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彼女で紡ぐ異世界人生  作者: tmgs
第二章始まりの神殿
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6/10

自称緑龍の厄災

ハンスが叫ぶより早く、ソリュアが両手を前へ突き出していた。


『ヴァルティア』


青白い障壁が展開される。


火球が激突し、轟音とともに砕け散った。


熱波が髪を揺らす。


粉塵が舞い上がって、しばらく視界が白くなった。



「なかなかやるじゃなぁい」


煙の向こうで、魔人がにやりと笑っていた。


笑顔なのに、目が笑っていない。


青い星型の瞳が、品定めするようにこちらを見ている。


障壁を正面から受けて、傷一つなかった。


ソリュアの手が、わずかに震えた。



ギュンッ!


翼を畳んで一気に加速する。


狙いはハンスだった。


ハンスが剣を構えた時にはもう目の前にいた。



ドギィンッ!


翼の勢いをそのまま乗せた蹴りがハンスの体を横に吹き飛ばした。


壁まで三メートル近く飛んで、背中から激突する。


石壁にひびが入り、亀裂が天井まで走った。



「ウガッ……クハァッ」


「ハンス大丈夫ですわ!?」


その一瞬だった。


「よそ見してる暇あんのぉ、くされ銀髪巨乳」


振り向く間もなかった。


腹部に拳がめり込んで、肺の空気が全部押し出される。


体が天井まで吹き飛んだ。



ガァンッ!


天井を背中で打って、床に叩きつけられる。


口の中に広がる鉄の味。


血が床に落ちた。


ソリュアは床に手をついた。


腕が震えていて、息が吸えない。


吸おうとするたびに腹部の痛みが波のように来る。


それでも立ち上がった。


膝が曲がったままでも、立った。


(ラベラ様だけでも)


その一点だけで立っていた。


両手に光を集めようとするが、震えていた。


魔力がほとんど残っていない。



その時、騎士の一人が飛び出した。


魔人の背後から、頭部を真っ二つに切り裂く。


確実に入った。


誰の目にもそう見えた。


「いってえぇですねぇ」


魔人が振り返った。


笑っていた。


頭部がみるみる再生していく。


肉が盛り上がり、骨が戻り、皮膚が閉じた。


数秒もかからなかった。


騎士の顔から血の気が引いた。


剣を持つ手が止まる。


「ほ~らキスしてあげるわぁ」


魔人が無理やり騎士に口をつけた。



ゴァァァッ!


騎士の頭部が炎で消し飛んだ。


首から上が、なくなっていた。


体だけが一瞬立ったまま、それからゆっくりと崩れていった。



「ペリガァァッ!」


リヒカの叫び声が部屋に反響した。


ラベラは動けなかった。


足が一瞬固まって、頭ではわかっていても体が追いつかない。


「てめえ何が目的なんだ魔人!」


ハンスが立ち上がりながら叫んだ。


怒りと悲しみが混ざった声だった。


魔人がにやりと笑う。


「食欲って誰にでもありますよねぇ。私もおなかは空くのぉ。狩られる側が人間になっただけでしょ~?」


翼を広げながら、首を傾けた。


「そうねぇ魔人だけじゃ嫌だし、緑龍の厄災とでも呼んでほしいわねぇ」



「ソリュア」


ラベラの声がした。

ソリュアは振り返った。

ラベラが剣を抜いていた。

腰の片手剣、その刃に——



バチィッ、バチッ。


細かい音が広がっていた。

雷が、刃の縁に沿って走っていた。


「逃げろと言っても聞かないわよね」


「聞きませんわ。当然ですわ」


血を拭いながらソリュアは答えた。


「でも後ろにいてくださいますわ。私が前に出ますから」


「あなたが前に出たら次の一撃を受ける障壁がない」


「わかっていますわよ。わかった上で言っていますの」


ソリュアはラベラをまっすぐ見た。


「残った魔力を全部使って一撃撃ちますわ。それで終わりですわ。でもその一撃でラベラ様が逃げる時間が作れるなら十分ですの」


「俺たちも行きます」


ハンスが立ち上がった。


血が顔を伝っていた


それでも剣を構える。


リヒカも続く

目が赤かったが、泣く時間はなかった。


「みんな私を守ってばっかでありがたいけど」


ラベラが言った。


剣を握り直すと、刃の雷が強くなった。


「私も逃げる気はないから」


魔人がその様子を見ていた。

笑みが深くなっていく。


「へぇ~電気を剣に付与して戦えるのぉ~それは楽しめそうねぇ」



ハンスがラベラに目で合図した。

ラベラがうなずく。

二人同時に動いた。


ハンスが背後から、ラベラが正面から。


ハンスの剣が振り下ろされた瞬間、魔人の手がハンスの腕をつかんだ。


そのまま地面に叩きつける。

床が割れた。


ハンスは声を出さなかった。


しかしその一瞬で——


「雷光よ穿て『雷帝神花』!」



ギュンッ────。


雷の轟音が部屋を貫いた。


光が弾け剣に熱が集まる


ラベラの剣が魔人の胸に入っていた。


深く、確かに。


「あ゛?」


魔人の声が変わった。

頭痛に耐えるような顔。

雷が体の中を走っていた。


ブシャァァァ!


