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ムーンロイド  作者: あざらシ


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枯れ果てた世界

次回は明日20時更新です


『月』――それは皆が焦がれた美しさを持つ――

『星』――それは多くの輝きを放ち空に浮かぶ――

 

そんな二つが見下ろすものは『人類』人と人が繋がり、多くの欲を持ち、多くの知性を持つ。最も醜く、それでいてどんなものよりも美しい存在。

『月』は焦がれた、その美しさに。『星』は焦がれた、その生き方に。焦がれ、羨み、妬み……そうしてかの者らは『人類』を手に入れるため、『人類』になるために全てを飲み込んだ。多くの命と多くの宝を……そうして出来た新たな世界は混沌の渦に飲まれ、異形が徘徊する姿へと変わり果てた。だが、『人類』はこれを良しとしなかった。足掻いて足掻いて、そして異形に対抗するための武器を生み出すことに成功した。彼らは『アンドロイド』、世界を、『人類』を異形から救うために造られた機械兵器であり、『人類』を取り戻すための希望である――――


 

  この世界はかつて多くの人間という生き物が生息していた。誰かが言った、彼らは世界の光だと。その光を守るために、取り戻すために、我々『アンドロイド』は戦い続ける。突如現れた異形たちに抗うため生み出された最終兵器として……


ピー…ピピッ……ガガッ――ガッ……暗転したままの連絡機器は、時々大きな音を立てては砂嵐のような音を繰り返していた。完全に壊れてしまった通信機器を握り締め、今にも壊れそうな足を無理やり動かし立ち上がり歩き出す。周りには今さっき共に異形の殲滅をしていた仲間たちの残骸が無惨にも転がっており、唯一生き残った機体は自分だけという現実を叩きつけられる。かくいう自分もすでに先の戦闘で両脚に多大なるダメージを負い、他の部位にも損傷が見られる。本部との連絡も途絶えている今、まさにピンチと言える状況だろう。なぜ、こんな状態になっているのかというとつい数時間前に遡る……。


「聞け!今回、新たに情報が入った。場所は都市部中央、中心部にある塔を目指し、ここから内部の高圧電力を作動させ、この基地とのバックアップを行う。そして今後、地上班とこの基地の司令班のチームに分かれ、奴ら異形の情報収集、および殲滅へと移行する。この任務は絶対に遂行させねばならない。死ぬ気で取り組むように!――総員出動!――」


「「了解!」」


 急遽始まった異形殲滅計画および人類の再生任務に向けて、地球外に残された『アンドロイド』たちが動き出す。

 時は西暦一万年前、突如、謎のエネルギーを纏った月が現れ、そのまま衝突してしまった地球は、ゆっくりと月に飲み込まれていった。それだけでは収まらず、謎のエネルギーにより謎の異形も現れ、世界中がパニックになった。初め、人類は異形殲滅のために多くの軍隊を動かしていたみたいだが、全く歯が立たず、異形によって次々に殺されていった。そんな日々が続き、人類は最終兵器として『戦闘型アンドロイド』を生み出すことを決意した。厳しくなる戦況に長く続いた異形と人類の戦争は、人類が最後の一人になるまで続き、そしてようやく人類に希望の光が差した。


 ――長かった……だが、ようやく、ここまで成せた。頼んだぞ……我々……人類を……ち……きゅうを、どうか、まも……って……――


 ――承認完了、バックアップ完了、データ損傷なし、システムに異常なし、これより異形殲滅に向け活動を開始。多くの『アンドロイド』の生成を希望、承認完了。地球外に向け、セーフティハウスを生成、完了。テストプレイとして、『アンドロイド』の派遣を確認。成功、これよりシステムの調整に移行……現在位置からセーフハウスへの避難準備、五秒カウント後に実行。五、四、三……零――


