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ラルゴとソフィアの子供達

物語のその後。未来のお話です。

いつか投稿しようと思って、忘れていたので、今更ながら投稿してみました。

続きません。

 麗らかな春の日差しがさしこむ庭の横を、ゆっくりと歩く青年がいた。

 母親譲りの繊細で美しい容貌と、父親譲りの真面目で努力家な性格、多くの国民に慕われる次代の皇帝候補ラベル22歳。ただ……真面目過ぎるのと、周りが問題のタネだらけで苦労性である。


「兄上」


 気だる気でありながら、底抜けに明るい不思議な声の持ち主が誰なのか、ラベルにはすぐにわかった。


「スフィア……今度は何を……」


 思わず振り返ってスフィアの隣にあるものを見て言葉を失った。

 若い頃の母にそっくりだと言われるスフィア。外見だけでなく、中身もしっかり母の血を受け継いでるらしい。


「移動型パン焼き釜。軽量化しつつ厨房で使うのと同じくらいの火力もあり、移動の為の車輪も丈夫に作ってあって、これがあれば遠征中の兵士が野外でも温かいパンが食べれて、士気の向上も……」

「……役立ちそうなのはわかったが……なぜその焼き釜に刃物がついてるんだ?」

「移動中に敵に襲われたときの為の武器だよ」


 なんでそんな事もわからないの? と言わんばかりに首を傾げるスフィアに、ラベルは盛大に溜息をついた。スフィアに刃物を取り除いた上で量産化するようにと言ったが、不満たらたらと言わんばかりの様子にまた溜息だ。


「あ……そうだ。兄上。最近学院で面白い子がいてね。ナンナっていう女の子なんだけど。政治や経済学は学院トップの秀才。きっと兄上達の役にたつから、お爺さまに官吏への推薦しといたよ」


 発明の為に学院に入り浸るスフィアはティモシー家の祖父と仲が良い。そろそろ学院長も引退の祖父はスフィアを次の学院長にするつもりらしいが……この妹が学院長で大丈夫なんだろうか? とラベルは不安になる。


「そのナンナっていう子は……どんな子なんだい? その……性格とか……」


 スフィアが気に入るなんて、似た者同士の変人だと困る。


「お兄様、ご安心ください。ナンナはスフィアお姉様の奇行を宥めつつ見守る、女神様の様な人格者ですわ」


 いつのまにかもう一人の妹が側にいたようだ。振り返るとスフィアよりもう少し大人し気で知的な眼差しをした少女がいた。ルフィシア、ラベルの自慢の妹だ。問題児だらけの妹や弟達の中で、唯一まともであり、もっとも信頼する可愛いルフィ。


「ルフィがそういうなら良い子なんだね。さっそく父上の補佐官に推挙しておくよ」

「ちょっと待って……兄上。私の話は渋るのに、何でルフィだとそんなにすんなり……」


 スフィアは不満げに口を尖らせる。日頃の行いのせいだと自覚して欲しい。

 ルフィシアは仕事の用件があって、ラベルを探していたようだ。最近ルフィはラベルの補佐官の仕事もしていて、その優秀さは皇帝の娘という贔屓目抜きを抜いても、周りは高く評価していた。

 亡くなった伯母そっくりで、アンネの生まれ変わりみたいだと両親を喜ばせる孝行娘でもある。

 ……アンネに似ている事が、ルフィシアにとって幸せなのかわからないのだけど。


「ルフィ! 会いたかったよ。もう……癒しが足りなくてさ」


 そこへへらへら……と笑いながらジェラルドがやってきた。ラルゴやスフィアもいるというのに、ルフィシアしか眼にはいっていないようだ。


「伯父様。仕事をさぼって昼寝をしてたのではないですか?」


 ルフィシアが冷たい眼差しでそう告げると、ジェラルドはぎくりと震えて頬を引きつらせた。


「伯父様が仕事をしないと、お父様やお兄様が困るのですよ」


 ルフィシアが説教を続けると、ジェラルドの肩はどんどん下がっていき、土下座しそうな勢いである。もう50歳という人が十代の姪に説教されるのはいかがなものだろうか。

 誰に何を言われてもけろっとしている伯父が、唯一言う事を聞くルフィシア。ラルゴにとって頼もしい事この上ない妹だ。

 ジェラルドはルフィシアを溺愛していて、何度も父に「ルフィを養女に欲しい」と言っては冷たく拒否されている。ルフィシア本人は「マリア様の養女ならいいけど、ジェラルド伯父様の養女は嫌」と言ってる。

 一年のほとんどをアルブムから離れる上に、正式な皇室の一員ではないマリア様の養女に……というのは、なかなか難しいようだけど。

 

