嘘つき殺人鬼
酷く汗がにじむ、これまでに感じたようなこともない冷汗とも言い難い気持ち悪い汗だ。
やった記憶がないが、やったかもしれないと考えてしまうのは、
さっきの異常な精神状態が再びラベラの前で起きてしまったのではないかとそう考えているからだ。
「本当に…本当に俺は何も知らない。嘘じゃない、ラベラ達を貶めようなんてことを考えたこともない!」
ヒナタの前に立ちはだかっているソリュアがあきれるような顔を見せる。
その目でヒナタがラベラの首を絞めるところを間近で見てしまっては、疑う気力もないといった感じだ。
かすかにソリュアの拳に魔力が宿るのを感じた。ソリュアは拳を突き出し
「問答無用、たとえやったのが偽物だったとしてもこの危機的状況ではラベラ様の身の安全が第一ですわ。去るか、ここで私に殺されるかですわ。」
ヒナタの背後に何か気配を感じた。
それと同時に不意にソリュアが驚きの顔を見せる
「リヒカ、どこへ行ってたのですわ?って、何を――」
「あっ――――――!」
ヒナタが後ろを振り向いた瞬間
そこには短剣を持ったリヒカがいた。彼女は不敵に笑みを浮かべ、手に持った凶器を
ヒナタへ一刀両断のごとく斬りかかる。反射神経が少しは働いたようで間一髪で避けることができた。
しかし背後からの一撃、無傷だけで許すはずもなく
肩には浅い切り傷が見えていた。
「避けられたけどこれで終わりじゃないよ、ラベラ様を傷つける悪者は退治しないとねソリュア」
「お前は最初のほうにいたあの騎士…」
「リヒカそこまでしなくていいですわ!」
ソリュアの言葉もむなしく追撃がヒナタを襲う。素早く飛んできた攻撃、それを避けようと体を傾ける。
ヒナタの狙いは外れ、太ももにリヒカの短剣の先端が突き刺さる。ドロッとした血が太ももから少しばかり滴る。
悶絶することさえ許されないまま、息をひそめながら転ぶように倒れた
「あ…ぐッ……」
「んじゃ、これでおしまいかな主も守れない護衛くん」
「『アイシング』」
廊下の奥から声が聞こえると、一気にリヒカの体が氷で固まる。
動こうと必死に短剣で氷をたたいたりするが削られるだけで壊れる気配がない。
リヒカに魔法を放った正体が暗闇から出てくる。
「大丈夫ですかヒナタさん!」
「ヒナタ…大丈夫?ってリヒカ…」
姿を現したのはアリュとさっきの騎士だった。アリュは不安げに周りを見渡す。
疲れ果てているソリュア、ヒナタから逃げるように必死に後ずさりするラベラ、
ヒナタに向かって刃を向けるリヒカ、血みどろになっているヒナタ。それを見て
どんな状況であれ心配になってしまう
「アリュ様この氷を解いてくれます?すぐにそこのへなちょこ護衛を引き裂かなくてはならないのです」
「何かやったの…ヒナタ」
すかさず壁を伝いながら立ち、声を上げるヒナタ
「お、おれはやってない!そんなの知らない、絶対に俺じゃない誰かが俺に成りすましてるか幻覚だそれしかありえない!」
「見苦しいですわ、その様子じゃあヒナタが犯人に見えて仕方ないですわ」
震える足で、自分じゃないと訴えている。「見苦しい」それは何も知らないヒナタにとって
怒りを覚える言葉になった。だがさっきのこともある、ここで怒ったりすれば暗い雰囲気にのまれ殺し合いに発展することは自身でもわかっていた
「何をやったかは分からないけど、ヒナタは…さっきまで一緒にいたから…違うと思うやっぱり、誰かが成りすましてるんじゃ」
「それもあり得ますわ、だけど嘘かもしれない可能性は捨てきれないから、ヒナタには離れてもらいますわ」
「出口が見えない以上ヒナタ、アリュ、騎士のグループと私とラベラ様とリヒカでグループで分けていったん今日をしのぎましょうですわ。もちろん居場所は知らせずに、ヒナタがまたラベラ様を殺めに来るかもしれないですから」
ソリュアがリヒカの氷を炎の魔法で溶かす。
リヒカは体の氷が解けるとヒナタに興味を失ったように見えたが、殺意だけはまだ消えていなかった。
ラベラとソリュアについてゆく。確実に殺す、なぜそこまで殺意が向けられるのかヒナタは震えるように恐怖した。壁に背をこすりつけながら座り込む
壁にはべったりと血がついていた
「ヒナタ……休んでていいよ…いったん応急処置の魔法だけはかけとくけど、私たちは食料の確保に行ってくるから」
