↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪メイドは裏切らない【第一部完結】  作者: きのつかさ
第一部「フランベルク編」
8/23

第八話「赤毛の青年」

 多角獣(ケラトス)の遭遇以外は大きな遅れもなく、キャラバンはほぼ予定通りにベルンシュタインの街に到着した。マルコは挨拶もそこそこに、積荷を下ろすために別れを告げた。グスタフもあっさりとしたものだったが、「気に入ったら買いに来てくれ」と、酒の入った小瓶を全員に押しつけていった。グスタフが仕込んだ琥珀酒らしい。

 後に残されたのは、シエルとジャン、それにクロードとリリーだけだ。


「それで、シエルちゃんはどうするんだい?」


 この旅ですっかり打ち解けたジャンが訊いてくる。


「メイドの仕事がないか、街を回ってみようかと思います。」


 少し自信がなさそうにシエルは答えた。勢いでベルンシュタインまで来たはいいものの、あては全くと言っていいほどなかった。


「あのね。シエル。」


 そんなシエルにリリーが珍しく躊躇うように言った。明朗快活な彼女にしては珍しい。


「実はね、フランベルク卿が、使用人を探しているそうなの。」


「フランベルク卿って、あの化け物が?」


 ジャンが素っ頓狂な声を上げる。

 シエルの脳裏に街道を通過する時に見た、多角獣(ケラトス)の死体が頭によぎった。全身を血に染めて横たわるその姿は、とんでもない巨体だった。あれを一人で仕留めたのだとすれば、「化け物」と呼ばれるのも頷けるほどだ。


「ジャンは黙ってて。えっとね。色々言われてるけど、そんなに怖い人じゃないのよ。ちょっと不器用っていうか、変わってるところはあるけど。」


「お知り合いなのですか?」


「……えっと。」


「私はベルンシュタインの役人ですから。リリーも私のお供で、フランベルク卿にはお会いしたことはあります。」


「なるほど。」


 シエルは思案する。確かに多角獣(ケラトス)の件は驚いた。だが、リリーとクロードの事は今回の旅で信頼していた。どうせ、あてはないのだ。ならばこの縁は何かの導きかもしれない。


「分かりました。今日はこちらに一泊して、明日、フランベルクに発ちます。」


 それを聞いて、リリーの顔がぱっと明るくなる。


「フランベルクだったら、馬車で半日くらいだから、機会があればまた会えるわ。」


「ええ。」


 シエルは抱きついてきたリリーを受け止める。彼女とまた会えるのだとしたら、こんなに心強い事はない。


「あたし達、友達よね。」


 リリーの問いに深く頷く。


「もちろん。」


 そんな二人を見て、ジャンが羨ましそうに言った。


「俺は?」


「ジャンさんは……」


「ただの通りすがり?」


 この後、へそを曲げたジャンが機嫌を直すまで、結構な時間を要した。


◇


 次の日、シエルはフランベルクへ向かう馬車に揺られていた。最初はジャンが護衛すると言っていたが、リリーの激しい反対により却下となった。結局クロードが馬車を手配してくれた。ちょうど、フランベルクに向かう役人がいたらしい。何とか日が落ちる前にフランベルクに着いた。シエルは御者に丁寧に礼を言って、領主の屋敷に向かう。

 道中では雪が薄く積もっていた。フランベルクはソレイユ王国最北の街だ。北には魔物の巣窟である魔の森が広がり、人々はその危険と寒さに挟まれて生きている。


 シエルが領主の館の前までたどり着いた頃には、日が落ちようとしていた。もし、雇ってもらえなければ宿を探さなければならないが、この街に宿はあるのだろうか?最悪どこかの納屋でも借りるしかない。

 そんなことを考えながら門の前に立つ。館は二階建てのようだが、見える範囲に明かりは見えない。もしかして留守だろうか?

 ベルンシュタインでクロードに確認してもらったところ、フランベルクには帰っているとの話だったのだが。途方に暮れていると、背後から声がかけられた。


「あの、うちに何か用ですか?」


 振り返るとそこにいたのは赤毛の青年だった。釣り竿と魚が入った桶を持っている。使用人の方だろうか?シエルは慌てて頭を下げた。


「ご領主に、お取り次ぎ頂きたいのですが。」


「領主は俺ですが。」


「え?」


 思わず頭を上げた。

 まじまじと青年を見る。背はシエルより少し高いくらいだろうか?訝しげな表情のその顔はあどけなく、同年代にしか見えない。こんな人物が、あの巨大な多角獣(ケラトス)を倒したと言うのだろうか。


「あの、フランベルク卿ですか?」


「はい。」


「一昨日、ケラトスを仕留めた?」


「はい。」


 なんでそんなことを知っている。そんな顔をしている。


「し、失礼しました。私、シエルと申します。フランベルク卿が使用人を探しているとお聞きしましてお伺い致しました。どうか、私を雇って頂けないでしょうか?」


 一気にそう言うと、フランベルク卿の顔を窺う。その顔は、少し困惑しているように見えた。


「貴女がうちに、ですか?」


「はい。」


「申し訳ありませんが、私が探しているのは家令でして。」


「大丈夫です。私はメイドですが、読み書きや算術もできますし、お庭の知識もあります。大抵のことであれば、お役に立てる自信があります。」


 ラフォンテーヌ家では様々な仕事をやってきた。誇張ではなく自信があった。


「いえ、そういうことではなくてですね……女性の方はちょっと。住み込みになるので、間違いがあっては困りますし。」


(……間違い)


 頭に王都で浴びせられた、下卑た声が蘇る。


『あんたか、お貴族様を誘惑したってメイドってのは。』

 

 頭がかっとなった。


「それは……私が、貴方様を誘惑するとお考えですか?」


「へ?」

 

 青年はぽかんと目を見開き、抱えていた魚をわずかに持ち直した。

 それを見ても、走り出した感情は止まらなかった。青年に、そのまま畳みかけてしまう。


「私は、そんな下品な女に見えますか?」


「いや、そんな。そういうわけでは、なくてですね。」


「であるならば、問題ないはずです。それともフランベルク卿の方が、私に手をお出しになると?」


「そんなわけないでしょう!!」


 赤毛の騎士の大声があたりに木霊した。ばさりと、近くの木から雪が落ちる。

 その大きさにシエルの身体がビクッと震えた。


「すみません、取り乱しました。」


「いえ、私こそ。」


 シエルの顔が羞恥で赤くなる。かっとなってとんでもないことを言ってしまった気がする。


「もう今日は遅いです。とりあえず中にお入りください。ちょうど夕飯を作るところだったんです。」


 そう言って桶に入っている魚を示す。シエルは恐縮して頷いた。

 二人は、ゆっくりと門の中に入って行った。



挿絵(By みてみん)


お待たせしました。

赤毛の騎士がやっと登場しました。

ここからどんどん展開が動きますので、面白かったらブクマ、感想、評価をお願いします。

本当作者のモチベーションに影響しますので!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。