絶望とその次の絶望
どんどんと落ちてゆくとともに地面が見えてきた
「やばいこれはさすがに!」
「『グラヴィティア』」
アリュが魔法を発動する。地面につく前にふわっと体が浮かぶ
「…クッション代わりに」
「ありがとうアリュ」
地面へ足をつける。周りを見ると緑色の宝石のような壁と床それに柱が周りに立っていた。まるで誰かをここに呼び出そうとしたよう柱の配置をしていた。さっきの守護者は落下の衝撃で完全に壊れていた。
「うっ…あれは」
アリュが指をさす。騎士三人のうち二人がぐちゃぐちゃになり息絶えている所が見えた。あまりの痛々しさにアリュの目をヒナタが覆う。一人は二人がクッションになり死ぬことは免れていた。片足だけを必死に動かす。
「あぁ…ヒューマ、ティゼリぃごめんごめん僕はぁぁ」
頭を床に叩きつけると必死に肉塊に向かって謝りだす。完全に正気ではないがヒナタは見捨てはしなかった。騎士がさっきのヒナタを見捨てなかった時のように。
ヒナタが騎士の肩を持つ
「立てるか?」
「先に行っててください――――」
そういうと迫ってきていたヒナタのことを突き飛ばす。騎士の顔は完全に絶望していた。今のヒナタでは何をすることもできないことは、ヒナタ自身でもわかっていた。
「俺は絶対お前のことを見捨てたりしないからな覚えとけよ」
ヒナタはアリュとともに奥へ歩いて行った。奥へ行くにつれどんどんとヒナタの気分が悪くなってゆく。頭痛と体のだるさ、負傷した右手それも、ヒナタがおかしくなる原因となっていた。
「頭いてえ、気持ち悪い」
「大丈夫…ヒナタ?」
かけられた言葉も、暗闇へ消えてゆくように耳や脳へ入ってくることはなかった。あるのは聞こえてもない暴言や妄言、ヒナタを否定するような言葉だけが選出されるように流れてゆく。
《お前はいつまでたっても…》
《あははお前友達とかいないの?…》
《いっつも一人で何考えてんだろ気持ち悪いとも言い難いよね…》
なのに今まで押し殺してきた感情はすらすらと脳内を駆け巡る
(うるさい、うるさい!何も知らないやつらが俺だって一人で居たくて一人で居るんじゃない)
《結局は権化といったところですわね》
(どこに出口があるんだ奥に行って何かあるのかここで死んだら俺はどうなるんだ、なんでこんなことになった誰のせいだあのパルジアの王のせいか)
「…ヒナタ?」
(それともこんな面倒ごとを持ってきたラベラのせいかこんな考えを持っているラベラを止めなかったソリュアのせいか俺に不快感を与えたすべてが悪い俺をこんな人生にした母さんも父さんも)
「ヒナタ…!」
「…んだよ」
「なんだよ!」
怒りに満ちた声が密閉した巨大な空間で反響をする
「いったん…休む?」
「なんだ、俺が体力ないって言いたいのか?」
「俺になんか文句あんのかよなんかあるなら言ってみろよ」
今のヒナタには心配の言葉もすべて文句の言葉にしか聞こえていなかった。内心わかっていたアリュが自分に気を使っているのを。しかしとてつもないストレスと精神を削るような空気が、頭の中で言葉を攻撃へと変換していた。
「違っ…そういう」
「あ゛ぁ゛?何とか言ってみろよどうせお前はパルジア王の回しもんだろ殺すんだろ俺のことを」
「さっきからぎこちなく俺に喋りかけてきてよどうせ俺のことが嫌いなんだろ疑ってんだろ内心そう思ってんだろ」
アリュの胸ぐらを甲冑ごとつかむ。ヒナタの目が血走り胸ぐらをつかむ手の力がどんどん強くなってゆく。斬られた指の出血がひどくなり、ヒナタ自身の怒りも限界を迎えそうになる。
「風の神よ力を吸引せよ『フォーリェ』」
風がヒナタを押し出し、ヒナタが後ろに飛ばされる。アリュが自分を殺そうとしていると確信する。
(やりやがったなぁアリュ、やっぱりクリオラ王の刺客だったかこれで俺もお前を殴って引き裂いて殺せるどうせ異世界だ現世の法律なんぞくそくらえだ!)
