↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/99

第三章 24:城郭都市

 パティアの名乗りを聞いた門兵が、訝し気に首を捻る。

「少し、お待ちください」

 門兵の言葉遣いは丁寧だが、その眼差しは疑いを隠しきれていない。もう一人の門兵に目で合図してから、城壁の向こう側へ引いて行った。

 残った門兵も、一行を不審に見据える。

 ――城郭都市キュケロナ。

 ルビナ山脈の麓に構えるその都市は、街全体が二重の城壁に囲まれている。マリオール王国の東方国境を守るに相応しい、堅牢な街だ。

 南側の城壁では、六本もの物見塔が来訪者を睥睨する。

 ルナはフードの隙間から塔を見上げた。高い城壁とも相俟って、圧し掛かってきそうにすら思えた。

 パティアが腕組みしたまま、静かに辺りの様子を窺っている。

 ルナは視線を下ろすと、口の端を吊り上げてパティアを見た。

「お姫様でも、顔パスってわけにはいかないのね」

 パティアが息を吐きながら、呆れ顔で振り向く。

「そりゃあそうでしょ。公式な訪問でもないし」

 二人の後ろでは、落ち着かない仕草でメルリネスが周囲を見回す。一方で、ルーファスは好奇心に満ちた笑みを浮かべて成り行きを見守っていた。

 しばらくして、街の方向からざわめきが聞こえてきた。

 門兵が、一人の初老の男性を伴って戻って来る。幾つもの勲章が飾られた赤い肩掛けマントを羽織った彼は、鋭い目付きでパティアたちを見据えた。

 その視線を、パティアは真正面で受け止める。

「マイヤー卿自らのお出迎えとは、畏れ入ります」

 凛として佇むパティアを、クランドゥ・マイヤーは眉を顰めて見つめ返す。

 しかしその顰め面は、すぐに破顔した。

「これは、パティア様。大変、失礼しました」

 クランドゥは優雅に臣下の礼を取る。そして、ゆっくりと頭を上げると、笑みのままで演技掛かった仕草で両腕を広げた。

「随分、大きく成られて。衛兵から話を聞いた時は、まさかと思いましたが。なんとまあ、こんな王国の外れまでようこそ御出でくださいました」

 パティアも穏やかな笑みを見せた。

「卿も、お変わりなく。本日はお願いがあって、お伺いいたしました」

「そうですか」と、クランドゥは安堵したように腰に吊るした剣を門兵に手渡す。

「立ち話も何ですから、中へどうぞ」

 そして、彼は意地悪く口元を歪めた。

「いや、王女を騙る不届きな輩であれば、この場で叩き斬ってやるところでした」

 そう言って、クランドゥは豪快に笑う。

「その時は、不肖ながらお相手いたしますわ」

 パティアも負けじと、不敵に笑って見せた。

「さあ、お供の方たちもご一緒に」と、クランドゥが街の中へ誘う。

 ルナが眉根を寄せる。

「…お供ね」

「あながち、間違ってもいないでしょう」

 面白がって言うルーファスを、ルナは不快な表情で睨み付けた。

 クランドゥに案内されるままに、一行は城壁を抜ける。一つ目の城壁を抜けるとやや広い中庭が広がり、やがて二つ目の城壁に達する。

 有事の際には閉じられるであろうその城門は、今は大きく開けられていた。

 街は活気に溢れていた。商人たちの露店が立ち並び、行き交う街民も多い。物売りの威勢の良い声に混じって、子供たちの奇声も聞こえてくる。

 ガチャガチャと金属の音を鳴らして、数人の衛兵たちが横を通り過ぎる。クランドゥは彼らに対して、軽く片手を挙げて応えた。

「最近は物騒でね」

 クランドゥが歩きながら言う。

「エルザハの僭主から救援の要請がありましてな。議会と折り合いが悪く、万が一の事態には亡命の可能性があると」

「穏やかではありませんね」

 パティアの返事に、クランドゥはさらに眉間の皺を深くする。

「そんな時に、今度は国境での魔物騒ぎですよ。当家の討伐隊も壊滅させられて、途方に暮れているところです」

「国境の一件なら、解決したわ」

 あっさりと言うパティアに、クランドゥは思わず足を止めた。

「今、なんと?」

 パティアがにやりと笑って見せる。

「私たちの信頼できる仲間が守ってくれています。街道はもう安全よ」

 クランドゥの驚きの表情が、次の瞬間には戸惑ったような顔付きに変わった。再び歩を進め、首を捻りながら街を奥へと向かう。

「…信じていない顔ね、あれは」

 ルナの耳元で、パティアが小声で言う。

「信用されてないんじゃない」

 突き放すように言うルナに、パティアは不満そうに頬を膨らませた。

 慌てた様子のクランドゥが、血相を変えて振り返った。

「いえ、そういうわけでは。決して」

 それでも、やはり完全には信じ切れていないように見えた。何やら思案気な顔で、クランドゥが跳ね橋の前で手を挙げた。その指示に従って、城門の上部の部屋で衛兵が巻き上げ機を回す。

「話は、中で聞きます。お疲れでしょう。食事を用意させます」

 振り向くクランドゥの背後で、ゆっくりと跳ね橋が下りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。