5 我が子を抱けぬ妹と守られる妻
子が生まれてからというもの、私の一日はそれまでとはまるで違う形になった。
朝は乳の匂いとともに始まり、夜は小さな寝息に包まれて終わる。
これほど誰かに必要とされたことが、これまであっただろうかと思うほどだった。
母になるというのは、もっと厳かで、もっと完成されたものだと私は思っていた。
けれど実際には違った。
乳を吐いて衣を汚され、夜半に泣かれて眠れず、理由もなく不安になり、些細なことに笑ってしまう。
神に祝福された役目というより、もっとずっと生々しく、目の前の命に振り回され続ける日々だった。
それでも幸福だった。
抱き上げれば泣きやみ、胸に頬を寄せて眠る。
その重みが、私を母にしていった。
私はしばしば、妹の手紙を思い出した。
どうかたくさん抱いてあげて。
あの一文は、今も私の胸に棘のように残っている。
たくさん抱いてあげて。
それは私への願いであると同時に、妹自身の叶わぬ願いでもあったのだろう。
私は自分の子を抱くたび、どうしてもあの子のことを思ってしまった。
華やかな宮廷の中で、皇后でありながら母としては遠ざけられていく妹を。
ある日、乳母に子を預けて少しだけ休んでいると、夫が部屋へ入ってきた。
「起こしましたか」
「いいえ。まだ眠ってはいなかったわ」
彼は私の顔を見るなり、少し眉を寄せた。
「疲れていますね」
「母親というのは、皆こんなものなのでしょう」
「皆そうなら、皆もっと大切に扱われるべきです」
私は思わず笑った。
「ずいぶん大げさね」
「大げさではありません」
彼は本気でそう言っている顔をしていた。
そういうところが、この人らしい。
「あなたは、無理をして平気な顔をするでしょう」
「そんなことは」
「あります」
私は返事に困ってしまった。
なぜなら、ほんの少しだけ図星だったからだ。
少女の頃から私は、苦しくても姿勢を崩さず、泣きたくても笑い、そうやってきた。
それがよい娘であり、よい姉であり、よい妻であることだと思っていた。
けれど夫は、そういう私の癖をあまり好まなかった。
「つらい時は、つらいとおっしゃい」
「言ったところで、痛みが消えるわけでもないでしょう」
「少なくとも、あなたがひとりで抱える量は減ります」
私は黙った。
そんなふうに言われるたび、胸のどこかがやわらかく崩れる。
守られることに、私はまだ慣れていなかった。
妹はきっと、守られることにも苦しんでいるのだろうと思う。
皇帝陛下は妹を愛しておられる。
それは疑いようもない。
けれど帝国の中心に立つ男の愛は、ひとりの女をそっと腕の中へ囲うだけのものではない。
その愛には義務があり、国家があり、母があり、宮廷がある。
妹は愛されている。
けれど、守られてはいないのかもしれない。
ほどなくして、ウィーンからまた手紙が届いた。
封を切る前から、私は胸騒ぎを覚えた。
便箋の厚みではない。筆跡でもない。
ただ、妹から来る手紙には、時として開く前からわかる重さがある。
私は窓辺へ行き、椅子に腰かけて読み始めた。
姉さま。
こちらでは春が来ても、空気があまりやわらぎません。
庭は美しく、人々も変わらず親切です。
けれど私は、どこへ行っても誰かの目の中にいる気がします。
子どもたちは元気です。
元気でいてくれることだけが慰めですが、その慰めにさえ、私は好きなだけ触れてよいわけではありません。
私はそこで一度、目を閉じた。
好きなだけ触れてよいわけではない。
その言葉が、母となった今の私には以前よりずっと深く刺さる。
子を抱くこと。
子の髪に触れること。
泣き声に飛んでいくこと。
そんなものは母にとって呼吸のようなものだ。
それを許されぬ時間が重なるたび、人は少しずつ自分の母性まで疑い始めるのではないだろうか。
ゾフィー大公妃は正しいのです。
あの方は何も間違っていらっしゃいません。
子どもたちのため。
帝国のため。
皇族としてふさわしい養育のため。
でも私は、正しさばかりに囲まれていると、自分がどこにいるのかわからなくなります。
私が泣けば未熟だと言われ、黙れば冷たいと言われ、笑えば軽率だと見られる気がするの。
