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ロストウィングス  作者: 星人 孝明
3章「うつろう合成獣」
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第十二話【聞くに堪えない】

「くっ、う……。何の、爆発だ?」

閃光と、その後に強烈な衝撃。計器類とディスプレイは自動的な再起動をしたようでシステムの復旧プログラムが走っている。

復旧までのサブカメラによる映像と計器類で周囲を索敵しながら呟いたヌエは、操縦桿を握り直して機体を立ち上がらせようとする。

「ん。動かない? 機体状況は──中破だと⁉」

 ヌエのC.Cはその重装甲にも関わらず機体の至る所に破損が発生しており、駆動に不自由が発生していた。

 推測される理由は、カノンの発射直前の閃光。

「あの時に、何かされたのか? なにしやがったあの野郎!」

『ミサイルだ、クソガキ。肩部ミサイルランチャーを、カノンの発射直前に撃ち込んだ』

 無線ではなく、機体のマイクが拾った外部からの音声だ。

 地面に倒れた機体の向きを音の方へ向けるが、銃火器を取り落としていたようでそのマニュピレータには何も握られていない。

「ばっかじゃねぇのか⁉ ンな事すりゃ、お前の機体だって」

『当然タダじゃ済まねえな。だが大口径のレーザー砲を喰らうよりマシだ。コラテラルダメージってやつだな』

 そこまで話して、メインの計器類とカメラが復旧して映像や索敵の結果がはっきりしてくる。周囲の敵影は一機だけで、その機体もヌエと同じように中破しており動きはない。

 しかし、その情報を得た直後にヌエのコックピット内には被ロックオン時の警報が鳴り響いた。

 見ると、中破したアフティ機はそのマニュピレータから銃を取り落としておらず、銃口をしっかりとヌエへ向けていた。

『機体と武器を捨てて降りて来な』


「思い切りと戦法は良かったが、同格以上との戦闘経験が足りてねえな」

「……殺せよ」

「殺さねえよ。約束だからな」

「?」

 少し経って、顔の半分が火傷跡で覆われた男アフティによって自身の機体に拘束されたヌエは、目の前で自身の機体から使えそうなパーツがはぎとられていく様子を見ていた。

 ヌエの眼前ではアフティがヌエ機からはぎとったパーツで淡々と自身の機体を補修していた。

「パンサーさんも殺しておいて、俺は殺さないって⁉ ふざけるなよ。約束だなんて高尚ぶって、俺と同じ単なる人殺しのクセに!」

「俺もキマイラ……お前らの言うパンサーも、そしてお前も同じ。そう言いたいのか?」

 ふう。とため息をついたアフティは、C.Cのコックピットに入って動作確認を行いながらスピーカーでヌエへ尋ねる。

 その声色に怒りや興奮は無く、むしろ何か、重い荷物を持ち続けている事に疲れてしまった人間の声のような印象を、ヌエは覚えた。

「そうだ。でもパンサーさんは、俺に温かい料理をくれて、その……心配も、してくれたんだ。人に優しくされたのは──」

「そうか。あのキマイラが、人に優しさをね……」

 アフティ機はひとまず戦闘以外であれば動きそうな程度に補修が済み、そのコックピットから出てくると、アフティは空を眺めた。

「……ごめんな皆。俺はもう、何が何だか分からないよ」

「?」

 アフティの呟きにヌエは首を傾げる。誰へ向けた言葉で、どういう意味の言葉なのかが分からなかった。

「奴が、パンサーが俺と同じだと言ったな。傍から見ればそうなんだろうが、俺は奴と同一視されるのだけはゴメンでね。一つ昔話をしてやろう」

 アフティは携帯型の端末を持って来ると、拘束されたヌエからでも見られるよう目の前へ置いた。

 表示されているのはとあるニュース記事で、日付は何年も昔のもの。

『惑星コルドバ、超新星爆発か』という見出しが大々的にアピールされており、かつて鉱物資源の採掘惑星として有名だったコルドバが写真に用いられていた。

「アイツは、『オメガメタル』を巡ってコルドバに現れた企業同士の争いに介入して、場をめちゃくちゃにかき乱した挙句に俺の故郷を滅ぼした。俺は抵抗したが、意にも解されなかったよ」

