2-4 祭壇決戦
「――――どきやがれ!」
アザミを先頭に、“禁特“は戦場に突入する。――――と、最短距離を進むため、味方と敵とが入り乱れて戦っているところに、アザミが《聖痕火葬》でハンマーを取り出して殴りにかかった。
ハンマーは、アザミたちの登場に一瞬気を取られた敵と味方の間の地面に打ちつけられる。
すると、次の瞬間、「《爆花爆々》」の言葉と共に爆発した。
「――――なんだ!」
「両方とも攻撃だと!? どっちなんだこいつは――――」
敵も味方も、突如現れた第3勢力のアザミたちに困惑する。――――と、その隙を逃さず、飛鳥が《茨衣封吾》の弾丸を足元に打ち込んだ。
その場にいたアザミたち以外の人は、弾丸から生えた茨によって縛り付けらる。その姿を確認すると、
「今のうちに……!!」
と意気込む、飛鳥。しかし、その時、
「こんなもの!」
「異分子は、排除する……!!」
と、敵と味方が1人ずつ、茨を振り払ってアザミたちに襲いかかった。
「くらーっしゅ――――」
「――――《弌平死ノ太刀》ッ!!」
しかし、それはアザミたちの足を止めさせるには至らなかった。
シズクが身につけた拳を、良月が握った大剣をそれにぶつけて相殺。受け流す。――――と、そのままアザミの、
「止まるな!」
という檄と共に、ニューグレンジに向けて走り出した。
それからも何度か襲撃に遭ったり戦いの中に突っ込んだりしながら――――一行は宙に浮くニューグレンジ、そこから伸びる階段の足元にたどり着いた。
扉は、すでに開けられていた。――――しかし、入り口は味方のロンドン支部側の魔術士がやや劣勢で、階段の上は敵のロンドンマフィアが占拠していた。
「どうします!?」
そう聞く良月に、アザミは、
「どうするも何も、突破するしかないだろ!」
と、返す。そして、続けて、
「ただし、一工夫入れるけどな」
と、付け加えた。
「工夫?」
「バカ真面目に正面から行ってもやられるだけだ。――――だから、飛鳥」
良月の問いに、アザミは飛鳥を指名する。
「あたくし?」
「ああ。あたしの魔力は、爆破することができる。そして、あんたの魔術は魔力を宿した弾を飛ばすことができる」
「……そういうことですの」
その言葉だけで全てを理解したのか、飛鳥は1度ゆっくりと目を閉じると、
「なら、合わせてみせますわ。――――このあたくしが」
そう、宣言した。
並び立つ飛鳥とアザミの背を、良月が見つめる。と、飛鳥の構えた銃のついた腕にアザミが魔力を込め始めた。
「……ッ! なんて暴れん坊な魔力……!!」
「悪いな、加減したことなくて……!!」
「舐めないでくださいまし! もうあなたの隣に立てない、あたくしじゃなくってよ!!」
すると、飛鳥の紫色のゴスロリ姿が、アザミの触れている一部だけが赤く色を変える。そして、
「きた!!」
「行きますわ!」
と、2人は声を発すると、揃って、
「――――《深紅ノ栄華》」
と、その魔術の名を口にした。
次の瞬間、その放銃から放たれたのは――――レーザーのような高圧熱線だった。
その螺旋回転する熱線は、赤い薔薇が咲くように茨のような炎をぐるぐると振り回しながら敵陣を切り裂き、最後に1度収縮して爆発する。――――と、吹き飛んだその道筋と跡地には、燃える薔薇が根を張ってなおも立ち並び、ニューグレンジの入り口に向けてアザミたちのために道を作っていた。
「これは……」
シズクと良月が困惑するのも無理はなかった。
それは、細く短い照射時間しかなかったが、それに見合わない威力を持っていた。
飛鳥とアザミも、その威力に驚く。――――しかし、次に2人は揃って、
「威力はすごいけど、これは戦場じゃ……」
「使えませんわね」
と、口にした。
「え? こんな威力なのに?」
良月がそう尋ねると、アザミは、
「チャージに時間がかかるし、範囲攻撃するには照射時間も短すぎる」
と、魔術における問題点を指摘し、さらに飛鳥が、
「それに2人揃って魔力の消耗が激しい上に、魔力を合わせているときはその場から動けないときてますわ」
と、自分たちに関する問題も付け加えた。
その時、飛鳥がふらっと体制を崩して倒れかける。と、それをアザミが腕を引っ張って支え、