胸から血が噴き出した。

鱗が吹き飛んで、その奥の肉が抉られていた。

血の飛沫がラベラの頬に当たる。

魔人が自分の胸を見た。

笑みが消えラベラが死を予感する


「てめえら……本当に死にたがり屋ねぇ餌ごときがいちいち小賢しいのよぉ」



ラベラが次の一手を考えた瞬間、翼が動いた。


あまりの速さにラベラの反応が遅れる


「避けてですわラベラ様!」


「ラベラ様ッ!」


横から体が飛んできた。


血まみれのハンスだった。


ラベラの体を必死に、翼の射程外に押し出す。


「これ……が……パルジアの……騎士魂」


「だぁぁぁぁ!!」


ハンスが叫んだ。



────ザンッ。


乾いた、重い音がした。


「臓物はしまっておきなさいねぇ」


ラベラには一瞬、何が起きたかわからなかった。


わかりたくなかった。


でも目の前の光景は変わらない。


ハンスの上半身と下半身が、きれいに分かれていた。


床に臓物が零れていて、血だまりが広がっていった。


音もなく広がっていった。


「所詮パルジア下級兵士ねぇもっと階級の高い奴を連れてくるんだったわねぇ」


「ハンス……」


声が出なかった。


出かけて、出なかった。


リヒカが膝をついた。


「騎士長」


剣を持ったまま、膝をついた。


泣けなかった。


ただハンスの名前を、小さな声で何度も呼んでいた。


魔人が胸の傷を手で触れた。


血が止まっていなかった。


しかし顔には、笑みが戻ってきていた。


怒りと愉しさが混ざった、一番厄介な笑み。


「ラベラ様ぁとか言ってたわねぇ。あんたは最後に殺すとするわぁ」


青い星型の瞳が、ソリュアに向いた。


「次はソリュア、あなたねぇ」


「ソリュアおまえはすぐに終らせてあげるからねぇ」


ソリュアは自分と魔人を憎んだ。


今日会ったばかりだった。


それでも、死なせたくなかった。


死なせてしまった。


(ハンス)


(ペリガー)


名前が、頭の中で繰り返された。


ソリュアは顔を上げた。


「こっちもこれで最後ですわ(とく)と味わうがいいですわ」


魔人を見た。

両手を上げると、震えながらも光が集まり始めた。

搾り出すように。

絞り切った雑巾から最後の一滴を出すように。

部屋の光が、ソリュアの両手に向かっていった。


壁の光が。


床の光が。


この部屋にあるすべての光が少しずつ集まって、部屋が暗くなっていく。

その代わりソリュアの両手だけが、恐ろしいほど明るく輝いていった。


「何をする気?」


「火力勝負したいのねぇ、ここに来た時点であなた達の運命は決まっているのよぉまあ最後まで足掻かせてあげる」


魔人が言った。


そういうと魔人ののどが青白く光り始めたとともに周りの温度が上がることに気づいた


「後ろにいてくださいますわ」


「ソリュア、あなたの魔力はもう」


「わかっていますわ」


「太陽よわが手に宿れ」


ソリュアがそう唱えると魔人に初めて焦りが見えた


静かに、しかしはっきりと。


ラベラが叫ぶ


「ハンスやペリガーの思いの分まで、」


部屋が振動した。


足元の石畳にひびが入る。


「厄災を消し飛ばして!」


魔人が、初めて後退した。


一歩だけ。


しかし確かに、後退した。


青い星型の瞳が細くなった。


「くたばれ銀髪魔法使い私の炎でドロドロに溶かして今日のスープにしてやらぁ!」


グゴォォォォッ!


それとともに魔人から青白く激しい炎のブレスが飛んできた


周りの物が融解してゆく


「準備ができましたわ!」


「『グ・オーラァ・デ』!」



まばゆい光が弾けた。

目を開けていられなかった。

ラベラは腕で目を覆う。

轟音が部屋を揺らし、壁が震えて、天井から石が落ちてきた。



グシャァァァ!


