悲劇のその後
ベルは罪の意識を吹き飛ばし、次の町へと向かう準備を始める。
ベルとメルは、倒壊した家や、亡くなってしまった人たちの死体を埋葬するために、アルカナに戻っていた。
「ねえママ、なんでこの人たちを地面に埋めるの?」
「えっとね、魂を大地に返す、とかだったかな?」
「なるほど……」
そんな会話をしながらも、丁寧に亡くなってしまった人たちの体を馬車の荷台に寝かせ、共同墓地まで運んでもらった。
この人たちを、私は助けることができなかった。
もっと…魔獣を倒せていれば、この人たちは助かっていた、実力不足を強く感じてしまう。
「よし、ここら辺の死体は片付いたね」
「次は何するの?」
「壊れちゃったお家の瓦礫とかを片付けることかな」
「わかった!」
ベルが瓦礫の片付けに入ろうとすると、遠くから誰かが全力疾走でベルに向かって走ってきた。
その相手は、ベルを捕まえ。
「ベルちゃん!休んでてって言ったわよね!?」
「あ、ハーラ、ごめんね、ちょっとじっとしてられなくて」
「それでも!!メルちゃんからもベルちゃんに休んでって言って!」
「ねえママ、メルね、ママと一緒にお昼寝したいの」
「ぎゅぅ♡!?そ、そうだね!一緒にお昼寝しよっか!」
「……なんか、ベルちゃんの扱い方熟知してるわね…」
そうして、ベルとメルはお昼寝ができる安全な木の上で一緒に眠った。
眠っている間、ずっとハーラからの視線があった。
ベルが起きたのは夕方頃、日が暮れかけ、オレンジの空になっている時間だった。
ベルは思う、そろそろ王都への旅を再開しなければならない、だが、アルカナの復旧作業を手伝う義務が、自分にはあると思っていた。
だから中々アルカナを出れないでいたのだ。
「……ベルちゃん、罪悪感とか感じてる?」
「うわぁ!?びっくりしたー!!!!なんでえ、なに、四時間ぐらいずっと見てたの!?」
「あんまりにも可愛かったから♡」
ハーラは頬に手を当て、ゆらゆらと至福だったことを体で表していた。
ベルはその行動を無視して話し出す。
「そんなことするなら彼女さんたちの看病しててよ」
「ランとサエラは大丈夫よ、モリモリご飯食べてたし」
「そっか……元気でよかった」
ハーラは「それで」と、話を戻し、真剣な表情でベルに話す。
「ベルちゃんは罪悪感なんて覚えなくていいの」
「でも……私があの盗賊団に手を出さなかったら……」
「ホワイトサーペントとブラックサーペントの時と同じよ、時間の問題だっただけ」
そう言ってハーラはベルの顔を両手で掴み、顔を近づける。
しっかりと言葉を伝えるためだろう。
「ベルちゃんはアルカナの英雄よ、いっぱい人を助けたんだから」
「でも、それより助けられなかった人たちの方が多かった……」
「はぁ、ベルちゃんがいなかったら、きっとアルカナは滅んでたわよ」
「……でも」
「でもでもうるさい!ベルちゃんは英雄!罪悪感なんて感じる必要ないの!だから、ベルちゃんはまた冒険に出ていいのよ?」
どうやら見透かされていたらしい、復旧作業で罪を償い、少しでも罪悪感を消そうとしていたが、ハーラの言葉がすべて吹き飛ばしてくれた。
ベルは両頬を叩き、気合を入れなおす。
「そうだね、私には、おっきな目的があるんだもん!」
「ふふ、そうよ、復旧作業なんて、私たちでも出来るんだから、任せなさい!」
「うん……ありがと!」
「ひぁ!?♡」
お礼として、思わずハーラに抱き着いてしまったのだが、少し刺激が強かったらしく。
ハーラが鼻から血を噴き出してベルとメルが眠っていた木の枝から頭から落ちてしまった。
ベルはハーラを水龍村の病院まで運び。
「も~!何してるんですか!」
「ハグされた程度で鼻血噴き出すって……情けないリーダだな……」
「うぅ…面目ないです……」
ベルは怒られているハーラを見て、少し申し訳なくなり、声をあげるが。
「ま、まあ、私が抱き着いたのが悪いし……」
「いや!ベルは何も悪くない、この変態が悪いんだ」
「そうですよベルちゃん!変態リーダーが悪いんです!」
「そんな……変態変態って……ひどい……」
「それよりだ、なあベル、お前そろそろ次の街に行かないとじゃないか?」
「あ!そうですね、ベルさんは復旧作業なんかより、冒険に戻らないと!」