 こうして、人類によって生み出された始まりの『アンドロイド』による異形殲滅計画が始動したのだった。そして長きに渡る異形と人類との戦争は、異形と『アンドロイド』との戦争に変わり、今も続いていた。そして現在、西暦一万三千年では戦況の一手を変えるため、『アンドロイド』たちはかつて始まりの『アンドロイド』が生み出された場所である都市部中央にある研究施設の塔に目をつけた。この塔に残された情報と膨大な電力による異形殲滅を企てたのであった。

我ら『アンドロイド』は戦うために生み出された人形である。戦わなければ我らは意味を成せない、戦いこそが生きる意味なのだ……だが、少しだけ人類に憧れを持ってしまうのは、人形としてどうなのだろうか……


「ああ、来たか。今回の作戦にはお前の力が必要不可欠だ、数ある『アンドロイド』の中でもお前の力は全体的に高く長期戦にはもってこいの能力だからな、しっかり頼んだぞ――七号――」

「はい、必ず任務を遂行させて見えます……――副管理課――」



ピー…ピピッ……ガガッ――ガッ……思わず思考の海に意識を向けていた。私の呼び名は七号。他の『アンドロイド』よりも力が強く、持久力が高く、耐久性が固く頑丈な上に、システム、オペレーター能力をも兼ね備えた個体だ。だからだろう、今回の作戦に参加して生き残れたのも、これぐらいの損傷で済んだのも、私が優れた『アンドロイド』だったからによる奇跡だ。だが正直に言えば、破壊寸前まで持っていかれたのは初めてで驚いた。戦場に駆り出されるたびに、強くなっていると感じさせられる異形たち。『アンドロイド』の破壊が多くなっている、つまり、このままではいずれ異形の強さが上回り、対処できなくなる。そうなれば今度こそ世界は終わってしまう。人類の未来を託された私たちが負けてしまえば、あの異形に立ち向かう術が完全に無くなってしまう。それだけは、避けなくてはいけない。せめて、この機密報告書だけは本部に届けなければと人間らしく考え、焦る今の私は以前の私とだいぶかけ離れていた気がした。長い間、地球での潜入操作をしていたからだろうか、何にせよ今の状況では明らかにこちら側が不利だ。早いところ対策を考えなければと呟きながら歩く。誰もいない静かな広野で壊れかけの脚を引きずりながら歩いて、歩いて、歩いて、歩き続ける。本来の目的である塔に向けて進んでいたところ、古び、倒壊した森の洋館にたどり着いた。無意識に歩き続けたからか、気がつけば私は森の中を進んでいたのだ。ギシギシと動きが固くなっていく脚、とうとう耐えきれなくなったのかその場に倒れ込んでしまう。倒れた拍子に身体の一部が――ガシャン!という大きな音を当てていた。働かない脳内データで必要最低限の応急処置プログラムを立ち上げ、治す箇所と必要な材料を記録して打ち込んでいくこと数分、脳が徐々に熱を持ち始めオーバーヒート寸前になり耐えきれず、遂に視界が暗転してしまい、意識が途切れていく。

 

 ――ああ、ここまでか――


こうして私は完全に意識を失った。


何処からともなく足音が聞こえる。『アンドロイド』のそれではなく、もっと人らしい初めて聞く足音だった。さっきからバタバタと騒がしく歩く人物に顔が歪んでいく。眉間に皺がよっているだろう感覚がしてくる。意を決して、ゆっくりと目を開けると、そこは知らない天井が見えた。明らかにさっきまで自分は洋館の入り口付近で倒れたのを覚えている。だが、気がつけばまだマシだろう部屋に寝かされており、ここが洋館の内部だろうことが見て取れる。誰かが運ぶにせよ、それは絶対仲間ではない。ここには自分一人とうじゃうじゃと湧き続ける敵しかいないはず。そうっと辺りを警戒しつつ観察していると、視界のギリギリ端に小さく動く影を捉えた。


 そこに居たのは一匹の”異形“だった。他の異形とは違い小さく、弱々しい姿、だが、今の七号では勝てる未来が見えなかった。身体中が壊れ、身動きが取れない。もう崩壊寸前の自分はこんな雑魚に負けるのか……と異形を眺めながら考えていると、目の前の異形がゆらりとゆれ、こちらに近づき、目線を合わせてくる。そして――