 アフティは、驚愕に目を見開いているヌエへパンサーと自身の因縁を話す。ヌエは始終黙って聞いていたが、アフティの語りにこもった真に迫るような何かを感じ取って、パンサーが二桁億人の殺害犯だという話をすんなりと受け入れてしまった。

「俺は生き残っちまったが……奴は、会うたびに人間性を得ている。故郷で会った事もあったが、その時からは信じられねえくらい、奴は変わった」

「何が何だか……って」

 疲れた様子で自身の手を見つめるアフティへ、ヌエは思わず尋ねる。

 彼は自身の手から視線をズラしてヌエを見つめる。

「アイツがキマイラだとは、俺にはもう思えない。……恨み続ける覚悟はあったんだがな」

「……でも、アンタは結局、そのパンサーさんを」

 と、ヌエがそこまで言った瞬間、アフティは忘れていたとばかりに目を見開いて頭を左右に振る。

「言い忘れてたな。あれはお前を引き止める為の方便だ。キマイラ……パンサーは生きてるぞ。ただ少し、『忘れ物』をしていたらしい」

「それって──! やめろ、あそこには恩人が」

「それで、俺はそのまま、お前を助けるための人員ってになったわけだ。我ながら良心的だ」

 アフティはヌエを止める為の囮であり、パンサーは忘れ物をした……つまり引き返している。その意味を察したヌエは身をよじり拘束から脱しようとしつつ叫ぶ。

 だがアフティはそれに取り合う気は無いようで、ヌエの方まで歩み寄ると彼の首へ取りつけられている装置を見る。

「杜撰な取り付けだ。良い外科医を知らないと見える。……少し手荒だが許せよ」

 刹那、アフティはヌエの首に何かの針を突き刺す。

「ぁ、──」

 ヌエは抗議の声を上げようとするも、瞬く間に失われていく意識に抗えずそのまま気を失った。


『キマイラ。こちらは完了だ。……だが機体を酷く損傷させられたからな。請求しておくぞ』

「ああ。……アフティ」

『なんだ』

「ありがとう」

『調子に乗るなよ。俺はただ……子どもを見捨てられないだけだ』

 ──ブツッ。

 いくらか疲れの滲んだ仇敵からの通信に、パンサーは胸をなでおろす。

「ヌエの装置は外れた。あの装置は通信、録音、薬物の遠隔投与などさまざまな意味と機能を持たせた高性能なデバイスだったが、扱いきれないものが扱えばこんなものか」

 状況の整理と機体の最終チェックを済ませながら呟くパンサーだが、彼の声から滲んでいた安堵などの感情はやがて薄れて消えていく。

「いまだけは、『キマイラ』で良い。……目の前のアレを、終わらせるだけだ」

 最終チェックまでが済むと、キマイラは右手のライフルをC.Cの格納庫へ、肩に搭載したミサイルランチャーを居住スペースへロックし、警告なしに発射する。

 アフティの話では、ウツロ組の地下には『子どもを保管・研究・改造』する施設が隠されていると推測されているらしい。

 推測だ。確定ではないので、もし子ども関連の施設が居住スペース内にあった場合は子どもまでを巻き込む形となる。

 パンサー、いやキマイラはそれ以上を考えない。

 確定情報が無い以上、後から後悔するか安堵するかの二択しかないのだと、自身に言い聞かせるより早く引き金を引く。

 大きな爆発が上がって、ウツロ組のアジトは火の海になる。

 格納庫にて整備、保管されていたC.Cもその多くが破損あるいは破壊されて爆発。まるで等間隔に爆弾を置いたような連鎖爆発が起きていた。

『パンサー⁉ テメェふざっけんな!』

『良い度胸だ、オヤジの慰み者にして堕としてやるよ!』

『組まるごと相手にして勝てると思ってんのか‼』

 接近してくるC.Cの反応をキャッチしてそちらを向くと、五機のC.Cが土埃を上げて地面を滑走してキマイラへ向かっていた。

