神殿攻略と謎の魔人
「行こう」
ラベラが馬車に乗り込んだ。
ヒナタも続く。
ソリュアが最後に乗り込んで、扉を閉めた。
馬車が動き出した。
城が遠ざかっていく。
しばらく誰も口を開かなかった。
馬車の揺れと車輪の音だけが続いた。
「神殿って、どんな場所なんだ」
ヒナタが口を開いた。
「クリオラの騎士団がほとんど帰ってこなかったって言ってたろ。どんな魔物がいるんだ」
「詳しくはわからない」
ラベラが答えた。
「探検隊が見つけたばかりだから、内部の情報がほとんどないの」
「つまり行ってみないとわからない」
「そういうこと」
「ざっくりしてるな」
「神殿というのは大抵そういうものですわ」
ソリュアが腕を組みながら言った。
「古い時代に作られたものが多くて、魔物が住み着いている。中に何があるかは入った者にしかわからない」
「入った騎士団はほとんど帰ってこなかったんだろ」
「だから私たちが行くんですわ」
「それで納得できるのか」
「できませんわ。でも行くんですわ」
ソリュアが窓の外を見た。
表情は変わらなかったが、どこか遠くを見るような目だった。
ヒナタはラベラに視線を向けた。
ラベラも窓の外を見ていた。
昨夜の廊下を思い出した。
指先が窓枠を握っていたあの手を。
(俺が絶対守る!)
異世界に来る前の自分の想像を一瞬した。
毎回毎回フラッシュバックするそのたびに不気味な汗が噴き出してくる。
馬車がだんだんと速度を落とした。
木々が深くなっていく。
光が届きにくくなって、空気がひんやりと変わった。
「近いですわ」
ソリュアが低い声で言った。
やがて馬車が止まった。
馬車の扉を開けると、冷たい空気が流れ込んできた。
ヒナタはびっくりした甲冑を着た少女が別の馬車から下りてきていたからだ
「アリュ?」
少女はおどおどしながら
「クリオラ様が…だって…言われた一応って…」
「そうか頼もしいなありがとう!」
「う…うん」
木々の隙間から、それが見えた。
石造りの巨大な門。
蔦が絡まり、長い年月の重さを感じさせる壁。
入り口の両脇に、崩れかけた石像が立っていた。
何かの神を象ったものだろうが、顔の部分が削れていて判別できなかった。
「でかい……」
ヒナタがつぶやいた。
「屋敷よりでかい、、」
「神殿ですものでかくなきゃ信仰心もゼロですわ」
「今まで見つかってなかったのも不思議ですわ」
騎士たちが馬から降りて、隊列を組み始めた。
ラベラが前を向いた。
「行くよ」
短い言葉だった。
迷いはなかった。
ヒナタは一度だけ深呼吸した。
怖かった。
でも足は前に出た。
三人と騎士たちが、神殿の門へ向かって歩き始めた。
ギィ……。
門に触れると、重い音を立てながらゆっくりと開いた。
蝶番が悲鳴を上げるような音だった。
内部は薄暗かった。
壁に沿って松明の跡があったが、すべて消えていた。
ソリュアが手をかざすと、
『ハイリィファ』
小さな光の玉が浮かんだ。
「助かる」
「当然ですわ」
足音が反響する。
石畳の床は古く、踏むたびにわずかに砂が鳴った。
ザリ、ザリ、と乾いた音が続く。
騎士の隊長が前に出た。
「手分けして探索します。ラベラ様はソリュア殿と第一班で左翼へ。ヒナタ殿はアリュ様、第二班と右翼をお願いします」
「俺はラベラと一緒じゃないのか」
「人手が足りませんわ。文句を言わないでくださいますわ」
ソリュアに一蹴された。
「でもアリュがいるからな」
ラベラがヒナタを見た。
「気をつけてね」
「そっちこそ」
ラベラたちが左の廊下へ消えていく。
ヒナタは右の廊下へ向かった。
騎士が二人とアリュが後ろについてくる。
右翼の廊下は左より天井が低かった。
壁の彫刻が密度を増している。
人の形をした何かが、規則正しく並んで刻まれていた。
「これ……全部同じ顔ですね」
騎士の一人が言った。
「気持ち悪いな」
ヒナタは正直に答えた。