「ま、悪くない魔術ではあるけどな」
と、言った。すると、それを聞いて飛鳥も、
「……ええ。悪くわない魔術ですわね」
と、静かに微笑むのだった。
▼ ▼ ▼ ▼
良月がふらついた飛鳥を背負い、一行はニューグレンジに突入する。
ニューグレンジの中は迷路のようになっていた。
そして、ひらけた部屋や通路のそこかしこで戦闘が繰り返されていた。
しかし、一方で迷うことはなかった。
月の光が、頂点にある祭壇までアザミたちを導いてくれたからだった。
「一時的な魔力の大量消費で、くらっときただけですわ。もう大丈夫です」
祭壇の部屋の入り口にやって来ると、飛鳥がそう言った。
そして、地面に降り、何度かその場で跳ね、魔力の出を確かめる。――――と、その時だった。
飛鳥は――――自身の手に赤い血の汚れを見つけた。
自分のどこを見ても、そんな傷はない。
そこで、良月の肩の傷に気がついた。
「良月、それ……」
飛鳥に指摘されて、良月はようやく、
「え? ああ、血! どこでやられたんでしょう……」
と、それに気がつく。すると、アザミが、
「ああ? ちょっと見せてみろ」
と、良月の傷を止血した。
その間、何か思うところがあるのか、飛鳥とシズクは良月をじっと見つめていた。
そうして、パパッと処置を終わらせると、いよいよ中央にある祭壇に4人は足を踏み入れる。
そこには、以前遺跡を訪れた際に見た月の光が差し込むと言われていた器があり、その上には空の“宝珠”が浮かび上がっていた。
そして、器の中には、そこにあるのかないのか分からないような触れたら消えてしまいそうな月の光の液体――――いや、月の光の漂が溜まっていっていて、それが空の“宝珠”に緩やかな渦を描きながら吸い込まれていっていた。
「神秘的……」
シズクが思わず口にしたそれを、みんなも心の中で思っていた。
一方で、アザミは空の“宝珠“に手を伸ばす。――――が、しかし、空の“宝珠“は幽霊のように手をすり抜けてしまった。
「これは、溜まるまで待てってことなのか……?」
アザミが呟く。この空間は、外の喧騒を感じさせないほど静かで、その空気感がアザミの言葉を肯定しているようにも思えた。
「――――なら、退屈にならないよう。相手でもしようか」
しかし、その瞬間、祭壇の入り口の向こうから声がして、そこは神聖な場所から戦場に姿を変える。
その男の声の正体を――――アザミたちは知っていた。
「《黒豹》――――」
その魔石具による鋭い爪の攻撃を、飛鳥が《茨衣封吾》の鎧で受け止める。しかし、爪は飛鳥の予想よりも重く、その体に食い込んだ。
「――――《弌平死ノ太刀》ッ!!」
「――――《爆花爆々》!!」
「――――くらーっしゅ!」
すると、飛鳥を襲った男へ、お返しと言わんばかりにアザミ、シズク、良月の3人が襲いかかる。そして、男が続けて、
「《心臓食い》」
と、口にすると、次の瞬間――――男の心臓から赤い光が放たれた。
その光が晴れるころ、男は飛鳥を蹴り上がってその頭上にいた。
そして、宙でくるっと回ると、アザミを足蹴にし、それからシズクを肘打ちで制した。
それから、男は最後に良月の大剣をその爪で受け止める。と、
「よう。――――あの日の続きをしようか、デカブツ」
そう言って、良月に頭突きをかました。
飛ばされ、壁に叩きつけられる、良月。
すると、その目に映ったのは、“デュラハン”のボス格の1人である物静かな男と、その心臓に付けられた剥き出し赤い魔石具《心臓喰い》だった。
「あなたたち、何を……!!」
良月が問う。と、男は、
「仕事だ。上から配達のオーダーがあってな」
と言って、チラッと空の“宝珠“を見た。
「ロンドンマフィアが雇ったのか……!」
「ああ。……まあ、個人的なこともあるがな」
「個人的なこと?」
「俺の名前は、エレミヤ。――――“デュラハン”を壊滅させ、仲間を殺した償い。受けてもらうぞ」
男――――エレミヤがそう言うと、その背後にはゾロゾロと、分厚い皮膚と魔力を通さない体液を纏ったカエルと魚のハーフのような怪物“デュラハン”たちが現れる。
「――――さあ、殲滅戦だ」
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