「ハハァ、本性を現しやがったなクソガキが俺が魔法使えないと思って油断したのが間違いだって教えてやるよ」
「ヒナタ…いったん落ち着いて」
ヒナタは持っていた短剣をアリュへ向ける。目には殺気を帯びた覚悟が輝いていた。一歩一歩静かに近づいてゆく。ソリュアと戦った時のように甘くはないと自分に言い聞かせる。あの屈辱を晴らすよう敵に向けるはずだった刃は幼い甲冑をかぶった子供へ向いている。
「俺は落ち着いてるずっとな」
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「はぁはぁもうちょっと頑張ってソリュアリヒカもどっか行っちゃったし」
「申し訳ないですわあともう少しだけ肩を借りますわ」
ラベラ達は上へ向かう階段を探すが全く見当たらない。見当たるのはソリュアが吹き飛ばした瓦礫や長く続く廊下だけだった。
タッタッタ________ッタ
足音が廊下の奥のほうから聞こえてくる。黒い影が迫ってくる。
「あれはリヒカかな」
「もしかしたらさっきの魔人かもしれませんわいったん隠れましょうですわ」
黒髪のくっきりとした目、か弱そうな体に似合わない装備品に、いっつも自分も気にかけてくれているその姿はヒナタそのものだった。駆け寄ってくる彼は手を振り元気そうに笑っている。
「ラベラー!ソリュア―!」
「大丈夫かー」
「心配しただけ無駄でしたわ~そんな無傷で早くラベラ様が持っている肩をヒナタが代わってくださいですわ」
必死にできるはずもない楽しい感じにしようと無理やり気分を和らげるソリュア
「人使い荒いなーもう」
そんなヒナタのにやけ顔は何か不気味なものを感じた。ソリュアも何か違和感を感じた。ヒナタがソリュアの肩を持とうとした瞬間、ヒナタの手が空を切る。
ドサッ
ソリュアが地面に倒れる。やはり体に力が入らないらしい。
「痛ッ、」
「ヒナタったらこんなこともできないのですわ?帰ったら教育しなおさないといけないですわ」
「あ、ごめんごめんちょっとさっきから体調悪くって」
「そういえばラベラ?」
ソリュアを軽くあしらうとラベラのほうへ顔を向ける。ラベラはその顔に心を震わせる。笑いながらも目が確実にラベラを敵視した目をしていたからだ。
「え、何___」
ギュッ____!
「あぐッ___うっ、ヒナ…」
ヒナタは力強くラベラの首を絞める。ヒナタは笑っていた、じりじりと力が強くなってゆき、必死にヒナタの腕を外そうともがくしかしどんどんと体に力が入らなくなってゆく。ラベラが食い込ませた爪でヒナタの腕から血が滴る。ソリュアが気づくと同時に瞬時に反応する。
「ヒナタあなた、、、!」
ヒナタの顔面を殴るしかし、一瞬だが怯むが首を絞める手は止まらなかった。
「ハハ、殺してやるよお前らが殺したんだよもともとは違う計画だったのに」
「正気に戻りなさいですわヒナタ!」
ソリュアが全力で腹部を殴る。さすがのヒナタも手を放し、廊下のほうへ転がる。
「かッ___はぁーはぁーはー」
ラベラが呼吸を整える
「あはははは!許さない許さない全員、」
ヒナタが狂気じみた笑いを披露すると焦点の合わない目で地面に頭を打ち付けると、廊下の奥へ走っていった。
「やっぱり最初っからあんな奴雇うべきじゃなかったんですわ」
ラベラは手の跡が残った首を触る。信じられなかったあんなに優しかったヒナタが、こんなにも変わってしまったことにこんなにも狂気に染まってしまったことに、首の痛みよりも心の苦しみが最も首の傷に染みた。
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「ほら、魔法でも何でも撃ってこい、風の魔法で俺を細切れにでもしてみろよ」
アリュは怯えてはいなかった。実力差があるのも一つの理由だ。このような場面にも立ち会ったことがある。アリュはクリオラ王と近い実力がある。この力を手に入れるにあたってたくさんの絶望や狂気を経験した。
一番の苦痛だったのは母親が心中を図ったこと。この忌々しい角のせいで姉弟揃って村の人々から嫌悪されていたからだ。毎日家には動物死体果てには放火果てには父親の殺害まで起こった。
そんな記憶を掘り返す______
「ごめんなさいこれ以上呪いとは付き合えない」
姉弟と母は村人が嫌がらせで掘った土の穴の中へ入る。中には村人が捨てたごみが散乱していた。
「母さんなんで穴に入るの?」
「大丈夫あなた達も解放されるから」
「忌々しい角がなければこんな目に遭わなくても済んだのにね」