彫刻の顔は無表情だった。
目が大きく、口が小さく、どこか人形に近い顔だった。
「祭祀用の神殿でしょうか」
「さあ」
ザリ、ザリ。
足音だけが続く。
しばらく歩くと、広い部屋に出た。
中央に祭壇のようなものがあった。
石でできた台の上に、何かが置かれていた。
近づいてみる。
器だった。
陶器の器。
中に液体が入っていた。
「なんだこの液体は」
騎士が呟いた。
ヒナタも覗き込んだ。
赤黒い液体だった。
「誰かがいるのか、ここに」
「あるいは最近まで……」
騎士が言葉を切った。
ヒナタも同じことを考えていた。
クリオラの騎士団が来たのはいつだ。
まだそんなに経っていないはずだ。
(これは騎士団の誰かのものか)
考えたくなかった。
部屋を出て廊下を進む。
廊下をある程度進むと扉があった
アリュがうなずく
ヒナタと騎士たちが扉の奥へ進む
そこには大きな空洞
いや部屋があった食堂というにはテーブルもない
ヒナタたちは勇敢にも部屋の真ん中へ進んでゆく
ガチァギチィと地面の音とともに
「ヒナタ…足…」
ヒナタの緊張が高まる
そうヒナタが踏んでいたのは騎士の甲冑と死体であるからだ
「え、あ…あ、うあ゛あ゛あ゛っっ!」
死体の目がこっちを見ている気さえ感じた
ヒナタが尻もちをつくとバイクにひき殺された時以来の吐き気を覚える
「お゛え゛え゛え゛えぇ」
「はぁ…はぁ…」
吐瀉物と死体の血の匂いが部屋に広がる
「落ち着いて…立てる?」
アリュが手を差し伸べる
「お前らは何にも感じないのかよ」
「え…それは…ちが」
アリュが回答に困ったところで騎士が言葉を出す
「そんなわけありませんよ恐怖だってあります怒りすらも覚えますでも」
「騎士である以上ほかの誰よりも気をしっかり持たなければ」
ヒナタもそれは言えたことだった護衛である以上どんな絶望が待っていようとも
ラベラを守るうえで強靭な心が必要なこと。
そのことを神殿へ行く前の自分が示していたことも
ヒナタの心を削った。
初めて見た死体とこの部屋のいやな空気もあるせいかヒナタも騎士達も精神的に疲労していた。
それもあり差し伸べてもらった手を払うと。
「大丈夫だありがとうこのまま進もう」
この巨大な部屋の奥に銅像らしきものに布がかかっている
その銅像を確かめるためにヒナタや騎士達、アリュが歩き出す
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ヒナタたちが右翼の探査を始めていると同時にラベラ達も左翼の探索を始めた。
「ラベラ様、足元に気をつけてくださいわ。ここの石畳、所々浮いていますから踏み外したら洒落になりませんわよ」
「わかってる。ありがとうソリュア」
「私が抱っこしてもいいですわよ。ラベラ様が転んで怪我でもされたら私の心が死にますわ」
「もうそんな年じゃないし、っていうかそんな年だったことないし」
神殿の雰囲気と相反して、そんな軽口に花を咲かせていた。ラベラ自身もわかっていた。こうしていないと、この場所の重さに飲み込まれる。さすがに騎士も苦笑いしながら口を開いた。
「お二人とも……もしかして探索を楽しんでいますか?」
「それはないですわ」ソリュアが即答した。
「それはないわ」ラベラも続けた。
「でもここで怖い顔をしていても何も変わりませんもの。笑っていられるうちは笑っていた方がいいでしょう」
「……なるほど。そういえば自己紹介が遅れてしまいました。今回のチームを率います、騎士長のハンス・ウィルモンドと申します」
「よろしくですわハンス。頼りにしていますわよ」
「よろしく、ハンス。あなたたちがいてくれて心強い」
「ありがたいお言葉です。こちらは部下というより、ずっと一緒にやってきた友人のリヒカとペリガーです」
騎士二人が頭を下げた。
「よろしくですわ、リヒカ、ペリガー。死なせませんわよ」
