魔獣使いケリィ
ベルは、魔獣使いケリィを倒すために、アジトの奥へと進む。
ベルはさらに下の階に降りた。
長身の男からの情報によれば、この下の階に、ケリィの部屋と実験場があるらしい。
つまりはあと一階下りれば、ボス戦なのだが……
「人数多くない?」
ベルは五十人ほどに囲まれていた。
全員体格がよく、硬そうな装備を着ている、非常にめんどくさい。
さらに、ベルの今いる長い廊下、その奥にあるデカい扉の奥に、非常に強そうな魔獣の気配を感じるのだ。
つまり、この五十人を、体力を使わずに倒さないとならない。
「めんどくさ~い……『鎌風』」
とりあえず『鎌風』を放ってみたが、硬い鎧のせいで、簡単にはじかれた。
「は~、まあ龍の爪ならいけるかな」
そう言って、ベルは盗賊たちの中に突っ込んだ。
流れ作業のように、盗賊達の心臓や首、致命傷となる場所を突き刺し、殺していく。
ベルはふと気づいた。
フルフェイスのヘルメットが割れ、中にいた盗賊の顔が見えたのだ。
そして、その首には手術の跡、そういえばうめき声や断末魔が無かった。
おそらくは、声帯を手術で奪われたのだろう。
「可哀そうにね、あとは見逃してあげる……こいつ以外は」
「ガっ!?な、何故分かった!?」
ベルは、戦意喪失していた盗賊たちの中に紛れていた、指示役の胸を貫いた。
今、ベルの聴覚は龍化のせいで強化されていた。
そのせいで、防音機能が付いていると思われるヘルメット越しでも、指示の声が聞こえてきたのだ。
「私の聴覚を舐めないで」
「……あとは自由にして、逃げるでも、私に殺されるでも」
そう言って、戦意喪失していた盗賊たちに背を向けて奥の扉に進む。
奥の扉が開くと、頑丈な壁に囲まれた広い部屋が現れた。
そして、そろそろ聞き慣れた子供の、少しふざけた声が聞こえてきた。
「も~!またペットたち壊した~!でもでもでも~!このペットちゃんはとっても強いんだよ~!」
「ふ~ん、どんなペットなの?」
「それはね~!この子!!」
部屋の奥に設置された扉が開き、そこから魔獣が姿を現した。
ベルの前に姿を現したのは、サラマンダー。
火をつかさどる四大精霊とか言われる魔獣だ。
ただ、この世界ではB級上位の魔獣である。
その姿は赤黒い皮膚と、背中の炎が特徴的な巨大なトカゲである。
「B級上位ね~…ホワイトサーペントとブラックサーペントみたいなのはもういないの?」
「あ、あの子たちは私の二番目に強いペットちゃんなんだもん!簡単には出せないよ~だ!」
「ふ~ん、もっと強いのがもう一匹いるんだ…ま、とりあえずこいつを倒すかな」
サラマンダーが喉を光らせ、超高温の溶岩を飛ばしてきたが、ベルは何もせずにそれを浴びる。
だが、ベルの体には傷一つ付いていない。
「な、なんで!?」
「最近知ったんだけどさ、私火に対する完全耐性があるらしいんだよね~」
「ズルじゃん!!反則!!!!」
「知らないよ~、これも実力の一つだし」
「も〜!噛み付け!サラマンダー!!」
ケリィの指示で、サラマンダーはベルに向かって飛びかかり、大きな口を開け、噛み付こうとしてきた。
ベルは腕から肩まで龍化させ、硬い鱗で身を守る。
「はぁ~~~!?何それ!!」
「体質〜」
「ズルズルズル!!!」
「だからズルじゃないって」
腕に噛みついていたサラマンダーの噛みつかれていない方の腕で、下顎から、グサリと貫き、サラマンダーを殺した。
「あ~~~!また壊した!!ひーどーいー!!!」
「だってさ~、命が危なかったんだもん」
「も~!!!」
「てかさ、通してよ、さっさとここをぶっ壊したいんだけど」
「うっ、ぐぬぬぬ!」
ケリィは不満げな声をあげながら、下の階に続く階段の扉が開いた。
それにしても、この世界の科学力は地球より遅れているはずだが、なぜ自動ドアやカメラなどが、ここには設置されているのだろうか。
そんなことを考えながら、階段を下りていると、大きな扉が現れ、そこも自動で開いた。
扉の先は、サラマンダーと戦った時より広い空間だった。
そして、その部屋の真ん中に、メイド姿の茶髪の女と、水色髪で、ぶかぶかの白衣を身に着けた幼女がいた
「来たな!!絶対に倒すんだから!!」
「倒せたらいいね~」
「うぐぬぬぬ!舐めやがって~!!」
「それで、そっちのメイドさんがたまに声が聞こえてきた人?」
「えぇ、ハルと申します」
「………よろしく、んで、一番強い魔獣ってのはどんなの?」
「あ、そうだった、見てろよ~!出てこい!羽ちゃん!!」
