神龍の遺跡
私たちは、ウルガルに向かう道中にある、神龍の遺跡を訪れた。
そして、宿敵パウムスへの嫌がらせとして、龍の残滓の破壊に乗り出す。
ベルとメルの二人は夢見の森を歩いていた。
濃い霧のような花粉で前がほとんど見えない森を、メルと手をつないで歩く。
この森は非常に性格が悪い森だ、その人の最も見たい夢を見せる森。
そのせいでこの森での自殺者が後を絶たないという。
もしこの森が地球に実在していれば、一体何人がここに来るのだろうか。
そんなことを考えていると、森の出口が見えてきた。
「あ、森の外が見えてきたね」
「やっと出れた~、あの森変な匂いするから嫌い!」
「花粉でまみれてるからね」
そうして私たちは夢見の森を無事に脱出した。
本来ならどんな冒険者でも入ろうとはせず、迂回するこの森を私とメルは直線で通り抜けたのだ。
A級冒険者でもしようとはしない程のバカな行動だが、私には通り抜けられる自信があった。
ともかく、夢見の森を抜けたので、次の目的地は神龍の遺跡。
神龍の遺跡は昔自分たちが助かるために龍を信仰した人間たちが建てた遺跡で、龍の巣にはなったが、人間たちが見返りを求めたせいで龍に滅ぼされ、すぐに龍が巣を捨てた、何ともあほらしい神殿だ。
「へ~、勝手に信仰したのに見返り求めたの?」
「そう、龍ってもとは神様だからね、雨を降らすとかならできるし、それを求めたの」
「龍からしたら普通に迷惑だね」
「そうだね~、メルはそんなことまで考えれて頭がいいね~」
「えへへ~」
実際、メルの言うとおりだ。
勝手に信仰され、そのくせ信仰したのだから雨を降らせだの病を治せだの、自分勝手が過ぎることだ。
そういえば、神龍の神殿は龍が暴れたので龍の残滓が残っているらしい。
つまりは、ラトルの龍の角の下位互換があるというわけだ。
下位互換なのでB級以上の冒険者がたまに回収して、国に兵器開発の材料として渡しているらしい……。
となると、私的には破壊したい代物だ。
そんなこんなしていると、遠くに大きな山と、そのふもと辺りにある神殿が見えてきた。
「ねえママ!あれが神龍の神殿?」
「そうだよ、ここからでも見えるってことは、結構おっきいんだろうね」
「わはー!すっごくキレイ!」
遠くに見える神殿は、地球でも見ないような、巨大な一本の塔があり、それの周りにいくつかの建物が建設されている。
おそらくはあの塔の頂上が、龍の巣となっていた場所なのだろう。
そしてその周りの建物が、信者たちの住居なり礼拝室なりなのだろうが、この距離ではわからない。
「それじゃあ、アレを目印にして行こうか」
「は~い!」
私とメルは神殿を目印にして、真っすぐ進んだ。
途轍もなく大きな建物なので、木に隠れて見えなくなるなんてことはなく、森の中でも問題なく目印に出来た。
そうして、私たちは神龍の遺跡の真下に到着した。
中央の塔は、首を九十度に曲げても頂上が見えない程の高さのせいで、首が痛くなる。
「ママ~、すっごくおっきいね~」
「そうだね、あの頂上を龍が昔は巣にしてたんだってさ」
「ほへ~」
「登ってみようか」
「いいの!?やった~!」
おそらくは、あの頂上に龍の残滓がある。
頂上から溢れ出る大量の魔力と、その魔力から形成されたであろう、金色の鉱石が遺跡の壁や床、天井に貼り付いていた。
ただ、ラトルにあった龍の角よりかは、少し少ない気もする。
「さてと、メル、おんぶしてあげる」
「ほんと!?やった~~~!!!!」
そうして、メルを背中に乗せる。
そして、両手を龍化させ、塔の壁に爪を食い込ませ、軽々と登っていく。
そんな風に登っているため、あっという間に五十メートルあたりまでやってきた。
「それにしても、ほんとこの塔はおっきいね」
「ね~、上からの眺めって綺麗かな?」
「きれいだと思うよ~、さ、あと大体二百メートル!」
そう、この塔は私の推測で大体二百五十メートルあるのだ。
と言っても、それぐらい大きく見えるってだけで、もっと小さいかもだし、もっと大きいかもしれない。
そんな風に順調に登っていた時、近くから鳥型の魔獣の鳴き声が聞こえてきた。
「おっと……メル、もっと強く掴まっておいて」
「うん……!わかった!」
メルが力いっぱい掴まったのを確認し、片手を壁から離し、体の向きを百八十度変えて、視界を広げる。
すると、三体ほどのホーンホークがこちらに向かって飛んできていた。
「う~わ、ホーンホーク、てか名前言いにくいな」
「骨の鷹さんだっけ?」
「そう!よく覚えてたね、偉いよメル!」
「えへへ~」
そんな会話をしている暇など本来なく。
もうすでにホーンホークが近くに来ていた。
