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ヴァルハラの地平は遥か底に 〜赤炎纏し青年は世界の端を目指す〜  作者: you-re


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第十五話 勇士隊の先達

「そういえばさ、ここにはどれだけ戦える魔術師がいるんだ?」


 朝食の席。夜番の者にとっては一日の締めくくり、昼行動組にとっては活力の源だ。シグルドは食事を取りながら、ふと気になっていたことを口にする。



「んー……今この拠点にいるのは、俺とフィオ、それに隊長とアルフォンスさん、あとクリオとレインっすね」


「最後の二人は知らないな」


「旧都調査を任されてるコンビっすよ。基本的にこの拠点じゃ、二人一組で行動するのが基本なんで」


 そういえば、アルフォンスと二人で任務に出たのも、そのルールに従ったものだったか——と、シグルドは思い返す。


 だが話を聞く限り、どう考えても広大な旧都をカバーするには人手が足りていない。



「戦力、かなり少ないな」


「まぁ……戦える奴が居ても死んだり、動ける奴は他の拠点に回されたりしますからね」


「他の拠点って?」


「たとえば……シグレさんとか! トゥーナさんとか!」


「天魔族の名前しか出さないのはどうかと思うっすよ」


「えへへ」


 フィオレッタが無邪気に笑うのを横目に、シグルドはようやく理解する。今この場にいない戦力も、他所で任務に就いているのだ。



「この拠点を含めて、東西南北に拠点が四つ。さらに、それぞれの間に“観測拠点”が四つあるんすよ」


「なるほど、連絡と監視の要所か」


「そうっす。で、動ける人材はそういうとこに派遣されて、支援任務とか情報伝達をしてるわけっす」


「……そういうの、大体魔力量が多くて出力が高い天魔族が選ばれがちで。私はとっても悲しいです」


「私情100%だな、こいつ……」


「そういう奴っす」


 雑談混じりの説明を受けながら、シグルドの中で組織の構図がぼんやりと形を成していく。



「その動き回ってる連中ってのは、ここ所属で間違いないんだよな? どんな奴がいるんだ?」


「そっすねぇ。名前が出たシグレさんなんかが代表っす」


「シグレさんはね、すっごく大きい人!」


「……大きい?」


「身長も耳も尻尾も! もっふもふなんだぁ〜」


(身長が大きい……耳と尻尾……レーヴァテインの幹部みたいな感じか?)


 フィオレッタの言葉をもとに、シグルドはぼんやりとその人物のイメージを膨らませる。



「まぁ、とにかくでかい。存在感がすげぇんすよ」


「物知りでね〜、いろんな本を読んでるし、読んでくれるんだけど、でも睨まれるとめっちゃ怖い!」


「この拠点で、子どもたちを何も言わずに黙らせられる唯一の人物っすね」


(読書家で、圧がすごい……)


 イメージがどんどん“毛むくじゃらの獣人系読書家”になっていく。



「あと、めちゃくちゃ強い」


「語彙力なくなってるぞ」


「いや、言いたいことは分かるっすよ。なんていうか、豪快なんすよね」


(豪快……)


「魔力出力に物を言わせた戦い方って感じで、俺は結構好きっす」


「シグレさんが好きと言ったか貴様ァ!?」


「うるせぇっす」


「きゃん」


 二人のテンポの良い漫才じみたやりとりを聞きながら、シグルドの中で“シグレ像”が完成していく——眼鏡をかけた、豪快な毛むくじゃらの大男。まぁ頼りがいがありそうなのは良いことだと、シグルドは最後に残った一口を飲み込み、食事を終えた。



ーーーーーーーーーー



「んで、次はトゥーナさんっすね」


「トゥーナちゃんはね、すっごく綺麗な人!」


「女性なのか」


「うんうん、立ち居振る舞いがね、なんていうか……とっても上品!」


「正義感にあふれてるっていうか、曲がったことは許せないタイプっす」


 次に挙がった人物は、シグレに比べればイメージしやすい。気高くて凛とした、芯のある女性。そんな印象を受けた。



「一本だけ角がすらっと生えててねぇ……あれがまたかっこいいんだぁ……」


「あれ刺さったら痛そうっすよね」


「トゥーナちゃんはそんな野蛮な使い方しない!」


(一対の角じゃなく、一本角か……)