二人にも言われてしまった。
ここまで言われてしまったら、さすがのベルも気持ちが変わってくる。
「そうだね……あとは任せてもいい?」
「「「もちろん!」」」
そういうことで、ベルはまた冒険に出る準備を始めた。
アルカナの時は救助者の魔力を借りて『空間転移』を使ったので、何回も使用していたが、今回はベルとメルだけの二人旅だ。
1度冒険に出れば、水龍村やラトル、アルカナに戻ることは出来ない。
なので、水龍村では食材や調味料を買い込み、腐ることがない、魔術袋に詰め込んでいく。
「ベルちゃん、りんご持っていきな!」
「おぉ!それならこのパンも持っていくといい!」
「わしは野菜をやろう」
「わわ!みんなもういいよ!」
「何言ってんだい!英雄の出発なんだから!」
アルカナの救助をしてからというもの、
色んな人に英雄と呼ばれるようになってしまった。
ベルがやったことと言えば、魔獣10万体程の討伐と2000人の救助、支援のみだ。
「あ、いや…結構英雄してるかも…」
「そうだよ!ベルちゃんは十分英雄だよ!」
「アルカナから来てくれた人達も、みんなベルちゃんに感謝しとった!」
そんな感じで、おじいちゃんとおばあちゃんに励まされ、流石に照れ始めていた。
老人の話は長いせいで、あっという間に時間が経ち、疲れて眠ってしまったメルを抱っこして、宿にもどる、すると、何故か部屋に大量の食料や衣服が置いてあった。
「な、なにこれ…」
「あ、ベルちゃん帰ってきた!」
話しかけて来たのはこの宿の看板娘のミノさん。
ミノさんは、大量にある荷物を指さし…。
「これね、村の人とか助けてもらった人たちが、農作業とか手伝って、ベルちゃんにあげたいって、みんなが持ってきたから、とんでもない量になっちゃって」
「みんなも生活苦しいはずなのに、全く…」
「まあとりあえず、みんなの気持ちですから、貰ってあげてください」
「うん、大事に使うよ!」
そうして翌日、ベルは魔道袋の中がパンパンになるほどの荷物を貰い、水龍村にいたハーラたち棘や助けた人たち、老人たちに別れを告げていた。
「みんな!ほんとにありがと!」
「ありがと!」メルも真似してペコリとお辞儀する。
「ふふ、いいのよベルちゃん」ハーラが言った
「また戻ってきてもいいからね」
「そうじゃぞ!何時でも戻ってきなさい」
「ベルちゃん、この前は助けてくれて、ありがとね」
「うん…それじゃあ、みんな!行ってきます!!」
「「「行ってらっしゃい!!」」」
ベルは『空間転移』でアルカナの北門に転移した。
今、アルカナの一部は復旧作業が進み、徐々に昔の姿を取り戻していた。
ベルはその様子を見て、安心し、アルカナを旅立とうとしたその時。
「あ!待ってください!!ベルさん!!」
「ん?あれ、レルゲンさん!」
「はぁ!はぁ!ま、間に合った…」
「どうしたの!?そんな急いで!」
ベルの前に現れたのは、アルカナ冒険者組合の組合長、エルフのレルゲンだった。
レルゲンは走ってきたのだろう、かなり呼吸を荒くして、ベルの元にやってきた。
「ゲボ、報告が…2つほどありまして…」
「う、うん、なに?」
「ふぅ…ふぅ…え、え〜、まずは、ベルさん、アルカナを救って頂き、ありがとうございます」
「あぁ…いえいえ」
「アルカナを救ってくださったお礼として、ベルさん、あなたをA級冒険者に昇格させます!」
A級冒険者、それは冒険者の中での、S級という例外を除いての最高峰。
国に一人いるかの逸材であり、大国でも最大で三名、それほどの実力を認められた者が、たどり着ける、冒険者の最高峰だ。
「は、はは、それは…嬉しいね」
「ふふふ、そうでしょう、ですが、ベルさんは十分な実力をお持ちですよ」
「そう……だといいな、それで?もう一つは?」
「あぁ、もう一つは魔獣の等級が変わりました」
「あぁ…なるほどね、確かに少し曖昧だったもんね」
「えぇ、詳しくはこちらの書類に書いてあります」
「うん、ありがと」
「それでは、ベルさん………お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
その言葉を背に、ベルとメルは歩き出した。
次の目的地は山岳都市、ウルガル。
一匹の龍と共存する街だ。