「あれ? 兄上、姉上、伯父上勢揃い? 何か面白い事でもやってるの?」


 明るく元気に弾む声が聞こえて振り返り、思わず叫んだ。


「今度は何をやってきたんだ! ランド!」


 ルフィシアの下の弟ランドはラベルと10歳は年が離れていると言うのに、もうラベルに身長が追いつきそうな程逞しい体格で、よく成人に間違われる。

 そして……かなりのヤンチャだ。今日も衣服の一部は破れてるわ、若干血がにじんでるわ……ラベルの息の根が止まりそうだ。


「ちょっと街にでたら、なんか喧嘩が始まってて。面白そうだったから参加してみたら……」

「街の喧嘩に面白そうと皇子が介入するな! 馬鹿者!」


 見た目が成人で、屈強で逞しいといってもまだ子供である。兄として厳しくと説教しなければいけない。


「ごめんごめん兄上。でもさ……その喧嘩に混じって面白い奴がいたんだよ。俺の部下にしようかな……って思うんだけど」

「ランド……何人めの部下だ?」

「さあ? でも将来の為に信頼できる部下は一人でも多い方がいいじゃん?」


 知性派な父と母から、どうしてこんな脳筋が産まれたのか……帝国の大きな謎だ。ただ……家庭教師曰く、軍事関連の学問だけは100年に1人の逸材だというらしいし、もしかしたら自分の興味がある事だけに突出する、天才肌の母に似たのかもしれない。


「将来は俺が帝国軍のトップになって兄上を支えるんだ」


 ランドのその気概は頼もしいが、せめて城の中だけに留めてほしい。ほうっておけば、そのうちアルブムどころか帝国を飛び出しそうな勢いだ。


「あ……そうだ。伯父上。伝言を頼まれてたんだ。ルーとスーがまた暴れてるからどうにかしてほしいって」


 ランドのその言葉を聞き「僕……仕事あるんだった……」と真っ先にジェラルドは逃げ出そうとする。

 そこにすかさず、にっこり可愛らしい笑顔で「仕事は私が変わるので、伯父様はルーとスーの面倒をお願いしますね」とルフィシアが釘をさす。

 流石だ。どれだけ面倒な出来事でも、溺愛する姪に言われてはジェラルドも観念する。


「私も一緒にいきます」


 ラベルがそう言うとジェラルドは大きく溜息をついた。きっとルフィシアの眼の届かない所に行ったら、逃げ出すつもりだったんだろう。ちゃんとルーとスーの所に行くか監視しなければならない。

 ルーとスーというのは、ラベル達の双子の弟妹だ。本来の名前はもう少し長いはずだが……名前より「デストロイヤー」とか「タイフーン」とか物騒な通り名ばかりが有名だ。


 ジェラルドが二人がいるという部屋の扉を開けて、部屋の中をみた瞬間、無言で扉を閉めた。

 気持ちはわからなくもない。部屋の中の惨状は凄まじかった。

 砕け散った調度品が散乱し、壁は穴が開きそうな程に破壊され、破れたカーテンや、今にも落ちてきそうなシャンデリアにぶら下がるルーとスー。この光景を見慣れてしまったのは哀しい。


「伯父上。観念してください。マリア様がアルブムにいない今、ルーとスーの相手をできるのは伯父上だけなんですから」

「……だよね……」


 げんなりした顔でまた扉を開けて部屋の中に入る。


「あ! ラルだ」

「ラル! 遊ぼ、遊ぼ」

「せめておじさんって呼ぼうね」


 破壊魔弟妹は未だにジェラルドの事を遊び相手くらいにしか思ってないので、敬意の欠片もない。ラベルが気を抜いた隙に、いきなり衝撃が襲ってきてよろめきそうになったのを、伯父が支えてくれた。


「ルー、スー。ラベルは普通の子なんだから巻き込んじゃダメだよ」


 ジェラルドはそう言ってラベルを背に庇うと、両手から風の魔法を繰り出した。風の魔法をキャッキャとはしゃぎながら空を飛んで逃げる双子たち。


「鬼ごっこだ!」

「鬼がきたぞ、逃げろ!」


 そう言ってルーとスーは窓から飛び出したので、ジェラルドは後を追って飛び降りた。ここは3階だけど3人なら何の問題も無い。

 ルーとスーは強力な魔法の才能を持って産まれてきた。

 本来であれば自分に向いた1分野のみ……くらいのはずが、未だに得意魔法が何か判明しないほど、多彩な魔法を繰り出す。

 空を飛ぶ、突風を生み出す、爆破する、治癒魔法も使えば、短距離瞬間移動さえもする。これは世界的に見ても類をみない、魔法史に名を残す大魔法使いになるだろうと言われている。