「ア、ア、ダ、ダイ……ジョウブ?」


話しかけてきた。初めて異形に話しかけられた。まるで人間のように言葉を話し、こちらを心配するような感情まで向けられている。私は困惑した、今まで異形が喋るなんて事例はなく、初めての未知との遭遇にただただ唖然とその場に留まるしか出来なかった。思考がしばらくの間停止し、じっと目の前の異形を見つめる。その後はっと意識を戻し、改めて今の状況を脳内回路で整理する。


 まず、私は気を失う前は洋館の入り口付近で倒れたはずだったが、ここは洋館の中で他の異形達と他の仲間達の気配はなく、目の前にいる異形とボロボロの状態の自分だけがこの空間にいる状態だ。おそらく、上との連絡が取れておらず、応援部隊も派遣されない状態が今も続いているのではと過程付け、ならば誰が私を洋館の中に避難させてきたかという疑問が浮上する。考えたくは無いが、目の前の新種の異形が私を運んだと言わざるおえない。

 次に、目の前の新種の異形についてだが、これは正直に言うと謎だらけである。今までの調査記録にはなかった新種、見た目は頭の大きな真っ黒の頭が左右にゆらゆらと動いており、背中から出ている四つ脚を器用に動かしていた。胴体が人型でまるで子供のような言動、どこからどう見ても異形とわかっているのに人間味を感じさせられる。この歪な生き物に本当に異形の仲間なのかと疑いすら持ってしまう。

 ここまで考えて、私は一つの仮説を立てる。そして、賭けに出た。


「……おい、貴様に聞きたいことがある。私をここまで運んできたのはお前か?」

「ウン……ケ、ケガイイイタイ?」

「私はアンドロイドだ、痛みなど感じない。そして私は貴様ら異形の敵だ。なぜ、とどめを刺さなかった?私を生かして何を企んでいる?」

「チ、チガウ……タクラム、チガウ!アソコ、キケン……ココ、アンゼン。シンパイ、タスケタ!」

「――っ!……私の事が心配で助けただと?そんなの、まるで……」


 ――まるで人間みたいじゃないか――


初めて見る新種はあまりにも人間らしい感情を持ち、思考をして、自分の意思で目の前の怪我人を助ける。そう、まるで人間だと思ってしまう。思わず顔をしかめながら七号は異形を見つめる。壊れる運命にあった七号はひょんな事から敵である異形に助けられたが、それで終わりでは無い。たった今、なけなしの電波で受信した本部との連絡に、新種の情報を集めろと一斉メールが届いた。それを見た七号は、この異形と過ごさなければならないと悟り、ならば利用してやろうと思う。今、この絶好のタイミングを逃す訳にはいかないと息を飲み決意する。


「……なら、しばらくの間厄介になるぞ……だが、勘違いするなよ、必ず私たちアンドロイドはお前たちを一匹残らずこの星から排除し、地球を取り戻す。今は一時休戦ということだ……それを忘れるな」


 ギロりと睨みながら、刺々しい言葉を異形に向ける。すると異形はそんなの関係ないとでも言うように明るくパッと花が咲くような感じで答える。


「ア、ア、ワ、ワカッタ!ウウウレシイ!ハハハジメテ、イッショ、ハジメテ!」


 どこに喜ぶような要素があったというのだろうか、疑問に思いながら再び体を休めるように力を抜き、目を閉じる七号。その近くで同じように座り込む異形は嬉しそうにゆらゆらと頭を動かす。暗くなる視界に微かに写ったのは、大きな瞼のように顔の真ん中にある線が一瞬だが笑うような感じで歪んで見えた気がした。こうして、七号と不思議な異形との短い共同生活が始まったのである。

この作品を読んでいただきありがとうございます!

初投稿ですごく緊張しました。この調子で、新しい作品や続きもどしどし投稿するつもりなので良ければ見てください。

面白かった点や気になったところなど、気軽に感想を残していただけると幸いです!

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