 それらから聞こえる声は、依頼主と話した場に居た、あの三人やその他のものだろう。

 彼らは杜撰な連携で見苦しい隊列を組み、にわか仕込みで戦うつもりのようだった。

「……」

 キマイラは彼らの声に反応を示さない。

 ただ応戦するのみ。

 突出して接近してきた機体へシールドを投げつけて視界を塞ぎつつ接近。密接した状態で盾を手に取ると蹴って空中へ離脱しつつ置き土産にミサイルを射出して撃破。

 ほか四機の射線を上へ向けさせると、推進器を全開に。

 最も後ろに居た機体へ急速接近しブレードでコックピットを一突き。

 力なくぐったりと肢体を垂らすC.Cとシールドで機体を守りつつ右脚を軸にホバーで慣性のままに旋回。

 三機目を正面に捉えつつ計器類を一瞥。自身の正面、左右に一機ずつと確認すると正面の敵へ全速力で近付く。

 逃げようと後退する敵機をライフルとミサイルで射撃。姿勢を崩させると二機目の残骸を投擲して地面へ転ばせる。そのまま全速力で近付くとコックピットを踏み抜き、その脚を軸にまた旋回。

 武器を捨てて逃げ出した四機目を見ると、シールドを五機目の方へ投擲して身軽になってから再び全速力で追う。

 もとより扱えれば高機動な機体な事も相まってあっという間に追い付くと、すれ違いざまにブレード一閃。胴を真ん中で泣き別れさせる。

 両脚で地面へ着地し、ゆったりと振り返る。

 五機目は錯乱しているのか自棄になったのか、キマイラへマシンガンを撃ちまくっている。キマイラは足元の残骸を拾い上げ前に構えると、一歩、また一歩と銃撃を防ぎながら歩み寄って行く。

『──! ──!』

 戦闘に集中しているからか、敵機のパイロットが何かを言っているのは分かるものの、何を言っているか、キマイラには聞き取れなかった。

 とっくに弾切れを起こしているにもかかわらず、敵機はリロードもできずに悲鳴を上げ固まっている。

 キマイラは残骸を投げ捨てると、ブレードを掲げてコックピットへ突き刺す。

「……さて」

 対抗戦力が残っているなら既に出ているハズと考え、キマイラは機体から降りると拳銃とグレネード数発を手に、ウツロ組のアジトへ向かう。

 既にあちこちへ火の手が回っているのでパイロットスーツのヘルメットを着用して向かう。

 あちらこちらと歩き回るキマイラの視界には、血の絨毯と無造作に転がる無数の死体。それを彩る炎と、炎の輝きを覆いつくす黒煙が映った。


「う、あっ……お、お前、何のつもりだ! 依頼主を殺すフリーランスなんざ、稼業として続かなくなるぞ!」

 隅々まで探索を済ませ、最後に向かったのは『組長室』と書かれた部屋。

 その部屋自体がシェルターになっていたのか、扉を開けるとオオウツロとその部下数人が銃を構えており、キマイラへ銃撃を浴びせようとする。

 咄嗟に身を隠して銃撃を躱したキマイラは、オオウツロへ言葉を返さない。

「何が欲しい、金か⁉ それとも女か! ……まさかとは思うがヌエか⁉」

 オオウツロは、キマイラの目的が分からないとばかりに大声で交渉しようとする。

 キマイラの耳にその言葉は届くものの、脳に弾かれて無意味に終わる。

 キマイラは銃撃の間隙を縫って一発、二発と銃撃をするも、その度に数倍以上の弾丸を持って銃撃されて埒が明かない。

「なぜヌエを……いや、子どもを私兵にした」

「はぁ⁉ そんなこと、アイツを拾った俺たちがアイツをどうしようがギャアアアア⁉」

 質問を口にしながら片手で拳銃を撃ちつつ、もう片手でグレネードのピンを抜いて投げ込む。キマイラからの質問へ答えようとしていたオオウツロと、とにかく組織の長を守ろうとする取り巻きは逃げ場のないシェルター内でグレネードを受けて死傷者を出すが、まだ全滅はしていないようで反撃の銃弾が飛んでいく。