「よろしく。絶対全員で帰ろう」
ラベラの言葉に、二人が顔を上げた。何か言いかけて、でも言葉にせず、ただうなずいた。それで十分だった。
しばらく進むと、たくさんの部屋が枝分かれするように並んだ場所へ出た。
扉が左右にいくつも続いている。
その中心に、異様な雰囲気を漂わせる地下への階段があった。石段は古く、下へ続くほど暗さが増していた。上の廊下とは空気が違う。温度が低いのではなく、何かが違う。うまく言葉にできないが、ラベラの肌がそれを感じていた。
「そういえば、魔物らしい魔物を一匹も見ていませんわね」
ソリュアが階段を見下ろしながら言った。声が低かった。軽口の色がなかった。
「クリオラ様の騎士団と相打ちになったのでしょうか。それとも……まだどこかに潜んでいるか」
「どちらにしても嫌な話ね」ラベラが静かに答えた。
「でも行ってみなければわからない。行ってみましょう」
ハンスが先頭に立った。リヒカとペリガーが続く。ソリュアがラベラのすぐ隣に立った。
コツコツコツ……一段一段、慎重に降りていく。石段を踏むたびに音が反響して、遠くまで染み込んでいくようだった。
どれくらい降りただろう。やがて足元が平らになった。ソリュアの光の玉が照らし出したのは、
エメラルドのような壁と床の空間だった。壁から床まで、柔らかな緑の光が滲み出るように広がっていた。光源がどこにあるのかわからない。壁そのものが光っているようだった。
「もう光はいらなそうですわね」
ソリュアが静かに言って、手の魔法を消した。それでも足元がはっきり見えた。
「綺麗……」
ラベラが小さく言った。
エメラルドの光が壁全体から滲み出るように漏れていた。光源がどこにあるのかわからない。壁そのものが発光しているようだった。
「ええ」
ソリュアも認めた。
しかしすぐに目を細める。
「美しいものが危険な場所に潜んでいるというのは、よくあることですわ。綺麗だと思った瞬間に足を止
める、それが一番怖いんですの。気を緩めないでくださいますわよ」
ハンスが周囲を見回しながらそっと壁に近づいた。
指先をわずかに伸ばして、光る壁面を観察する。
「この素材……見たことがない。石でも鉱石でもないような。なのにこんなに滑らかで、まるで最初からこういう形で生まれてきたみたいだ」
「ハンス様、触れないほうがいいかもしれません」
リヒカが静かに、しかしはっきりと言った。
「わかってる種類が不明なものには触れない、基本だな」
ハンスが手を引いた。
廊下は一本道だった。
左右に逃げ場もなく、ただ前へ続いていた。歩くたびに、足音だけが反響して遠くまで吸い込まれていくような感覚があった。自分たちの音が、この場所にどこまでも染み込んでいく。
(静かすぎる)
ラベラは思った。
魔物の気配どころか、虫の音も風の音もなかった。
地下だから当然かもしれない。でもそれだけじゃない気がした。
上の階にいた時とも違う。ここは音が死んでいる。生き物が存在していい場所じゃないような、そんな静けさだった。
「ここが何の神殿かわかりますか」
ペリガーが小声で問いかけた。声を大きくしたくない、という気持ちが全員にあった。
「記録にはなかったわ。探検隊が見つけたばかりだから仕方ないけど、それにしても何も残っていなさすぎる」
「建築様式からして、相当古い時代のものですわ」
ソリュアが壁の彫刻を見ながら答えた。
「おそらく現在の神殿建築の系譜とは完全に別の流れ。私が学んだ建築史のどこにも当てはまらないですの。それが何を意味するかわかりますわね」
「今の私たちが知っている神話体系と、関係がない可能性があるということですか」
ペリガーが言った。
誰も言葉を続けなかった。
それが意味することを、全員が各自で理解した。どんな神が祀られているかわからない。何のために建てられたかわからない。なぜクリオラの騎士団が帰ってこなかったかも。そして帰ってこなかった彼らが、上の階の部屋で何を見て、何に出会ったかも。
