第107話
星は暗い空を見上げる。
……雨が気持ち良い。頭の中の熱を吸収してくれるようだ。
私の熱が、空気中で、拡散して……、消えていく。
綺麗。
なんて、綺麗なんだろう。(世界は真っ暗闇の中でも、冷たい雨が降っていても、いつも、すごく綺麗だ)
「よっと」
星はわざとらしく声を出しながら、膝に手を当てて立ち上がる。
休憩は終わり。
また私は走らなくちゃいけないんだから。海のところまで、(本当にあと)もう少しなんだから。
星は自分の手の届く距離にいる(自分の視界の中にいる)海に視線を向ける。
『君、熱があるみたいだね? 澄に嘘ついたの?』
魚が今更そんなことを言う。(でも、その感じ、嫌いじゃない。その『いつも通り』の感じが結構いい感じだ)
星はそれがなんだか妙におかしくて笑ってしまった。魚は怪訝そうな顔をするだけで、なにも言わない。
「魚。それで、私はこれからどうすればいいの?」
星は(いつものように)魚に質問する。
『君は海を捕まえてくれればいいよ。そうすれば『あとはぼくがなんとかする』から』魚は言う。とてもわかりやすく(とても単純であり)とてもやることが明確な答えだ。
星は手に持っていた真っ白な折りたたみ傘を地面の上に落とすように手放した。
『いいの? せっかく持ってきたのに?』
「いいの。あれは帰り用だから」
星は言う。(そうだ。私は海と二人で森から街に帰るんだから)