ヒナタの血まみれの右足に手をかざす
かざすときの風圧に反応して右足が震える
「『ライトラール』」
ヒナタの右足に光の糸のようなものが吸い付いてゆく。
糸は傷を少しづつ修復し出す。あと治るのに3時間ほどというところだ。
アリュについてゆくように騎士も食料を探しに廊下の奥へ消えてゆく
(俺はこんなことで諦めたりはもうしない、絶対に見つけてやる犯人を、俺のふりをしてる魔物でも人間
でも仲間でもどんな強い奴でも俺が犯人じゃないって認めさせてやる)
治療中の足を気にもせずヒナタが立ち上がる。
足を引きずりながら廊下の奥へ奥へと向かってゆく
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アリュと一緒に騎士が廊下につながっていた洞窟らしきところでキノコや食べれそうな草、
食料備蓄庫のようなところで謎の生き物の肉など食べられそうなものをかき集めていた
「あのーアリュ様?」
「…?」
前までの険悪な雰囲気と打って変わってアリュと騎士が雑談をしていた
「アリュ様、僕のこと騎士騎士言いすぎじゃないですか。リヒカさんだって僕とおんなじ騎士なのに、ちゃんとリヒカって呼ばれてるのに」
「…それは、名前を教えてくれさえ…すれば」
「ケイラ・ラートですよ、僕が騎士団に入隊したときアリュ様に名前を教えたじゃないですかー」
「…ごめんね、ケイラ…騎士って多いから一人一人あんまり名前覚えてないんだよね」
その言葉にさらに肩を落とすケイラ。涙ながらに洞窟の奥へ行くアリュについてゆく
奥へ進むにつれ狭く細い道になってゆく
「この奥に行って何かあるんでしょうか…」
「ちょっと…温かくなってきたでしょ」
細い道を抜け、体についた苔を払い一息ついてケイラは前を見る
そこには元の世界でいう『温泉』があった湯けむりが少しばかり大きい洞窟を埋め尽くしていた
「おお!あったかい湧き水ですね」
「やっぱり…あった今日はここで体を洗おう」
「もう入っていいですか?」
「その服のまま…?」
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階段をさらに下がり食堂らしきところの奥のほうの部屋にソリュアたちはいた
ソリュアは疲れ果て、地面に思いっきり倒れこむ。
ラベラは椅子に座り虚ろな目をして机に突っ伏していた
リヒカの姿はそこに見えなかった
(あー疲れたですわ、おなかも減ったしラベラ様のためにもうひと働きですわていうかリヒカどこ行ったのですわリヒカ怪しいですわね)
(それにしてもあの時見たヒナタは確実に見た目はヒナタでしたわ、でも見た目を変身する魔法なんて見たことがないですわ、考えても仕方ないですわね)
「ラベラ様、私が食料を持ってきますから待っててくださいですわ、」
「…わかった」
「すぐに戻りますわ、何かあれば声を上げてくださいですわ」
ラベラは机に突っ伏したまま、小さく頷くことしかできなかった。あの首を絞められた感触がまだ消えない。指の跡が残る首筋に手を当てながら、ソリュアの足音が遠ざかってゆくのをただ聞いていた。
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「えっ…だって、脱ぐのは……」
ケイラは顔を真っ赤にして湯けむりの奥へ視線を逃がした。アリュは少し首を傾げると、何かを察したように小さく息を吐く。
「私は先に入ってるから、ケイラは…好きにして」
「あ、いや、その、僕も普通に脱ぎますよ普通に!変な意味じゃなくて、僕もちゃんと、その」
慌てて言葉を重ねるケイラを横目に、アリュは甲冑を一つずつ外してゆく。重たい音を立てて床に置かれる金属の音だけが洞窟に響いた。湯に足先をつけると、思った以上の熱さに小さく声が漏れる。
「あつ……でも、気持ちいい」
「で、ですよね。僕も失礼して」
ケイラも装備を外し、ようやく湯に浸かる。しばらく二人とも何も話さず、ただ湯の音と遠くから滴る水滴の音だけが響いていた。
「…アリュ様」
「…なに」
「ヒナタさんのこと、心配ですよね」
アリュは湯面に視線を落としたまま、しばらく黙っていた。
「うん……ヒナタは、無理してる。ずっと、無理してる」