「私たちが悪いのでしょうか英龍よ英雄賢者よ」
姉弟の母は穴の天井に向かって手を挙げる。母は泣き何かをぶつぶつと言っていたそして呪文を唱えると、上から大量の土が降ってきて質量で姉弟は身動きができなくなる。
(お母さん助けて…)
(お母さんどこにいるの手をつないで…)
(お母さん……どこからか村の人たちの声が聞こえる…)
(また…私たちの家を…)
(また………お母さ…)
息が苦しくなり始める。あがこうとバタバタさせるが土で動かない。口の中へ土が入ってくるのを感じた。
この時幼くして姉はやっと気づいた。母は助けてはくれないのだと、母は無力なのだと、自分は無力なのだと。あの時弟が魔法を発動して助けてもらっていなければ自分や弟が死んでいたこと。その時の自分の無力さからあまり会話を好まなくなった自分の言葉で未来を決めるのが怖かった。
アリュが口を開く
「私は…トラウマから…しゃべり方が変なの」
「会話も…あんまり上手じゃないし」
「そんなんを言い訳にして俺の気分を良くしようってかそんな見え見えの対話俺が引っかかると思うか?」
「私も人が死んで…悲しいし…今だって心がぐしゃぐしゃだよ…特別強くはないしこれからどうすればいいかもわからない」
「何が言いたいんだよ?」
「ヒナタ…あなただけずるいってこと…」
ヒナタの心が一瞬揺らぐ。理解するのに時間がかかった。
「俺がずるい、俺がか?」
「そう…自暴自棄になれてずるいってこと…私は自分で考えて決めるっていうのが怖いから」
「そりゃそうだろうよ、様子を見ればまるわかりだよ」
「ずるいってんなら俺の真似事でもしてみろ」
アリュが顔を覆う甲冑を脱ぐ。それはまだ幼い顔をした女の子と言い表せた。巨大なトラウマもあるそんな子がヒナタに反して暴れずに冷静に、まっすぐとヒナタを見つめていた。
「っ……なんだよ!」
「でも…それでもいいと思う…心の中にため込むだけじゃ…もっとおかしくなる時が来るから」
「俺がおかしいだって?おかしいのはお前だどうやったって自分で決められない子供に」
アリュは言葉を紡ごうと励んでいた。刃を向けたヒナタに対して、敵から救ってくれたヒナタに対して、アリュは息を少し吸うと、
「だから、私は今自分で考えてヒナタと会話してるの…救ってくれてありがとうって伝えたいから…!」
「…………っつ」
「……っ」
ヒナタは持っていた短剣を落とす。するとアリュが近づきヒナタの左手を握る。暖かかった。小学生の頃の冬の冷たい手を母親が握ってくれた時のことを思い出してしまった。不意に異世界へ来る前の温かい記憶が体をめぐる。
「……っく」
「っ…くそ今更どうこうって、」
「どうこうとか難しいことは…いらないよ…誰にだって悩みはあるから」
ヒナタはぎゅっと握ってないほうの拳を強く握り哀れな自分の唇をかむ
「ふっ…高校生にもなる年齢の俺が…小学生にもなりそうな女の子に慰められるとは」
「ずっと引きこもってたせいで考え方が色々おかしくなっていたのかもな」
「女の子…じゃないアリュ」
この雰囲気から救ったのは幼女だった。自分が守ろうとした存在に救われたその事実だけで、頑張ろうとする力が何倍にもなった。しばらくアリュと手をつないで歩いていると行き止まりの壁の隣に穴があった。
「入れそうだ…私は騎士を連れてくるから…先行ってて」
「悪いなずっと不甲斐ない」
「いいよ…ヒナタとはすぐ仲良くなれそうだし」
アリュは来た道を戻っていった。ヒナタは穴を通ると廊下と呼べるところへ出た。奥を凝視すると人影が見える。恐る恐る進んでゆく。
「誰だ?」
奥に見えたのはソリュアとラベラだった。ソリュアとラベラが地面に座っていた。傷だらけのソリュアを見て、一気に駆け寄った。
「大丈夫か?ソリュア」
「ヒナタ!」
「ラベラも大丈夫だったか?」
そうヒナタが問う。ラベラはヒナタを見るなり彼女は怯え冷汗をかき、トラウマが蘇るように必死にヒナタから離れようとする。
「近づかないで!」
「え…?」
「何かあったのか」
「ふざけないで…あなたが……!」
「あなたが…私のことを殺そうと…」
その言葉にヒナタは固まってしまう。彼女の最初の言葉に自分に何か非があったのか記憶を探る。そんなことをした覚えがない。何か自分の別の意識が何かをしたのか。ソリュアも敵意を向けていることにも気づいた。
ヒナタは膝をつき再び押し寄せる絶望に、今の現実を否定するがごとく目を覆い隠す。
「………俺は、、俺…」