 それを見たキマイラは、無感情でグレネードをまた一つ、また一つと投げ込んでいく。

 爆発の度に悲鳴と肉が、骨が、血が弾ける音が聞こえ、やがてそれも聞こえなくなる。

「聞くに堪えないな」

 すっかり肉塊と化したオオウツロやその取り巻きが散らばる組長室へ侵入したキマイラは、歩く度にグチャグチャとまとわりつく臓物などを煩わしく感じつつも、重要そうに指紋・網膜の認証システムでロックされている金庫を見付け、必要なモノをはぎとって開く。

 そのまま一通りアジトを見回ったキマイラは、コックピットへ戻った。

 心のどこかでスイッチが切り替わり、つい先ほどまでの自身の行いや光景にこみ上げるものを感じたパンサーは、急いでヘルメットを取るとその中に嘔吐し、機体の外へそれを投げ捨てた。

 コックピットへ残しておいた通信機を手にし、電源を入れる。

「……こちら、キマイラ。任務は完了した。今から、そちらへ向かう」

 通信機の向かい側に居るアフティは、報告を聞いて一度息を吐く。

『さっきと同じだ。軍には通達してあるから、全速力で移動してお前の存在がバレたとしても攻撃はされねえ。戻ってこい』

「了解した」


 依頼は当然失敗。パンサーはそのまま、アフティとヌエの元へ向かった。

「これが、今回お前たちが欲しがっていたものだ。……アレはどうするんだ?」

 移動時間でざっと資料に目を通したパンサーは、その中身がご丁寧にプリントアウトされた指示書である事と、指示内容がドラッグの運搬であることを確認して集合場所に現れたアフティへ受け渡した。

「焼却する。残しちゃおけねえからな」

「そうか。……ヌエはどうなる?」

 アフティのアッサリとした答えにすんなり納得したパンサーは、すぐに少年の身を案じて再び尋ねる。

「あのガキは、公的にゃあ死んだ人間だろう。受け取り手を用意する手もあるが──」

「それなら、俺が引き取ろう。問題はあるか?」

 アフティはパンサーを一瞥する。

「おまえ、本当にあのキマイラなのか?」

「俺はまだ、その翼はとうに捨てたさ」

「翼を失ったキマイラで、パンサーってか? ……手続き上は問題ねえ。ガキがどうするかは、本人に聞け」

 アフティはキマイラと軽く言葉でやり取りをすると、興味無さげに、あるいは腹立たしげに手元の端末で防衛軍と連絡を取り始めた。


「ヌエ。入るぞ」

 パンサーは静まり返り、明りの灯っていない隔離部屋に足を踏み入れる。ドラッグの禁断症状によって狂暴になった彼は、内から外へ向かう衝撃への耐性を強めた独房に入れられていた。

「ウツロ組は滅んだんですよね」

「ああ。俺が滅ぼしたし、立ちはだかった者も殺した」

 暗い部屋の中、ギラリと輝く眼光をパンサーへ向けるヌエ。しかしその眼光からは覇気が既に失われている。

 手足は元々以上に痩せ、色濃い隈のせいで顔色は異様に悪く見える。

「ぼくはどう……いえ、良いです。殺してください」

「断る」

 ヌエの呟きを遮って彼の前に膝を付いたパンサーは、鎖で壁と繋がれている状態のヌエへ近寄る。

「俺はお前の生きる道を閉ざした。だからという訳では無いが……生きる術を教えてやる。恩のためにじゃない。お前がお前として生きるための、道を探す術だ」

「……ぼくは、疲れました。もう生きていたくはありません」

「なら、生きたくなるまで俺に付き合え。死ぬのを躊躇うだけの何かをお前に与える」

 死にたいという願いを却下し、生きろとエゴを押し付けるパンサー。ヌエはその即答によって答えに窮し、黙り込んでしまう。

 黙り込んだヌエが言葉を返せずに居る中で数秒が経ち、パンサーは意を決したように深呼吸する。

「……ヌエ。お前が、お前の心へ真に従えるようにする」


『よかったのですか、アフティ? やっと宿敵であり怨敵であり仇敵であるキマイラと遭遇できたというのに』

「やかましい。これで良いんだ。……良いんだよ」

 数日後、体調が快方へ向かっているヌエとパンサーが基地から旅立った背中を見送ったアフティは、コックピットで何者から声をかけられてディスプレイを見る。

 白髪と白い肌、赤い瞳を輝かせたその女性は、不満そうに頬を膨らませていた。

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