敵同士
次回は明日20時に更新予定です
視界が明るくなり、閉じていた瞼を開く七号。シャットダウンさせていた思考回路を起動させ、起きあがろうとすると、視界がフッと暗くなる。びっくりしてしまい、思わず飛び退き、武器を構える。すると、さっき自分がいた場所に昨日の異形がいた。警戒しながら、異形に向けて殺気を飛ばし話しかける。
「朝から奇襲をしようとしたのか?はっ!残念だが、どうやら失敗してしまったな?……やはり、昨日のうちに殺すべきだったか……まぁ、今殺しても変わらないか。安心しろ、殺した後は情報収集のため本部に貴様の肉体を送らなければならないから、綺麗に一思いに殺してや……?」
捲し立てるように言い放ち、武器を構え直し、振り下ろそうとしたその時、異形が七号に近づき、背中に生えている脚の一本をゆっくりと動かし、七号の頬を軽く撫で、話しかけてきた。
「オオオハヨウ、オハヨウ!ケ、ケガ、ダイジョウブ?ゴハン、イル?」
やはり敵意もなく、それどころかこちらを心配する言葉使いと言動に拍子抜けしてしまう。舐められているのか、そもそも本当に戦う意思がないのか、今は計り知れないが少しでも多くの情報を集めるため、七号は警戒しつつ異形の質問に答えながら探りを入れる。
「……ご飯はいらない、私は人間では無いからな。傷も、軽量モードに移行したから昨日よりはマシだ。(だが、以前のような激しい戦闘は出来ないが……)お前たち異形はどうなんだ?」
「!ゴハン、イラナイ……デモ、ミンナデタベル、ウレシイ!ウレシイ!ワラウ!ウレシイ!」
「――っ!(皆で食べるご飯は美味しい……か、どこまでも情報にあった人類の特徴に似ているな)そうか、嬉しいか……知識としてはあるがそれが人類特有の感情というものなのか、よく分からないな……」
「カンジョウ?シラナイ、シラナイ、カンジョウ、ナニ?」
「感情が分からない……?どういうことだ……お前は確かに嬉しいといったのに……(やはり、人間の真似事にすぎないということか)異形の新型とはいえ、所詮は同類ということか」
七号はそう呟くと鼻で笑い、くだらないというようにその場を立ち去るとその後を異形も当たり前のように着いてくる。
「……」
「ユラユラ」
「……」
「フラフラ」
「――っ!なぜ着いてくる!?もう私に用はないだろ?助けてくれたのは気まぐれかもしれんが着いてくる意味はないだろ?お前も私もここから先は敵同士、お前たち異形はアンドロイドを私たちは異形を倒すのが目的だ。それをなぜ……?」
「……?ヨク、ワラカナイ?ボク、アナタ、シンパイ、タスケタ。アナタ、ヤサシイ、ボク、コロサナイ、スキ!スキ、ダイスキ!トモダチ!」
「――っ!!……勝手にしろ」
結局、異形の勢いに負け諦めた七号はそのまま来た道を戻っていく。途中の会話もなくただただ前へと進んでいく。暗くなれば近くの洞窟や、他の異形に見つからないような木陰に隠れながらその場をしのぎ、二人は進んでいく。そんな日々が続いたある日、異形が七号に話しかけてきた。
「……キミノ、ナマエ、シリタイ」
「……は?」
それはなんとも拍子抜けな内容で、唖然としてしまう七号。ただ一言そう呟いた異形は、どこか勇気を出して意を決して言ったようにも見えた。そんな姿をする異形にもうどうでもいいと思い始めた七号は少し考えた末、意地悪そうに、いたずらっぽく言う。
「……ははっ本当にどこまでもおかしな異形だ……しっかり覚えておけよ?私の名前は七号、アンドロイドの中でも優れた個体、七号だ。そして、お前を殺す者の名だ……お前は?」
「ナナゴウ……ア、ボク、ハ……ボクハ?……ナンダッケ……?」
「おい?どうした?」
「ア、ア、ワラカナイ、わカラなイ、ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ……ぼくは……ダレ?」