 シルラのように丸く湾曲した羊角ではないのだろうと、シグルドは頭の中で姿を思い描く。



「それから、トゥーナさんって珍しいマギア二つ持ちなんすよ」


「そうそう! 剣と盾の組み合わせ! 白地に金と赤の装飾……あれがまた似合うんだよね〜」


「セレンは短剣の二刀流だったが、マギア二つ持ちって普通にありなんだな」


「っていうより、シグレさんもそうですけど、二人とも天魔族の中でもスペックが桁違いなんで。出力に合わせた専用設計じゃないと、量産型じゃ性能不足なんすよ」


「つまり……オーダーメイドってことか」


「ご名答っす。どっちも専用マギア使いっすね」


「セレンさんがさ、『私は隊長だぞ、私にも頂戴』って駄々こねてたんだよ〜。めちゃくちゃ必死で」


「……何やってんだあの人」


 隊長という肩書を、そんな風に使っていいのかと呆れながらも、ふと気になることが浮かぶ。



「で、やっぱり強いのか?」


「んー、強いことには強いっすけど……」


「シグレさんが“攻め”なら、トゥーナちゃんは“守り”だよね!」


「“守り”?」


 盾持ちと聞けば守備寄りだとは思うが、いまいち戦闘のイメージがつかない。



「例えば、盾を大きくしてみんなをかばったり、盾を地面に突き立てて、そこからおっきな壁を生やしたり!」


「拠点の構築時に壁を造るのとか便利なんで、今は建築士としても飛び回ってるんじゃないっすかね」


「言い方ァ! ちゃんと戦えるんだからね!? シグレさんと比べて地味に見えるだけで、堅実で丁寧で、すっごく頼りになるんだから!」


「いや、フィオのほうが言い方ひどいっすよ……」


(なるほど、豪快な破壊型のシグレと、堅実な防御型のトゥーナ……)


 二人は対照的でありながら、それぞれの得意分野で突出していることがよく伝わってくる。


 そんな話をしているうちに、朝食の時間は自然と終わりを迎えた。



ーーーーーーーーーー



「……あ、そういや、あの人たちって今日帰ってくるんじゃないっすか?」


「あー! じゃあ、やっと私たちにもおやすみが!?」


「来るといいすね」


「あの人たちって?」


「正門守備隊の仲間っす。今は南西観測所に遠征行ってて、今日が帰還予定だったはず」


 持ち場に向かう二人を見送りながら、そんな情報を聞き出せたのは収穫だった。



(……あ、名前、聞いときゃよかったな)



ーーーーーーーーーー



「…………」


「おっ、なんだお前は! 見かけねぇ顔だな!?」


 続いてシグルドが足を運んだのは、金属音と熱気に包まれた工房だった。以前、セレンに案内されたことはあったが、簡単な説明だけで奥までは踏み入れていなかった。



「俺は―――」


「おお、なるほど新人か! 新人だな!? 一体全体何の用でぃ!」


(……話を聞かないタイプか? それに、声でけぇ……)


 工房の作業音に負けじと響き渡る怒涛の音量。鼓膜が痛くなるほどの声で、職人風の男が距離ゼロで喋ってくる。



「ここに来れば、いろいろ作ってくれるって聞いて―――」


「そぉれ任せろぃ! マギアの改修から、専用サポートギアの開発まで! このヴェルンド工房に任せときなぁ!!」


(……うるせぇ)


 口調も身振りも派手だが、アルフォンスのような芝居がかった感じではなく、純粋に“ボリュームがバグってる”タイプのうるささだった。シグルドは耳を押さえたい衝動を必死にこらえつつ、要望を伝える。




「なるほどなるほど! つまり、熱に強いウェアとギアが欲しいってことだなぁ!?」


「あぁ、そうだ」


「任せとけぃ! そんなもん朝飯前よぉ! ……っと、朝飯はさっき食ったばかりだったな! がっはっはっは!!」


(……ほんと、うるせぇ……)


 くだらないギャグに眉をひそめつつも、立場上強く言えず、耐えるしかない。今日、シグルドが工房に依頼したのは、自身の炎の出力にも耐えられる専用装備だった。



「で、デザインはどうする!? ウチには一流のデザイナーもいるからな! どんなオーダーでも華麗に仕立て上げてやるぜぇ!!」


「……そうだな。今の装備に近い感じで、動きやすくて……派手すぎないやつがいい。特にこだわりはないけど」


「おおーっ、わかるぜ兄ちゃん! 炎ってのはそもそも派手なもんだ。だからこそ装備は引き算だな!? 目立たせるなら、ひとつで十分ってことよなぁ!!」


「いや別に、ただ派手なのが趣味じゃないだけだが……」


「いいぜ兄ちゃん! そのシンプルさ、好感持てる! そのぶん、素材と機能で勝負ってわけだなぁ!! んで? サポーターはどうするよ!? 背面補助か? 腰巻き型か? いっそ肩から吊るタイプもありだぞぉ!?」


(……帰りたい)


 この基地には、話を聞かないのに“なぜか通じてしまう”変人がやたら多い。シグルドは、休日にも関わらず心労をどっぷりと溜め込んでいく。




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