魔人のブレスを塗りつぶし周りにあったものが消し炭になって吹き飛んだ。


煙が上がり、粉塵が舞い上がる。


静寂。


しばらく誰も動かなかった。


煙が少しずつ晴れていった。


魔人の姿がなかった。


死んだのか、逃げたのか。


倒れた痕跡もなく、ただいなくなっていた。


「きゃは……ハァ……こんなもんで……」


どこかから声がした。


壁の向こうからのような、空気の中からのような。


しかし確かに聞こえた。


ソリュアが膝をついた。


両手から光が消えて、体が前に傾く。


ラベラが駆け寄って支えた。


「ソリュア」


「……いったんは撃退といったところですわ」


声がかすれていた。


体重がラベラにかかってくる。


「死んではいないかもしれませんわね。でも今は逃げないといけませんわ」


「わかってる。話は後で。動ける?」


「……ラベラ様が肩を貸してくださるなら」


ラベラはソリュアの肩に腕を回した。


リヒカもソリュアを支える。


まだハンスのいた場所を見ていた。


それから目を前に向けた。


「行きましょう」


声が平らだった。


感情を全部しまい込んだ声だった何か不穏な声もした。


ラベラはソリュアを支えながら石段を探した。


早く上に行かなければ。


ヒナタたちがいる。



__________________



ラベラたちが魔人と対峙していたその頃。


ヒナタたちは広い部屋の探索をしていた。


銅像に近づいた。


布が古いわりにきれいで、埃が積もっていなかった。


「これ、最近誰かが替えたな」


騎士がうなずく。


「アリュ、後ろにいろ」


ヒナタは布の端をつかんだ。


一息ついて、引いた。


布が落ちる。


そこにあったのは、腕が六本あり、頭が二つある像だった。


片方の顔は笑い、片方は泣いていた。


泣いている顔の目の位置に赤黒い何かが埋め込まれていて、さっき祭壇で見た液体と同じ色をしていた。



ギィ……ゴ……ゴ。


「何の音だ?」


像から異音がした。


騎士のほうからも声が来た。


「ヒナタさん避けて!」


気づいた時には遅かった。


像の持っていた斧が振り上げられていた。


騎士がヒナタの服を引っ張って、ヒナタは後ろに倒れた。



ズシャンッ!


斧が床に振り下ろされて、石畳に深い跡が残った。


像の体全体が機械のように動き始める。


関節が軋み、歯車が噛み合うような音がした。


「こいつ……守護者ガーディアンだ!」


アリュが叫んだ。


騎士たちの顔が青ざめる。


「なんでこんなところに」


ヒナタは自分の右手を見た。


人差し指の第一関節から先がなかった。


床の上に落ちていた。


自分の指が、床の上に落ちていた。


(あ)


痛みは一瞬遅れてきた。


「がッ……痛い、痛い痛いぃ!」


血が噴き出した。


ヒナタは右手を押さえた。


温かかった。


自分の血が温かいということを、初めて意識した。


「……だれか」


頭の中で何かが弾けた。


バイクに跳ねられた瞬間が来た。


あの時の衝撃が、痛みが、何も考えられなくなるあの感覚が。


「ヒナタさんしっかりしてください立てますか?」


騎士の声が遠かった。


近いのに遠かった。


守護者の足音が近づいてくるのはわかっていた。


早く立たなければいけないのもわかっていた。


それでも体が動かなかった。


床に、自分の血だまりが広がっていった。


「…みんな…逃げて…」


アリュが騎士やヒナタに指示をする


「アリュ様あなた一人で守護者に勝てるのですか!?」


「わかんない…けど…騎士団の中で…立場上だから…かっこいい所見せないと」


(アリュ様…震えてる手が)


騎士たちは覚悟を決める


「わかりました!皆さん出口へ向かってください」


ヒナタは絶望していたはるかに強い周りに


覚悟も力も心もすべて負けていた


今自分にできることを数えることしかできないことに


「腹が立つ!」


ヒナタが雄たけびを上げると

アリュの方向へ走り出す


「…ヒナタ」


ズンッ


アリュを抱えると間一髪で守護者の斧を避ける


「死なせない今中で一番俺が死ぬ怖さを知ってるからだそれを子供が経験することはない」


出口のほうへ走り出す

しかし守護者の斧から地面に亀裂が入る

亀裂が入ると同時に床が崩壊をし始める

守護者をはじめに騎士達も奈落へ落ちてゆき

騎士の叫び声も聞こえる

ヒナタはアリュを抱えながら壊れていない床をつかむ


「クッソ!アリュ魔法使えるか?」


手に汗がにじむ


「使える…けど…上がる魔法がない」


とうとう手が限界を迎える


(アリュお前は絶対に守ってやる)


そう覚悟するとヒナタアリュどちらも下の暗闇へ消えてゆく


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