「無理、ですか」
「その前も、立ってられないくらい……ぎりぎりだったんだと思う、逃げる癖があるから…」
ケイラはそれ以上何も言わなかった。ただ静かに湯の温度を確かめるように手を浸し直す。アリュの言葉の重さが、何となく伝わってきたからだった。
そんな空気を打破しようとアリュがケイラにお湯をかける
「ぶへっぇ」
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廊下の奥へ向かうヒナタの足取りは、傷の痛みのせいで重かった。引きずるたびに、太ももの奥から鈍い痛みが這い上がってくる。それでも止まる気はなかった。立ち止まれば、また何かに飲み込まれる気がしたからだ。
(誰かが俺のふりをしている、それなら必ず痕跡があるはずだ)
廊下は進むほどに静かになっていった。さっきまで聞こえていた水の滴る音も、いつの間にか消えている。聞こえるのは自分の足音と、息の音だけだった。その静けさが、むしろ不気味だった。
壁に手をつきながらしばらく進むと、廊下の途中で一際大きな扉が見えてくる。他の通路とは違い、緑色の宝石のような装飾が施されていた。さっき落下した部屋の壁と同じ材質だ。ヒナタは扉の前で一度足を止めた。
(……なんだ、この感じ)
近づくだけで肌に纏わりつくような圧を感じた。空気が違う。冷たいというより、何かに見られているような、そんな感覚だった。深呼吸を一つしてから、ヒナタは扉に手をかける。
思いのほか軽く開いた。
中は薄暗く、奥行きがどれほどあるのかすぐには分からなかった。目が慣れるまで数秒待つ。やがて、奥に祭壇のようなものがあるのが見えてくる。歩を進めるたびに、足元の砂のようなものが微かな音を立てた。
祭壇の前には、誰かが最近まで使っていたような跡があった。燃えかけの蝋燭が一本、火を失ってまだ煙の匂いを残している。床には引っかいたような爪痕が幾重にも重なっていて、そのどれもが同じ方向——祭壇から扉の方へと向かっていた。何かが、ここから逃げようとしたような跡だった。
そしてその爪痕の隙間に、黒い羽根が幾枚も落ちている。
ヒナタはしばらくその羽根を見下ろしたまま動けなかった。理由のない緊張が手に汗を滲ませる。それでも確かめずにはいられず、震える指先で一枚を拾い上げた。
軽い。羽根そのものはただの羽根だった。なのに、触れた瞬間——
頭の奥で何かが弾けるような感覚があった。
知らない誰かの笑い声が遠くから響いてくる。最初は小さく、やがてはっきりと。リヒカの声に似ていた、けれどそれよりも低く、歪んでいて、まるで何枚も重なった声のようだった。映像のようなものは見えない。ただ、感情だけが流れ込んでくる。誰かの——憎悪、嫌悪、そしてどこか愉しんでいるような歪んだ感情。
「っ……」
ヒナタは羽根を取り落とし、頭を抱えて膝をついた。痛みではない。痛みよりももっと内側の、自分のものではない何かが無理やり入り込んでくるような感覚だった。息が浅くなる。耳の奥で、声が響き続ける。
(……誰だ、これは誰の)
ようやく感覚が引いてゆく。額に滲んだ汗を拭い、ヒナタはゆっくりと顔を上げた。祭壇の奥、暗がりの先に、小さな通路が続いているのが見えた。さっきまでは気づかなかった。羽根に触れたことで、何かが——道が見えるようになったかのようだった。
迷う時間はなかった。けれど足は動かなかった。本能的な何かが、進むなと告げている。それでも、ここで引けば何も分からないままだという思いが、ヒナタの足を一歩、また一歩と前へ運ばせる。
通路の奥から、かすかに何かの音が聞こえてくる。風の音か、それとも誰かの呼吸か、判別できないほど小さい。耳を澄ませながら、壁に手をついてさらに奥へ進む。
そして、声が聞こえた。
「……来やがったか」
低く、確かにそこにある声だった。聞き覚えのある声——けれど誰の声なのか、すぐには判断がつかなかった。似ているようで、決定的に何かが違う。ヒナタの全身から一気に血の気が引いていく。
足が止まる。逃げるべきか、進むべきか。判断が追いつかないまま、ヒナタはただその場に立ち尽くしていた。
「あ”ーあ”ぁー俺、じゃなくて私、探したんだよ~」
「ヒ~ナ~タ~くん」
「お前は…」