実験場の扉が開き、そこからとんでもない長さの、羽毛と羽が生えた大きな蛇が現れた。
「……ケツァルコアトル、これは…まずいかもね」
ケツァルコアトルとは、主にアステカ神話に登場する神だ。
ただこの世界の本では神話のような強い力があるなんて聞いたことがない。
この世界では、空を飛ぶ大きな翼の生えた蛇らしい、そして強力な風魔術を使うとかなんとか。
「へ~、ケツァルコアトルまでしってるんだ、物知りだね、でも、絶対に勝てないんだから!」
「ははっ、確かに…結構キツイね…」
「ふっふ~ん!そうでしょ~!」
実際、かなりキツイ、ケツァルコアトルは、モノクロスと同等の存在。
つまりは国をも亡ぼす化け物だ、ベルの不死を使っても、百回以上は致命傷になるようなダメージを受けるだろう。
そうなると、またアイツが出てきてしまう。
「今回は、いつも以上に頭使わないとね」
「それじゃあ、行け!ケツァルコアトル!!」
ケリィの命令でケツァルコアトルは動き出した。
その長い体を使い、空を飛びながらベルに突っ込んでくる。
そして、体から風を生み出し、その風がベルの皮膚を斬り裂く。
「グっ!クッソ…!」
「あっははは!ピンチだピンチ!!壊れろ!!!」
ケツァルコアトルは風魔法で風の刃を大量に出し。
ベルの『鎌風』以上の威力の威力を持った、風の刃をばら撒いた。
ベルはそれに対抗して、全身の抑制を解除し、体中を龍の鱗で覆った。
「『白銀の姫』!!」
「うわぁー!!なにそれかっこいいーー!!!!」
ベルの体が龍の鱗で覆われたことで、ケツァルコアトルの風の刃を完全に無効化した。
それにより、自由に動けるようになり、ケツァルコアトルに飛びかかる。
ケツァルコアトルの背に飛び乗り、龍の爪で六つある羽の一つを斬り落とす。
「あ~!!ひどい!!壊すな~~!!!!」
「うっさい!こっちが危ないんだから!!」
「も~~!!羽ちゃん!食べちゃえ!!!」
「は!?ちょ、待!」
ケツァルコアトルの背中から落とされ、そのまま口の中に入れられ、飲み込まれた。
ベルは非常に狭い、ケツァルコアトルの胃の中に来てしまった。
ケツァルコアトルの消化能力は非常に強く、すでに体が消化され始めているのだが、龍の血の方が強いらしく、消化と回復がいたちごっこしていた。
「これ……よし、斬って出るか」
ベルは胃の中から龍の爪で肉を掘りながら、外に出ようとする。
「ん?ねえハル、羽ちゃんの様子おかしくない?」
「そうですね、どうしたんでしょうか」
「あと、少し!!!」
「ギャオォォォォ!?!?!?!?」
ベルはケツァルコアトルの胃から脱出した。
ケツァルコアトルも、流石に体内から穴を開けられたせいで、かなり怯んでいた。
「さあて、これで終わりだよ!!!」
「はぁ!?どうやって、はぁ!?」
ケツァルコアトルの目を潰そうとすると、尻尾で吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。
「ガッハ!?はは、流石A級中位だね、手強いや……」
「よっし!!!やっちゃえ羽ちゃん!!」
ケツァルコアトルは再び浮き上がり、口に魔力を集めていた。
おそらくは最後の一撃、全魔力を集めてベルにぶつけるつもりだろう。
命を懸けた一撃だ、それほどケリィに忠義や好意を寄せているのだろう。
「気に入った、受けきってやる!!!」
ベルは体中に魔力で強化し、ブレスを受ける準備をした。
ケツァルコアトルの顔の前に魔法陣が形成され、光が集まり、そこから超強力な風の弾が放たれた。
風の弾が通った場所は、金属製の床が大きくえぐれ、その強力さを表していた。
「さぁ!!来い!!!!」
腕を前に突き出し、風の弾を真正面から受ける。
そして、ベルの体に風の弾が当たった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「やっちゃえーーーーーー!!!!!」
ドカン!!!と、大きな音が鳴り、ベルの真上の天井に、大きなクレーターが出来ていた。
ベルはケツァルコアトルのブレスを受けきったのだ。
ケツァルコアトルは満足そうな顔をし、地面に落下した。
「も~~~~!!!また壊した~~!!!!」
「まあまあボス様、また捕まえればいいですから、さてベル様、私たちは失礼しますね、あぁそれと、アルカナに少しプレゼントを放ったので、お楽しみくださいな」
「あ!待て!!」
ベルが止める間もなく、二人は『空間転移』で逃げてしまった。




