1-6 暗がりの決戦
「見つけた――――」
手足を土人形に抑えられ、老婆から見下される安久良が死を覚悟したその時。
暗がりの部屋に響いたその少女のような声が、目の前を明るくした。
「《王魔伽刻:1の刻》」
次の瞬間、天井から老婆の背中に向かって、魔力を持たない安久良には見えないはずの黄色の紋章が重なり連なる。――――と、紋章を砕きながら弾丸のような速さで何かが飛んできた。
「――――ッ!」
老婆はそれに遅れて気づくと、その何かとぶつかる寸前のところで扉の外にいた土人形を呼び寄せて自分と何かの間に割り込ませた。
バチンッ――――一瞬の稲妻のような轟音を上げて、土人形が弾け散る。と、老婆は、
「誰だい!! 無礼者!!」
と叫び、自分の元へ安久良を抑えていた土人形2体を呼び寄せた。
一方で、老婆を襲った何かはくるっと回ると、安久良のそばへ着地する。
その正体は、安久良となんら変わらない年齢の少女だった。
「――――大丈夫?」
しかし、そう少女に問われても、安久良は何も言えなかった。
どころか、その少女が小さな頃に一目見ただけの神夜だとは夢にも思わなかったし、こんな大ピンチで誰かに助けられるなんてことはまるで夢でも見ているかのようだった。
そこへ遅れて、赤い髪の少年がやってくる。と、少年は老婆を睨んで、
「あれが資料にあった、“ドラッグ・クイーン“……。気をつけろ、神夜。あんな見かけでも“鎖断会”の親玉だ」
と、告げた。――――その時、その赤い髪を見て、安久良の記憶の片隅からある名前が思い出される。
「赤木家……?」
その言葉を聞くと、少年と神夜はバッと振り返った。
「清流、知り合い?」
「いや……」
少年――――清流は、安久良を訝しむ。しかし、問答をしている暇はなかった。
「――――危ない!」
安久良が叫ぶ。――――と、一瞬で清流はしゃがみながら振り返り、神夜は安久良の視線を辿ってその先にいた清流に襲いかかる片腕の土人形の腕を《魔術:強化》で蹴り飛ばした。
片腕の土人形の腕が浮くと、今度は清流の番で――――清流は一方の手で片腕の土人形の浮いた腕を掴み、もう一方の手をその腰元に回すと、柔道技で一気に土人形を地面に投げつけた。
投げつけられた片腕の土人形はゴロンッと力なくその場に寝たきりになる。
すると、今度は上半身しかない女の見た目をした土人形が、その場で逆立ちをするように両腕だけで立った。
そして、その腹の中から、ボコンッと小さな噴射口のようなものが顔を出す。――――と、それは次の瞬間、聖堂で教祖役の女が指ビームを放ってみせたように熱光線を清流に向かって放った。
「……ッ!」
身構える、清流。しかし、
「……?」
それは、清流に届く前に《魔術:障壁》に弾かれる。それ見て、老婆は、
「チィッ……!! 《魔術:障壁》かい!! やっぱり、土人形か手錠かけさせるかしかないかい……!!」
と、漏らした。
「手錠まで知って……。お前、かなり詳しいな」
清流は、老婆に睨みを利かす。と、老婆も、
「あんたこそ、その歳で十分強いね。それで、特魔の真似事かい」
と、ニヤッと笑い返す。
しかし、続けて、
「だが、子供は子供。――――未熟だねえ」
と、部屋の扉を指差した。
「なっ……! あいつ……!!」
そこにあったのは――――また別の土人形に捕まった上に、声を出さないようその口を抑えられている安久良の姿だった。
「子供は、守るべき存在まで気が回らないんだよ。守られている存在だから」
老婆は、勝ち誇ったようにそう言う。と、その隙を見て安久良を助けるため、神夜がジリッとつま先を動かしたその時、
「おおっと! 動くんじゃないよ、小娘! 動きゃあ、そこのガキの首捻じ切るよ!!」
と、加えて警告した。
「嘘じゃないさ。これは、命の取り合いなんだよ。人質は握られる前に保護するか、相手を先に殺しておくべきだったねえ……」
それからレーザーを放った上半身だけの女がばたりと倒れると、また別のつぎはぎの土人形が暗がりの中から現れる。
そこで、清流が神夜に小声で提案した。
「あの子供は見捨てよう。こっちの方が先だ」
しかし、神夜は、
「だめだよ、それじゃあ」
と、それを拒否した。
「なら、“ドラッグ・クイーン“を見逃すのか!? 神夜!」
「それも違う」
「神夜……! どちらか選ばなくちゃならないんだ! それができないなら、ここは俺に従え!!」
切迫した状況。焦る、清流。――――しかし、それでも神夜は、
「大丈夫だよ、清流。もうすぐ――――彼らがくるから」
そう言って、笑った。
すると、次の瞬間、扉が勢いよく開かれ――――いや、蹴破られる。
と、扉の前に立っていた安久良を捕まえている土人形は、その勢いで背中を押されてのけ反り、
「なんだい!?」
と、老婆が驚いているその隙に、神夜は安久良を捕まえている土人形の懐に潜り込むと――――安久良を押さえていた腕の関節を正確に蹴り飛ばし、解放された安久良を抱き抱えた。
「お兄さん、何度も攫われてゲームのお姫様みたいだね」
神夜はそう言って笑うと、それから暗がりの部屋に入ってきた2つの影の間に着地する。
と、その影のうちの1人。黒髪の少年が、
「ごめん。捕縛に時間がかかっちゃって……」
と、申し訳なさそうに、そしてもう一方の赤髪の少年が、
「あいつら、魔力もろくに使えねえくせに掴みかかってきやがって。殺さない塩梅が、ムズ過ぎるっての」
と、気怠そうにそう言った。
「ううん。2人とも、バッチリだったよ。ヒュウガ、天日」
神夜は安久良を床に降ろすと、その新しく入ってきた黒髪の少年ヒュウガと赤髪の少年天日と並んで――――“ドラッグ・クイーン“、そう呼ばれた老婆と対峙する。
その光景を見て、老婆は、
「なんだよ、なんだよ、ガキどもが!! 一体どれだけ出てくるってんだい!!」
と、頭を抱えながら怒りまじりに狼狽した。
「なんだ、あの婆さん」
天日がそう口にすると、清流が、
「油断するな。“ドラッグ・クイーン“、この教団のラスボスだ」
と、簡単に説明する。それを聞くと、天日は、
「へえ……。なら、少しは歯ごたえありそうだな」
と、背伸びをしてこれから起こる戦闘に心を躍らせた。
一方で、天日とは対照的に老婆は憎しみと青筋だらけの顔で、
「なめんじゃないよ……! ガキどもが!!」
と、部屋の奥から、ドスッ……ドスッ……と規則的な歩き方をする土人形を次々と呼び寄せると、
「生きて帰れると思うんじゃないよ!! お前ら全員、地獄行きだ!!」
と、髪の毛を逆立てて叫んだ。
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