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黒髪メイドは裏切らない【第一部完結】  作者: きのつかさ
第一部「フランベルク編」
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第二十二話「フランベルク家のメイド」

 ルシアンはすやすやと寝息を立てていた。

 一瞬固まってしまったシエルだったが、すぐに冷静になった。

 よく考えると、ルシアンは昨夜の晩からほとんど徹夜で活動していた。フランベルクからクロードと交代で馬車を走らせ、午前中は泥炭とフラムの買い付け、午後からは衣料品と食料品、さらには先ほどの宴会だ。実際シエルだって眠気を感じていた。むしろ、なんで今まで起きていられたのか不思議なくらいだ。

 シエルは女中を呼んで銀貨を払った。エレーヌ様から頂いた銀貨を残しておいてよかった。あとは、部屋に戻るだけだが……。

 ルシアンは起きる気配がなかった。

 ルシアンは男性にしては小柄だが、シエルよりは背は高い。何より鍛え上げたルシアンの身体は重い。シエル1人では運べそうにない。仕方なく宿の人に助けを借りようとしたところで、シエルは、あっ、と声をあげた。

 この状況は昔もあった。あの時の相手はシエルと同じくらいの背丈で意識も半分あった。場所はラフォンテーヌ家のお屋敷の中庭で、文字通りシエルの庭だった。他にも使用人は皆大忙しで誰かに頼むのは気が引けた。だから「自分一人で十分」だと思った。思ってしまった。


(何故あの時、人を呼ばなかったのだろう)


 自分一人で出来るからといって、それを一人でやる必要はなかったはずだ。

 ルシアンが言っていた「なんでも自分でやろうとするのは俺の悪い癖なんですよ」と。

 だが、それはシエルにも当てはまるのではないのか?

 もし、あの時人を呼んでいたら?厨房にはテオがいたはずだ。彼なら楽々と抱えられただろう。別にシエルが一人で客人を運ぶ必要はなかったのだ。


(私にも、できることはあったんだ)


 すとんと、胸につかえていたものが落ちた気がした。

 心の中のどこかでシエルは「何で私が」と思っていた。「自分は不幸だ」と思い込んでいた。だけど、それだけではなかった。シエルにもできることはあった。もちろん、シエルがすべて悪いとは思わない。それでもシエルは、その考えに納得してしまった。

 シエルは、迷わず宿の主人を呼んだ。事情を話して部屋までルシアンを運んでもらう。先ほどの宴会でずいぶんと銀貨を支払ったからか、主人は面倒くさがることなくルシアンを運んでくれた。その大きな背中はテオを彷彿させた。

 主人と二人で、上着を脱がせてベッドにルシアンを横たえた。シエルが礼をいうと、主人は「では俺はこれで」と部屋を出ていった。シエルもそれに続いて自分の部屋に戻ろうとして、ふと、足を止めた。

 振り返り、つかつかとルシアンが寝ているベッドに近づく。


「おやすみなさい。ルシアン。」


 そういって、挨拶をする。

 返事は当然ない。だけどそれでいい。シエルはメイドだ。主人に礼を欠かしてはならない。今度こそ、部屋に戻ろうとしたところ、ルシアンが呟いた。


「……シエル。」


「え?」


 思わずルシアンの顔を見る。

 それは穏やかな寝顔だった。口元がわずかにゆるみ、微笑んでいるようにも見えた 。

 なんてあどけなくて、無防備な顔だろう。

 そういえば、ルシアンの寝顔を見るのは初めてだった。シエルもルシアンも日の出とともに起きるし、ほとんど同時に自分の部屋に戻る。ただ、シエルはルシアンに寝顔を見られたことはあった。あれはフランベルクに来た次の日。掃除に疲れて、うたた寝してしまった時のことだ。


「これで、おあいこ、ということでいいでしょうか。」


 シエルはベッドの隣の椅子を引いて、そこに腰かけた。

 まじまじとルシアンの顔を見る。いつまでも見ていられる、そんな顔だった。

 

(この寝顔をまた見たいな)


 そんなことを考えながら、シエルの意識はゆっくりと遠ざかっていった。


 ◇


 何かが転がる盛大な音がした。

 シエルが目を開けると、ベッドの下にルシアンが転がっていた。


「し、シエル。これは!」


 ルシアンは激しく動揺していた。念のためメイド服を確かめる。問題ない。


「申し訳ありません、ルシアン。どうやらまた、うたた寝をしてしまったみたいです。」


 そう言って深々と頭を下げる。

 ルシアンはまだ、目を白黒とさせていた。

 そんな二人を、朝日が静かに照らしていた。


 ◇


 その年の冬。

 領主からフランベルクの街に燃料と食料が配られた。

 泥炭にフラム。塩漬け肉に琥珀酒。そして、チーズの燻製。

 人々は領主に感謝し、贈り物を返した。

 その管理にフランベルク家のメイドは大忙しだったという。



 黒髪メイドは裏切らない 第一部「フランベルク編」 完



ここまでシエルを見守ってくださり本当にありがとうございました。

この後、外伝「赤毛のフランベルク」を短編として発表させていただく予定です。

それが終わりましたら、いよいよ第二部モンフォール編の開幕となります。

舞台はカナールに移ります。新キャラクタも―増えますので、どうぞ楽しみにしていてください。


最後に、ブックマーク、評価、感想お待ちしております。

本当にモチベーションに影響します。

ここまで書き進められたのは、ブックマークをつけてくれた2名の方のおかげです。

それがなかったら、心が折れて筆を断っていたでしょう。

この場を借りて、御礼申し上げます。

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