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王女の提案

「光栄……と言えば、良いのでしょうか?」


 女性の後ろから、闘技場で会った女騎士が現れる。


「気が変わって、俺を捕まえに来たか? それにその小娘は誰だ?」


 俺が目の前にいる十代後半くらいの女性を「小娘」と言った瞬間、女騎士は鋭い眼光になった。


「シャルロッテ様に対し、侮辱や危害があれば、私はあなたを許さない」


 明確な殺意を感じる。

 俺はともかく、その殺意に当てられたアステルとハンズさんは委縮していた。


「シャルロッテ様? まさか、ロキア王国第二王女のシャルロッテ様ですか?」


 ハンズが尋ねると尋ねると女性は「はい」と答える。


「シャルロッテ? なんで王女がここにいるんだ?」


 俺が王女を呼び捨てにすると女騎士は剣に手をかけた。

 王女がそれを制止する。


「良いのです。ローラン、あなたの忠誠心にはとても感謝していますけど、行き過ぎた行動は慎みなさい」


「申し訳ありません」と言い、女騎士は殺気を消した。


「さてと私たちがここへ来た理由を話しますね」


 王女の言葉に俺たちは身構えた。


 王族と言えば、貴族の親玉のような存在だ。


 ここにいるのは盗賊と貴族の屋敷から逃げた奴隷、そして、その二人を匿う奴隷商人。


 その気になれば、俺たちを縛り首に出来るだろう。


「あなたを勧誘しに来ました」


「……なんだと?」


「だから、勧誘ですよ、勧誘。私の元で働きませんか?」


 王女はとても軽い口調で話す。


「罠に嵌めて、俺を捕まえるつもりか?」


 俺が言うと王女は笑った。


「別に罠に嵌めるなくても一個連隊であなた方を囲めば、捕まえることは可能です。そうせずにたった二人であなた方に会いに来たのですから、信用して頂けませんか? 本当は私一人で来ようとしたのですけど、ローランがどうしても許してくれなくて……」


 王女が苦笑しながら、女騎士を見る。


 女騎士は「当然です」と返した。


「なぜ俺なんかを勧誘する。あんたには俺なんか必要ないだろ?」


 あの闘技場へ入ってきた兵士たちが、王女の配下なら戦力は十分に持っているはずだ。


 わざわざ盗賊()を勧誘する必要は無いと思う。


「まだ調査途中ですが、少なくともあの闘技場で十名以上の奴隷が殺されています」


 王女はとても悲しそうな表情で言った。


「ランズベルク伯爵があのような蛮行を行っていることは少し前から気付いておりました。しかし、決定的な証拠が見つかるまで、私は動けなかったのです。正規の兵を動かすには時間がかかり過ぎます。完璧な黒、と判断できなければ、動けません。私は前々からもっと動かしやすい戦力が欲しいと思っていたのです」


「それで俺を勧誘するのか? だとしても危険が大きいと思うぞ。もし、王族が盗賊と結託していた、なんてことになれば、あんたはどうなる?」


「良くて辺境へ追放、最悪の場合、暗殺されて公式では病死、とかの扱いになるでしょうね」


 王女の口調は淡々としていた。


「そこまでして、俺を勧誘する利益があんたにはあるのか?」


「私の利益ではなく、民衆の利益を思ってのことです」


 王女は即答した。


「この国は、いえ、どの国でも一部の貴族や王族が権力や富を独占しています。それだけでも罪なのに、今回のランズベルク伯爵のように人の命を弄ぶ輩もいます。私の目的は民衆の為、そのような害虫を駆除することです。それに私の勧誘を受けることがあなたにとって唯一、そちらの方と一緒になれる選択肢だと思うのですが?」


 王女様はアステルへ視線を移す。


「アステルを人質にするつもりか?」


「そんなつもりはありませんよ」


 王女はニコニコと笑っていたが、どうも胡散臭い部分はあるな……

 だが、逃げるにしてもこの女騎士をどうにかするには大変そうだ。


「良いだろう。手を組もう」


「即決して頂き、助かります」


「それで何をすればいいんだ?」


「普段は冒険者として過ごしてください。動いてもらいたい時は私の方から連絡を送ります。ところでブラックさん、現在の住まいはどうしていますか?」


「借り家だ」


「でしたら、二人で住むには困らない家を用意しましょう」


 などと言うが、半分は監視が目的だろう。

 それでも追われる身になるよりはマシだ。


「一つだけ聞いて良いか?」


「なんでしょうか?」


「ランズベルクやあの闘技場にいた貴族共はどうするんだ?」


「現在の決まりでは奴隷を殺したところで、貴族を厳罰にすることは難しいでしょう」


 結局、特権階級はそういうものかと思っていると

「なので、別の罪を作り、処断することになると思います。全員を極刑にすることは出来ないですが、少なくともランズベルク伯爵は極刑に処します」


 王女の口調は厳しいものだった。

 

「あなたが受けた心身の傷の代償としては甘いと思われてしまうかもしれませんが、それで納得してくれませんか?」


「えっと、はい……私は構いません」とアステルは返した。


「良かったです。……あなた、怪我をしていますね」


 王女は言いながら、水の魔法を発動させた。

 その水はアステルの首から下を包み込む。


「おい、一体何を……」


「待って、ブラックさん。この水、傷が治っていくよ」


 アステルに言われて、彼女の腕や足を確認すると無数にあった擦り傷が消えていった。


「これで大丈夫。あとは顔ですね」


 王女がアステルの顔に両手を当てると顔の傷も治った。


「ありがとうございます」


「大したことではないですよ。それではブラックさん、今後はよろしくお願いします。一緒にこの国を良い方向へ導きましょう」


「……念の為、聞いておくが、俺は国の為とかはあまり興味ない。それとあんた、革命とかを起こそうと考えてないよな?」


 この王女の器の底が知れない。

 最終的にとんでもないことをしようと考えていないだろうか?


「私が王族で無ければ、それも良いかもしれないですけど……」


 王女様はさらっととんでもないことを言う。


「私は王族ですから、内側から少しでも国が良くなるように努力しようと思います。それではよろしくお願いしますね。フーリー・タイガーズさん…………いえ、ブラックさん」


 まぁ、この王女が俺たちの安全を保証してくれる限りは協力してやるか。


「あまり無茶な命令は言わないでくれ。今でも、とある商人からキツイ仕事を受けているんだ」


「おっと、それはどこの商人ですかな?」


 ハンズさんが分かりやすく惚けると女騎士以外の全員が笑った。

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