廊下の先に、扉が見えてきた。
他の扉と違った。金属で補強されていて、年月を経ても腐食した様子がなかった。中央に丸い紋章が彫られていた。紋章は円の中に人の姿。両腕を広げ、顔を上に向けている。
「また同じ紋章ですわ」
ソリュアが低く言った。
「さっきの廊下の彫刻と同じポーズ」
ラベラが扉の前に立った。
触れる前に一度だけ周囲を見渡す。罠の気配を探る。何もない。ないように見える。それが逆に不気味だった。
「開けるわよ」
「ラベラ様、私が」
「いい」
ラベラは扉に手をかけた。
部屋の中は広かった。
天井が高く、壁全面にあの紋章と同じ模様が刻まれていた。
廊下で見たものより密度が高い。
隙間なく、びっしりと。
まるでこの部屋そのものが一つの祈りで埋め尽くされているようだった。
「……すごい数ですわね」
ソリュアが低く言った。
感嘆ではなかった。
どこか警戒を含んだ声だった。
中央に、台座があった。
台座の上には何もなかった。
ただ、台座の周りの床に、一人の人物の絵を中心に周りに三人の人物の絵があった
一人一人の人物の絵に何か文字が書いてあった
「読めますか」
ラベラはソリュアを見た。
ソリュアがゆっくり近づいて、床の文字を見た。
しばらく黙っていた。
表情が変わっていた。
何かを読み解こうとしているというより、何かに気づいてしまったような顔だった。
「……ソリュア」
「少し待ってくださいますわ」
ソリュアは文字の輪に沿って、ゆっくりと歩いた。
一文字一文字を確かめるように。
その間、誰も口を開かなかった。
ハンスとリヒカとペリガーは無言で周囲を警戒していた。
ラベラはソリュアの背中を見ていた。
ソリュアがこういう顔をする時は、たいていろくでもないことがわかった時だ。
長い付き合いで、それだけは確信を持って言えた。
「これは古語ですわ。かなり古い。今使われている文字の原型になったものですわね、おそらく」
「なんて書いてあるの」
ソリュアはゆっくり視線を上げた。
「『ラーダ・キンディッシュ』」
「『プレオラ・スカ―ウェン』」
「『キーガ・レェード』」
「ラーダ・キンディッシュは幼稚な『権化』の持ち主の名前で最近目撃情報が多いらしいですわ」
ソリュアは冷汗を浮かべる
「ていうことはその他の絵も権化の持ち主の名前ってこと?」
「その可能性が高いですわ真ん中にいる奴はもしかしたら『欲求』の一人なのかもしれないですわ」
「ここは神を祀るなんてところじゃなくて三大欲求の信者たちの隠れ家だったとか?」
ハンスが恐る恐る聞く
「いやこの文章を読むとここは三大欲求の討伐を目的にしているみたいですわ」
バリィンッ!
轟音とともに奥のほうの壁が壊れる
「あ~らあらあらあらららこんなところに人間ですかぁ?」
「誰だ!?」
ハンスと騎士たちが剣を構えるソリュアもラベラを後ろへ退かせる
「さぁ~いきんさぁ餌がたくさん来て満腹で幸せだったのにぃ」
「これ以上ぉ幸せになっていいのかなぁ?」
そこにはピンクの髪をし青色の星のような眼を持ちドラゴンの羽のようなものをまとった
魔人のような女性がいた。
ラベラは落ち着いているそいつが『権化』の持ち主ではないことが分かったからだ
しかしソリュアや騎士達も体の震えが止まることはなかった
だらけたような歩き方に対し圧倒的覇気と隙が一つも見えなかった
「とくにそこの銀髪巨乳お前は持ちすぎてるから私がこの手で殺すのぉ」
「やってみるといいですわ、すぐに頸動脈をかみちぎってやりますわ」
「援護しますよ、ソリュア殿」
「私はほかの魔物と違って知能があるから見くびらないことねぇ」
そういうと羽を大きく広げ、口を開く
ゴア゛ァ゛ッッッ!
魔人の口から火球が飛んでくる
それが戦いの合図になった




