アルカナを襲う大事件
ベルが妖狐のアジトを出ると、そこには地獄絵図が広がっていた。
街をゴブリンやオーガ共が歩き回り、人間を大虐殺していたのだ。
ベルはハルから聞いた、「プレゼント」という言葉が気になり、急いでアジトから飛び出した。
すると、そこには地獄絵図が広がっていた。
アルカナの様々な所から悲鳴と火柱が上がっていた。
そして、そこら中にゴブリンやオーク、さらに強い魔獣の気配すらする。
「クソ!最悪なプレゼントを寄こしやがって!待って、メルは!?」
ベルはメルやハーラ、ラン、サエラのことを思い出し、急いで冒険者組合に向かって走る。
ベルが冒険者組合に着くと、扉の前では、アルカナに残っていた、無傷の冒険者たちが魔獣を食い止めていた。
冒険者たちが減っても、冒険者組合、さすがの防衛力だ。
「みんな!建物の中に避難して!!」
「べ、ベルさん!皆さん避難してください!!」
レルゲンのおかげで、冒険者たちは疑わずに建物の中に避難してくれた。
なのでベルはなんの手加減もなく、広範囲に魔術を放てる。
「『絶対零度』!!!」
ベルの放った絶対零度で、冒険者組合を襲っていた、ゴブリンなどが一瞬で氷像となった。
これで少しの間は冒険者組合は安全になっただろう。
ベルは急いで冒険者組合の中に入り、メルたちを確認する。
「レルゲン!メルたちは!?」
「大丈夫です、ベルさん、メルさんたちは無事です!」
「よかった……、とりあえず、けが人たちを安全な場所に移そう、『空間転移』が使えるから!」
「わかりました、私も使えるので手伝います!」
そうして、ベルとレルゲンは、先のモノクロスとの戦いで生き残った冒険者たちと、棘の三人を空間転移でアルカナから離れた水龍村まで運んだ。
「シルエッタさん、みんなをお願い、メルも、ここで待っててね」
「ママ……また行っちゃうの?」
「うん、でもすぐに戻るから、ね?」
「………うん、絶対だよ…」
「約束、絶対戻ってくるからね」
「それじゃあ、シルエッタさん、メルのこともお願い」
「はい!ベルちゃん、気を付けてね」
「うん!」
そう言って、ベルは再び『空間転移』でアルカナに戻った。
アルカナに戻ると、さらに状況は悪化しており、大量に聞こえていた悲鳴の数が明らかに減っていた。
これはつまり…死んでしまった可能性が高い。
さらに、ゴブリンの繁殖能力は高く、人間との間にも子を作ることができる。
もし人間が襲われていれば…ゴブリンが増えてしまう。
「クソ!出来るだけ助けないと……」
ベルは建物の屋根に飛び乗り、アルカナ中を走り回る。
所々から人々の助けを求める声がする、ベルはそこに向かう。
ベルが目にしたのは、ゴブリンに女性が襲われている、腸の煮えくり返る場面だった。
ベルは怒りに任せて、手だけを龍化させ、ゴブリンの頭を消し飛ばす。
「お姉さん、大丈夫……じゃないよね」
「たす…かったの?あ、ありがとうございます…」
やはり、ゴブリンに襲われるなんて経験、精神的なダメージが大きいのだろう、助けた女性はうつろな目をしていた。
「お姉さん、ちょっとじっとしてて、聖魔術かけるから」
「聖…魔術?なんで…」
聖魔術とは、神々から力を借りる魔術のことだ。
魔獣などの魔の者に特攻を持っており…この女性の腹に宿ってしまったであろうゴブリンの子どもも、消すことができる。
「知らない方がいいよ……」
そう言って、ベルは何も言わず女性に聖魔術をかける。
その後は服を整えてあげて、水龍村まで『空間転移』で運んであげた。
その後も何人か助けた、その中には、ゴブリンの習性を知っている者もいる。
「ねえ、お願い…私を殺して…中に…出されて…ゴブリンなんか生みたくないの!!!」
「大丈夫、大丈夫だから、生まれないように出来るから」
「いや!!嫌なの!!あんなことされて、もう生きてないの!!」
その女性にも聖魔術をかけ、水龍村まで運んだ。
シルエッタさんに精神のケアなども頼み、再びベルは戦地に戻る。