 ……問題はその有り余る魔法の才能を、破壊の為にしか使わないお子様な所だ。一度暴れ出すと父や母や兄姉が叱っても、ちっともいう事を聞かない。

 なぜかマリア様の前だけでは大人しい優等生になるのだが、そのマリア様はほとんどの期間アルブムを離れてしまうので、後はジェラルドが魔法を使って力づくでどうにかする以外、手だてがないのが現状だ。


 ベランダから見下ろせば、双子を追い回すジェラルドの息は切れている。50歳も過ぎた上に、あの暴れん坊の双子の魔法に対抗しつつ、双子には一切傷をつけず、周りの物を破壊しない様に配慮もしている。魔法の事はよくわからないラベルでも、相当しんどい事はわかった。

 ある程度暴れて気がすんだらルーとスーを回収しないと、ジェラルドが死にそうだ。1階へと向かう途中ソフィアと出会った。


「母上。ルーとスーが……」

「ああ……ジェラルドが限界っぽいんでしょう? ラルゴも限界みたいだし、ここは私に任せてラルゴの手伝いに行ってもらえる?」


 その一言だけで事情を察した。ルーとスーの相手をするとジェラルドは力つきてしばらく仕事ができなくなる。そしてジェラルドができない仕事がラルゴに周り、仕事に埋もれたラルゴが無理しすぎて死にそうになる。


「そろそろ……二人とも限界じゃないでしょうか?」

「そうだね……申し訳ないけど、マリアを呼び戻さないといけないかもしれないね」


 マリア様の前でだけは大人しいルーとスー。おかげでマリア様がいる間は、ラルゴもジェラルドもゆっくり休みつつ仕事が捗る。


「マリア様! 帰って来るの?」

「母様、いつ? 明日? 明後日?」


 耳聡く聞きつけた双子が、母の元にやってくる。本当にこの双子はマリア様が大好きらしい。双子の頭を撫でつつ母は答える。


「う……ん。今いる所が船で2週間以上かかる所だしな……。そうだ。二人とも。マリアがすぐに帰って来られる魔法道具を作らない? 長距離移動魔法道具があれば、もっとたくさんマリアが帰ってきてくれるかもしれないよ」

「本当に!」

「作る、作る」


 気軽にはしゃぎ始める双子の後ろから、よろよろとやってきたジェラルドは珍しく厳しい眼でソフィアを睨んだ。


「魔法道具の作成って結構危険だよ。その子達にやらせるの、僕は反対だな」

「危険かもしれないけど、放っておいても破壊の為に魔法を使ってばかりだし、どっちみち危険じゃない? それならそのありあまる魔法の才能を、もっと生産的な事に使った方が、この子達の為にも、国の為にも良いと思うんだよね」

「ソフィアが発明してみたいだけでしょ」

「それもある」


 にししと笑ったソフィアに、ジェラルドは呆れたように溜息をこぼして床に座り込んだ。

 ソフィアにに魔法の才能はないが、ルーとスーのおかげで魔法道具の開発という、新たな部門に挑戦できると最近イキイキしている。

 伯父の心配もわかるし、できれば末っ子達に危険な事をしてほしくないが……マリア様が帰って来るまでの間、双子を自由にしてしまったら、父と伯父が死にそうだとラベルは思った。

 双子を連れて工房へ向かおうとしソフィアが「あ……忘れてた」と言ってくるっとラベルの方を向いた。


「今度お見合いするからね」

「は? 誰と誰が?」

「ラベルとザクソン王国の姫君」


 ティータイムのメニューを告げるかの様なあっさりとした物言いに、ラベルは思わず床に崩れ落ちた。


「大丈夫、大丈夫。会うだけだから。二人が気に入らなかったら断っても良いんだよ」

「断れませんよ! 外交問題に発展しますよ!」

「でも……愛の無い結婚をしてもラベルは幸せになれないよ。一緒に帝国運営できるくらいの伴侶を選ばないとね」


 身分差を乗り越えて、父と恋愛結婚した上に、6人の個性的すぎる子供を育てつつ、未だに夫婦仲が良すぎる母の言葉は重みが違う。

 見れば伯父もうんうんと頷いている。結婚はしていないけど、マリア様と相思相愛なのは誰が見ても明らかで。そんな両親や伯父達が羨ましい。


「せめて……その姫君が良い子だといいな……」


 もし断っても怒らない程度には。ラルゴがそう心の中でつけたした。

年はこれくらいのイメージでいます。

ルーとスーは、原作中で存在していないので、まだ年齢が確定していません。

名前は……考えていたのはあるのですが、多分どこにも書くことはないかもしれない。


ラベル22歳

スフィア17歳

ルフィシア15歳

ランド12歳

ルーとスー…未定。9歳以下


ルーとスーを主人公にした、異世界冒険譚……をイメージもしましたが、他にも書きたいものが多すぎるので、お蔵入り。

誰か書いて欲しいと思う。

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