帰宅
ランズベルクの屋敷を脱出した俺たちはそのままハンズさんの店を向かう。
もう夜の遅い時間だったのに、店はまだ閉まっていなかった。
「ハンズさん、帰りましたよ」
「フーリー様、信じていました!」
俺が店の中へ入るとハンズさんがすぐに走って来た。
「えっ、ハンズさんもブラックさんの正体を知っているの?」
「実は私も元奴隷だったんだよ」
ハンズは躊躇わず、勿体無いぶらずに言った。
「ええっ!!?」とアステルは驚きの声を漏らす。
「私もフーリー様も元々は同じ貴族の奴隷だった。そいつが酷い奴で、奴隷たちもいつ死ぬかとビクビクしていたものさ。そんな生活をフーリー様が救ってくださったんだ」
「そんな大層なことじゃないですよ。あなたの言う通りいつ殺されてもおかしくない状況だったから、俺自身の為にやったことです。隙を突いて、首輪の鍵を奪って、屋敷で大暴れしていたら、いつの間にか他の奴隷も騒ぎに加勢していたんです」
「その話なら知っているよ。バーベヴァイツ侯爵暗殺事件だよね。ブラックさん……じゃなくて、フーリーさん??」
アステルは俺の呼び方で混乱していた。
「ブラックで良い。その方が呼びやすいんだろ? ちなみにあのクソ貴族、バーベヴァイツを殺したのは俺じゃない。いつの間に殺されていた。まぁ、全部、俺が主犯ってことになったけどね」
「そうだったんだね……あっ、呼び方はブラックさんの方が呼びやすいから、そうするね。でも『黒狐盗賊団』を結成したのは事実でしょ? 『黒狐盗賊団』は色々な貴族や領主を襲って奴隷を解放していた、って聞いているよ」
「ああ、俺たちなりの正義を実行しているつもりになっていたよ」
そう、俺たちは正義を実行していると思ったんだ。
「一年ほど前ですか? あなた自身が行方不明になり、『黒狐盗賊団』は解散してしまったとか。何があったか、もし、宜しければ聞かせてくれませんか?」
ハンズさんが俺に聞いてきた。
「ある領主を襲った時、奴隷たちが領主を守ったんです。俺は……俺たちは奴隷が全て虐げられていると思っていました。けれど、そうじゃない。俺たちがその時に襲った領主は奴隷を普通の民と同じ待遇で扱っていたらしいんです。その時から俺たちは自分たちの行動に自信が持てなくなってきて…………それでも俺がいる限り助けられた恩があるから、とあいつらは俺に付いてきてしまう。だから、俺が消えることにしたんです。無責任かもしれませんけど、そうすることでしか、俺もあいつらも前には進めませんでした。まぁ、あなたみたいに上手くやっている人もいるみたいですけどね」
俺が指摘するとハンズさんは苦笑する。
「私に人を殺したり、殺されたり、という覚悟はありません。運よく、あの貴族の財産の一部を盗んだ私は何か商売をしようと考えたんですよ。しかし、何をすれば分からなかった。私が知っているのは奴隷のことだけです、気が付いたら、奴隷商人になっていたろくでなしです。ただし、奴隷も人間であり、虐げれば反乱が起きると目の当たりしていましたから、なるべく丁寧に扱うようにしました。その結果、上手くいきましたよ」
「元奴隷が奴隷商人か。それも不思議だな。…………さてと昔話はこれくらいにして、本題に入ろうか」
俺はランズベルクの屋敷から盗み出した宝石を出した。
「アステル、これを持って、街を出ろ」
俺が言うとアステルは「えっ?」と声を漏らす。
「人生をやり直すんだ。これを売れば、それなりの金銭にはなるだろう。お前は商才がありそうだから、商人にでもなればいい」
「待って! 私はブラックさんと一緒に行くつもりだったよ」
「俺と一緒に来ても破滅しかない。俺が生きていることは知られてしまった。いつ追手が来るか分からない。俺と一緒にいたら、お前も仲間だと思われるぞ。捕まった盗賊がどうなるかくらい知っているだろ?」
「縛り首、でしょ? 別に私、ブラックさんと一緒になら、縛り首になってもいいよ」
「馬鹿なことを言うな」
俺の運命にアステルを道連れになんてしたくない。
「それにさ、ブラックさんはすごく強いじゃん」
「だが、俺よりも強い奴はいるかもしれない。現に闘技場で会ったローランなんとかっていう女騎士には俺でも勝てるか分からない」
「ローラン? もしや、ローラン・レリアーナですか!?」
ハンズさんはあの女騎士のことを知っているようだった。
「なんだ、知っているのか?」
「知っているも何も、この国の、ロキア王国第二王女シャルロッテ様の近衛隊長です。個人の戦闘力ではロキア王国軍最強、とまで噂される人ですよ!」
そんなヤバい奴だったのか。
確かに隙はまったく無かったし、強いことは直感で分かっていたが……
「だったら、あの場は退いてくれて助かったな。俺でも勝てるか怪しい」
「あらあら、ローラン。あの大義賊『フーリー・タイガーズ』があなたには負けるかも、って言ってますよ」
店のドアが開いたと思ったら、女性が店内へ入って来た。
見た目で判断すると貴族のようだが、独特の圧力というか、威光を感じる女性だ。




