そのコンマ数秒先に良月はエレミヤの首を掴む。
そして、そのまま壁へ放り投げた。
「これで、少しは!」
良月が、腕を振り切ると同時にそう言ってエレミヤの飛んでいく姿を睨む。――――しかし、エレミヤは、
「……隊長の指示をよく聞いていなかったようだな」
と、呟くと、体を捻って壁にぶつかるのではなく両足で着地する。――――そして、
「目的を履き違えるな。――――そう、言っていただろ?」
そう口にした次の瞬間、空の“宝珠“が光を放った。
「何が……!?」
祭壇が光に包まれると、良月は目を腕で隠す。
そして、次に開けた視界の中――――エレミヤはアザミに狙いを変えて駆け出していた。
獣のように四つ足を突きながら一瞬で祭壇の部屋の中を駆け抜けていく、エレミヤ。
すると、そのまま“デュラハン”たちの攻撃に気を取られているアザミの横顔を、エレミヤはその爪で切り裂きにかかった。
「しまっ――――」
アザミはそれに引き裂かれると、勢いのままに転がっていく。しかし、見上げた先――――天井に何かがぶつかって、それから茨が生えてきた。
「――――赤木アザミ! その茨を!!」
叫んだのは、飛鳥だった。
天井に着弾したそれは、《茨衣封吾》の弾だった。
そして、それは握って燃やせば他の茨にも燃え移っていくような動線をしていた。
だから、エレミヤは、
「やらせん!」
と、それを当然のように止めにかかろうとした。――――しかし、その瞬間、エレミヤは《心臓喰い》の反動かその場に膝をつく。
一方で、アザミはなんとか体を起こすと、その場で膝を曲げ、もう1度茨を見つめた。
もうそれに飛びつき、火を灯す準備は万端だった。
「――――お前ら、そいつを止めろ! 絶対に茨に触れさせるな!!」
エレミヤの指示に、アザミの近くにいた“デュラハン”たちが一斉に呼応する。と、“デュラハン“たちは、アザミがそれに飛びつくよりも早くアザミに飛びかかった。
しかし――――それでもアザミは笑っていた。
そして、次の瞬間、アザミは飛び上がるのではなくその曲げた膝の反動を使って、前に進んだ。
「目的を履き違えるな。――――その通り。あたしたちの目的は、あんたらを倒すことでもイバラに火を灯すことでもない。――――この空の“宝珠”を手に入れることだ!」
襲いかかる“デュラハン”たちの間を駆け抜けて祭壇に向かう、アザミ。
「まさか! あの時、“デュラハン”の体液を奪うと目的を開示したのはわざと……!」
それを見ると、エレミヤも無理に体を起こして止めにかかる。――――が、それを止めたのは、またも良月だった。
先ほどよりも弱々しい様子のエレミヤに、良月はタックルをかまして祭壇の前からどかす。
「アザミ隊長!」
そして、良月がその名を呼ぶと、アザミは、
「よくやった!」
と、良月の背中を踏んで飛び上がり、祭壇の上に浮かぶ満たされた“宝珠“を手に入れた。
「触れた……!」
その感動もそこそこに、アザミは、
「――――撤退だ!」
と、声をかけると、近くにあった茨に火をつける。
それを軋む体で、
「待て……!」
と、追いかけようとするエレミヤを見て、良月が1度その足を止めた。
しかし、“デュラハン”がエレミヤを守るためにその横顔を襲いかかってくると、炎の勢いが強くなったのもあって、良月はアザミたちと共にニューグレンジを後にするのだった。
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