そう呟いた異形は急に苦しみだした。今までこんなこと一度も見たことがなかった七号は戸惑い、異形に話しかけ続ける。すると、プツンと糸が切れたみたいに倒れ込んだ。七号は、そんな姿を見て今なら余裕でこの異形を殺せるという意識とアンドロイドには無い思いと呼ばれるものが芽生え、知らない感情が流れ込んでくるような感覚が入り交じりその場で固まってしまう。そう、七号はこの異形に助けられたことによって感情と呼ばれる”バグ“が生まれてしまっていたのだ。そして、この新種の異形に築かされ、異形が七号を『心配』したり『友達』として喜んだりする姿を見る度に体内の動力源がおかしな音をたてる。そして、目の前で狂ったように呟き、倒れ込む姿を見れば七号の思考回路はおかしくなってしまった。
「…………はー……これで借りは返したからな……」
そう呟きながら仕方なく異形を担ぎ、来た道を戻り洋館まで戻る。結局、現在の安全地帯は七号と異形がであったこの洋館にしかないのだ。
何日かかけて歩いていくとようやく洋館にたどり着いた。そして、七号は自分が寝かされていた部屋に異形を運び込む。あれから一度も目を覚まさない異形は、まるで死んでいるようにも見えてしまう。かく言う七号も本部へ帰り、損傷した部分を修復しなければ、戦闘も長期の調査もできないのだ。今、敵がここに押し寄せてくれば絶体絶命な状態だ。切り札はなくもないが、それは最終手段にしか過ぎず、今来られるとまずいと考え、とりあえず入り口にバリケードを作るため洋館内を散策する。
ある程度のバリケードを作り終わりふと後ろを振り返るとさっきまでなかった扉があった。どうやら家具で隠れて見えていなかったようだ。七号はそっと扉に手をかけ、ドアノブを回し押し開ける。すると目の前には地下へ続く階段が続いていた。どうやら先は結構長いみたいで、奥までは暗くてよく見えない。先の見えない不信感と、なにか情報が得られるかもという考えが七号の中でぶつかり合う。そして、気がつけば自然に足が前へ前へと進んでいき、地下へと入っていった。
長く続く階段を淡々と降りていくと、いくつかの部屋が並ぶ場所にたどり着く。そのどれもがベッドしかなく、殺風景な部屋ばかりだった。ふと、ひとつの部屋に目がいく。その部屋には投げ捨てられたように置かれた手帳があった。七号は手帳を拾い上げペラペラとページをめくりながらデータを取る。どうやらこれは人類が記した日記というものらしい。日記はページをめくる量が多くなれば内容が悲痛な叫びをあげているように綴られている。そして、最後のページにはなにかに諦めたように書かれていた。全てを読み終えた七号の表情は苦しそうに歪められていた。一体ここで何があったのか、ここはなんなのか、疑問がふつふつと浮かび上がっていく中、さらに進んでいくと今までに見てきた部屋より大きな扉が目の前に現れた。これまでの部屋よりも異質で歪な存在感を醸し出すその部屋の雰囲気に一瞬入ることを躊躇ってしまう。だが、七号は臆することなく扉に手をかけ、意を決して開く。そこに広がる光景に唖然としてしまう。そこには、いくつもの資料が散らばっており、割れた大きな筒状のカプセルがいくつも並んでいた。七号は散らばっている資料に目を通すとそこには、今まで人類が異形のことやアンドロイドのこと、この世界の全て言っても過言では無いことの詳細が記されていた。驚きが隠せず、はっと意識を再び部屋に向ける。そして七号は確信してしまう。この世界がなぜ異形に染まってしまったのか、なぜアンドロイドが産み出されたのか、理解してしまえばもう後戻り出来なかった。そして、七号の視界に本部からアンドロイドに向けた一斉連絡が放たれた。その内容は『――裏切り者の排除――』とだけ記されていた。
「……ああ、そういう事か……ははっ……あははははははは!!…………はーっ…裏切り者はどっちだよ……ほんとどいつもこいつも腐ってる、なら私は足掻いてやる……絶対に消されてたまるものか…!せめて、ここの情報だけは、真実だけは守らないと……」
そこに写った七号の表情は今までの機械のような表情だったものと一変し、まるで生きることに執着した強い眼差しを持つ人類に似たような表情へと変わっていた……。