幸いなことに、アルカナに放たれた魔獣は全て下級の魔獣だけだ。
ベルならば簡単に対処できるが、一般人からすれば災害も同然だった。
目の前に現れる、オークやゴブリン、スライムにホーンウルフなどを倒し、人がいれば水龍村まで運ぶ、ということをもう十回以上繰り返した。
「ふう、ふう…『魔力感知』」
ベルの脳に大量の情報が流れ込む、生き残った人間の居場所と、まだいる魔獣の居場所や数、そして……大量の人間の死体たち。
「ひっ!うっ、ゲホ、オエ…!」
私は思い出してしまった、ベルナ村のあの惨状を。
そして、それよりひどい惨状を見てしまった、腹に身ごもってしまい、自ら腹を裂き死んだ女の死体や、生き残ることを諦め、心中した夫婦の死体、オークに踏みつぶされた子供の死体、生きたまま食われる赤子の姿が。
そのすべてが一瞬にしてベルの脳内に流れ込んできたのだ。
「まだ……まだダメ、全部…終わらせてから」
ベルは再び走り、生き残った人々を助ける。
その最中も、無残な死体を何個も見かけ、ベルの心はすり減っていった。
その後も、まだ生きている人を助けるために何度も『魔力感知』を使い、何度も何度も心に傷を負いながら、人々を助け、気づけば、二日が経っていた。
龍の血のせいで疲れを感じず、体に限界が来ないため、二日間、人々を不眠不休で、何も食べずに、一度たりとも休まずに、常に戦い続けた。
そのおかげで、ベルは一日目では五百人、二日目では、他の町からの救援などが来て、二千人の救助に成功し、アルカナの住民500万中200万人の死者で抑えることが出来た。
その成功のカギは、ベルが二日間、常に魔獣を殺して回ったことが、大きいだろう。
そうして、ベルはメルを迎えに行くために水龍村に戻ってきた。
「メル……ただいま」
「ママ?ママ!!」
メルが勢いよくベルの体に抱きついてきた。
私の心には、安心感と、罪悪感のふたつの感情があった。
メルを二日間も一人にしてしまった。
そんな罪悪感があった。
「ごめんね…メル、1人にしちゃったね」
「……すぅ…すぅ…」
「寝ちゃった」
「ふふ、メルちゃんね、ベルちゃんが帰ってくるまで、限界まで起きてたのよ」
「ハーラ!体は大丈夫なの?」
「えぇ、ベルちゃんのおかげでね」
ベルの目の前にハーラが現れた。
体のあちこちに包帯が巻かれており、右腕が欠損していた。
「その腕…」
「毒が広がってて、治癒魔術でも治せなかったのよ」
「ごめん…」
「謝っちゃダメよ、ベルちゃん、あなたのせいじゃないんだから」
「……うん」
2人がそんな会話をしていると、村の方から大人数の人がやってきた。
「あ!助けてくれた子だ!」
「お嬢ちゃん!俺を助けてくれて助かった!」
「ベルちゃんが助けた人たちよ、みんなベルちゃんに感謝してるの」
「そっか…みんな無事でよかったよ…」
そんな風にしていると、助けた人たちに担がれ、村の方に連行された。
「ふぇ!?な、なに!?」
「ベルちゃん…だったよね?こんなにやつれて、体も汚れちゃって!温泉に入ってご飯をいっぱい食べて!」
「えぇ!?い、いや!悪いよ!!それに復旧作業にも戻らないと!」
「ベルちゃんはそんなことしなくていいの!」
「とにかく休む!!いいね!」
「は、はい」
その後は何故かお姉さんたちに囲まれてお風呂で身体中を洗われ、ご飯も食べさせられ、撫でられ、愛でられ。
究極の癒しを受けた。この中には家族を失った人もいただろうに、私にばかり構って、少し悪いと思ってしまった。
夜
「ねぇママ、今日はぎゅーってして寝て?」
「うん、いっぱい抱きしめてあげる」
「…もうママと離れたくない」
「私も…メルと離れたくないよ」
明日はメルを連れてアルカナの復旧作業に向かう。
少し、ベルは罪悪感を持っていた、ベルがあのアジトに手を出さなければ、あんなことにならなかったのではないだろうか。
ベルは、そんなふうに考えてしまう癖があった。




