1-7 さっさと死にな
暗がりの部屋。
安久良を背に清流たち4人は、大量の土人形を操る老婆と対峙していた。
「――――ヒュウガ!」
走りながら、天日が叫ぶ。と、ヒュウガはバレーボールをレシーブをするように天日に向かって腕を構えた。
天日は、そこへ跳ねるように飛び込む。
すると、ヒュウガの手の間に伸びていた魔術の糸で作られた網が、踏み切り台のように天日を受け止める。――――と、その勢いを利用して天日はヒュウガを飛び越し、老婆を守る土人形に飛びかかった。
一方で、老婆を守るもう一方の土人形の前にも、黄色い魔力の紋章が連なり現れる。と、その紋様の先から、神夜が、
「《王魔伽刻:1の刻》」
と、それらを砕きながら、超スピードのキックで迫ってきた。
「――――ヒイッ!」
老婆がしゃがむと、土人形の1体は神夜の攻撃によって体の一部を砕かれる。――――が、天日と対峙していたほうの土人形は老婆につられて背を低くし、偶然にも天日の攻撃を躱した。
「んなっ――――」
天日はそのまま人形の上を通過すると、地面に拳を叩き込む。
そして、それを引く抜くのに少し手間取っているところへ――――天日が倒し損ねた土人形が、ナイフのように鋭く尖ったネイルを突き立てて腕を振りかぶった。
「――――天日!」
その光景に反射的に動いたのは、清流と神夜だった。
清流は天日の前に割って入り盾のように盾のように手を広げ、神夜は土人形に体当たりをするように飛び込む。
「そうそう、それでいい。――――目的は、お前なんだから」
すると、老婆はそう笑った。
次の瞬間、土人形の顔がぐるんと神夜の方を向く。――――と、土人形の手は神夜の首を力強く掴んだ。
「距離さえ取らせなきゃあ、所詮はガキ。非力なもんだよ……!!」
恨みを込めるように、その手がグッと力強く神夜の首を閉める。
「神夜!」
その苦しむ神夜の表情を見て、清流は叫び、そして助け出そうとした。――――しかし、そこに割って入ったのは、神夜が仕留め損ねた一部を砕かれた土人形だった。
清流はそれに脇腹を蹴られると、遠くへ吹き飛ばされる。と、次に清流を蹴ったその人形はだらんと倒れ、代わりに清流の後ろから別の土人形が起き上がって清流を捕まえた。
「しまった……!!」
そのまま土人形に倒れていた鳥籠の檻の中へ歪んだ鉄格子の隙間を通じて放り込まれる、清流。
すると、清流を放り込んだ土人形は子供なら簡単に通れるようなその折れ曲がった格子に腕を通してぎゅっと抱きつき、その入り口を塞いだ。
「攻撃してこない……? ――――閉じ込めたのか! 俺を!!」
さらに清流を蹴り飛ばした後でだらんと倒れていた土人形は再び動き出すと、今度は地面に腕のはまっている天日をそのまま押さえつける。
「――――があっ! くそ、神夜が……!!」
なめんじゃねえぞ、そう漏らしながら赤い魔力を激らせて《魔術:強化》で抵抗しようとする、天日。
しかし、土人形に無慈悲に顔を何度も地面に叩きつけられると、天日は黙り込んでしまった。
「……天、日……ッ!!」
神夜は、抵抗できないもどかしさに首を絞められながら天日を見つめる。――――しかし、ピンチなのは天日だけではなかった。
「この後に及んで、仲間の心配かい……。本当に、ガキは自分の立場が分かってなくて困るよ……!!」
老婆がそう溢すと、土人形は神夜の首に指が食い込むほど首を絞める。そして、老婆は、
「あたしのコレクションを2体も壊しやがって!! お前から殺す! 絶対に殺す!! そして、お前も素材にしてやるよ!! その体で償やがれ!!」
そう、神夜に怒りをぶつけた。
だからこそ、その血走った目には辺りの影の動きが映らず、その沸騰した頭には残った安久良のことなど頭にもなかったのだろう。
べチンッ――――神夜を睨むその煮え切った老婆の後頭部に、人形の片腕が投げつけられる。
と、それはズルッと老婆の頭から滑って、地面に落ちた。
「なんだい……? これは……」
先ほどまでの喚き散らす様とは違い、静かなしかし確かな怒りがその声には込められていた。
振り返ると、そこには怯えた様子の安久良がいた。
安久良は老婆と目が合うと、近くに倒れている土人形の千切れた欠片をまた老婆に投げつけた。
「そういえば、お前を追っていたんだねぇ……。あたしは」
それから老婆は神夜をそのままに、ヒタッ……ヒタッ……と、安久良に近づいていく。
「さっさと逃げちまえばいいものを……。馬鹿だねぇ……」
そして、近くに立てかけてあった刈込みハサミのような巨大なペンチを手に取り、なおも怯えながら向こうに行けと言いたげに土人形の欠片を投げつけ続ける安久良に迫る。
「だとしても、僕が助かって僕を助けた彼女が助からないのは違う!! 絶対に!!」
「それで、あんなものを投げたのかい。そうかい、そうかい……」
そして、ぴたりと足を止めると――――恐怖で動けない安久良の前に、ペンチが掲げられる。
「お前はもう――――全部いらない。だから、さっさと死にな」
そして、それが振り下ろされる。――――その時だった。
闇の中――――光る眼光が老婆に襲いかかる。
そして、するりと魔術の糸を編んだロープのようなものが老婆の首元に回ると、それは老婆の首を一気に締め上げた。
「お、お前……!! こいつは囮ってことかい……!!」
老婆の背中に足を置いて踏ん張り、離してたまるもんかとここで一気に決めてやると首を首を絞めて離さないその影は――――ヒュウガだった。
「俺にはあいつらみたいな力はない……! だけど、俺にも意地はあるんだ!! だから、この手は絶対に離さない!!」
「うぐぐぐぐぐぐッ……!! がぁッ……!!」
老婆は、ぶんぶんと体を振って振り払おうとする。――――と、そのせいで土人形たちの操作が緩んだ。
すると、次の瞬間――――天日に覆い被さっていた土人形が一瞬にして天井に打ち上げられ、めり込んだ
「思い出したぜ、俺の魔力の根本が赤色ことをよぉ……」
それから、天井にめり込んだ土人形はドサッと地面に落ちる。
と、その向こうから立ち上がったのは、全身を真紅の魔力で爛々と輝かせた――――天日だった。
天日は神夜の首を絞めている土人形の足を蹴る。と、文字通り膝を折らせ、その腕を握り潰す。そして、簡単に神夜を苦しみから解放してみせた。
「ゴホッ……、ゴホッ……」
ようやっと土人形の手から解放された神夜が地面に転がり、ヒューヒューと息を漏らす。と、その顔を見た天日は見開いた目で老婆を見つめる。そして、
「そのまま首を絞めて、同じ目に合わせてやってもいいが――――」
と、言いかけた、次の瞬間、
「――――やっぱりダメだ。もう、誰も傷つけさせねえ」
と、その場から消え、
「速攻、殺す」
と、次にその姿を捉えた時、老婆の腹に蹴りをめり込ませていた。
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