「さて問題です、こういう、骨系の魔獣はどうやって倒せばいいでしょうか」
「ん~~~、わかった!聖魔術!」
「正解!!ってことで『天の光柱』」
私がそう唱えると、天から光の柱が降ってきて、ホーンホーク三体を一瞬で炭に変えた。
『天の光柱』とは、聖魔術の一つで、天から光の柱を落とす魔術だ。
聖書に示された罪を犯した者には効果があり、その数ごとに威力が増す魔術である。
「お〜、ママすごーい!」
「ふふん、そうでしょ〜、さ、続きを登ろうか」
私たちは再び塔を登り出す。
少し登ると、傾斜が着いてる場所があったが、そこも難なく、ぶら下がりながら登ってクリア。
その次はまた魔獣が現れたが、F級の雑魚魔獣だったので簡単に討伐。
何故かヌメヌメした壁があったり、突風が吹いてきたりしたが、そこまで危険に陥ることなく、頂上までたどり着いた。
「着いた~~~!!」
「ふぅ~、疲れたね~」
「っと、あれが龍の残滓か……」
「わぁ!でっかい……抜け殻?」
私たちの目の前に現れたのは、龍の脱皮した抜け殻だった。
抜け殻でも戦争に利用することができるほどの魔力を残し、抜け殻からわかる、その恐ろしい姿。
これが世界を支配するバグ、龍の力だった。
「さて、壊そうか」
「壊すの!?」
「ふっふっふ、少しでもあのじじいに嫌がらせしようと思って」
そう言って私は腕を龍の爪に変えた。
私のこの行動は間違った選択だったのだろう、パウムスが弱体化されれば、他国が攻めてきて、水龍村やラトル、アルカナに被害が行く可能性すらあったのだから。
なのでこの行動は愚策なのだが、私はそこまで頭がよくないのでやっちゃった。
「メル、一応影の中に隠れてて?飛べるから落ちる心配はないだろうけど、危ないかもだから」
「え~、メルも戦いた~い」
「う~ん、まあ、なら一緒にやろっか、じゃあ、いくよ!!」
私は振りかぶり、抜け殻に攻撃を加えた。
すると、抜け殻は破壊されることを防ぐために、ラトルの時と同じように昔の龍の姿を魔力で再現し、私たちの前に立ちはだからせた。
その姿はライオンの様な頭と背中の大きな翼、顔から下は硬い鱗に覆われた、半透明の龍が姿を現した。
「ハハッ!相変わらず……本体の千分の一も力がないってのに、すごい力だね」
「ま、ママ……アイツめっちゃ強そう!!」
「ふふ、そうだね、さあ、やろうか!!!」
モノクロスとの戦いで私の身体能力は大きく向上していた。
それはアイツが無理やり龍化を早めたからで、体の半分以上が龍になっているのだろう。
無論大問題なのだが、戦闘に関してはかなり役立つ。
龍の爪はどんな硬いものでも切り裂き、牙はケツァルコアトルの鱗すらかみ砕く。
かなり便利だ。
そんな体を私は使い、獅子龍の顔面を思いっきり爪で切り裂いた。
「ワンヒット!!!」
「あ!ママずるい!!『本能解放』!!」
メルの『本能解放』は、シャドウワイバーン本来の姿を開放する、存在系の魔術だ。
私が龍の体と入れ替える時に少しコツを掴んだのでメルにも教えたのだ。
『本能解放』を使ったメルの姿は、以前私が戦ったワイバーンキングが二回り大きくなり、漆黒の鱗に覆われた姿に変わった。
「よ~し!行くぞ~~~!!!」
メルはそう言って、羽ばたき、獅子龍の羽の付け根を切り裂いた。
そのままメルは獅子龍の背中に掴まり、その傷口に向かって、黒炎のブレスを吐き出した。
「メルやるね~」
「そうでしょ!メルとっても強いの!!」
褒められ、ブレスを吐き続けるのを忘れたメルは、獅子龍に左翼を噛まれ、そのまま放り投げられた。
「あ~あ、油断するから……さてと、私の方は……『空間転移』」
獅子龍の背の上に転移し、メルが傷つけた羽の付け根をさらに斬り、羽を落とす。
そのままの流れで頭から尻尾までを一直線で切り裂く!
さすがの獅子龍でもその攻撃にはひるんだ、その隙を見逃さず、首を連続で攻撃し、首を落とした。
「ふぅ……討伐成功!」
「あぁ!!先越された~~!!!」
「早い者勝ち~」
私たちは龍に勝ったと油断していた。
首を落とされ死んだと思った半透明の獅子龍の死体が起き上がり、私の脇腹に強烈な前腕による殴打をくらった。
「ガハッ!?」
「ママ!!!」
その威力で塔の端まで吹き飛ばされ、危うく落ちるところだった。
私が獅子龍の方に視線を戻すと、斬り落としたはずの首がつながっていた。
「クソ!忘れてた、本体は脱皮の抜け殻!攻撃すべきは頭じゃなくて皮膚全体か!……メル、立て直すよ!」
「うん!!!」
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