私は手紙を持つ指先に力が入るのを感じた。
正しさばかりに囲まれていると、自分がどこにいるのかわからなくなる。
妹は昔から、叱られることより、型へ押し込められることを嫌った。
外を走り、風を吸い、木のざわめきを聞いている時のあの子は、本当に生きていた。
それが今では、正しさに包まれて窒息しかけている。
私は急いで返事を書こうとした。
けれど何を書けばよいのかわからず、ペンを持ったまま長く止まった。
耐えて。
そんなことは書けなかった。
逃げて。
もっと書けなかった。
何を書いても、宮廷の檻の外から言う綺麗事になってしまう気がした。
結局私は、何度も書き直した末にこう記した。
おまえが苦しいのなら、それはおまえが弱いからではないわ。
どうか、そう思わないで。
正しい人々に囲まれていても、そこが自分にとって苦しい場所であることはあるのだから。
その文を見つめて、私は少し震えた。
これは慰めになるだろうか。
それとも、ただ苦しみを言葉にしただけで終わるのだろうか。
だが少なくとも、妹の苦しみを気のせいにはしたくなかった。
私の子は、日に日に表情を増やしていった。
眠っているだけだと思っていた顔が、ある日ふっと笑う。
別の日には眉を寄せて、不満げに泣く。
そのささやかな変化が嬉しくて、私は毎日を飽きずに眺めた。
夫は子を抱く時、いつも少し緊張していた。
「まだ慣れないのね」
「慣れたと思った途端に落としたらどうしようと考えてしまいます」
「そんなに不器用には見えないけれど」
「見えないだけです」
私は笑って、彼の腕の中で眠る子を見た。
まるで壊れ物を抱くような手つきなのに、不思議とそれが似合っていた。
「あなたは案外、よい父親になるわ」
「案外は余計です」
「でも本当にそう思うの」
すると彼は、少し照れたように視線を落とした。
「あなたにそう言われるなら、そうでありたい」
私は黙った。
こういう時、気の利いた返事は出てこない。
ただ胸の内が温かくなるだけだ。
この静かな幸福を、私はようやく恐れずに受け取れるようになっていた。
かつては、妹が皇后となったことに比べれば、自分の得たものはあまりにも地味に思えた。
だが今は違う。
地味でもよかった。
誰の記憶にも残らぬような日々でも、その中に眠る子の重みがあり、夫のまなざしがあり、食卓の温かさがあるなら、それは十分に人生だった。
けれど幸福が深まるほど、妹への思いは複雑になっていった。
もし私が不幸なら、まだよかったのかもしれない。
妹に選ばれた未来を奪われた姉として、胸を痛め続けていればよかったのなら、話はもっと簡単だった。
だが私は幸福になりつつあった。
その幸福が、妹の人生とあまりに鮮やかな対比をなしてしまうことが、時に苦しかった。
ある夏の日、私は子を抱いて庭を歩いていた。
葉の匂いが濃く、光がまぶしい。
ふと、あの十九歳の夏を思い出した。
馬車の窓から見た青葉。
母の硬い声。
窓の外ばかり気にしていた妹。
そして、若い皇帝の視線が私を通り過ぎて、妹へ向かったあの一瞬。
あの時の私は、自分の人生がそこで傷つき、少し壊れたのだと思っていた。
けれど実際には、あそこで救われてもいたのではないか。
その考えは、以前よりもはっきりした形を持つようになっていた。
一歩違えば、私があの宮廷にいた。
ゾフィー大公妃の正しさに囲まれ、愛されながら孤独になり、母でありながら子を奪われるような日々を送っていたかもしれない。
私は妹ほど華やかではない。
妹ほど自由を求める激しさもない。
けれど、だからこそ耐えられたとは、もう簡単には言えなかった。
あの場所は、誰にとっても容易い場所ではないのだろう。
ただ妹は、あまりにも美しく、あまりにも自由を愛する性質だったから、その傷が目立つ形で表れているだけなのかもしれない。
秋に入る頃、ウィーンから別の便りが届いた。
差出人は妹ではなく、宮廷に出入りする親族のひとりだった。
そこには慎重な筆致で、妹がこの頃ひどく痩せたように見えること、食事をあまり進めないこと、しばしば散歩や乗馬にばかり心を向けていることが記されていた。
直接の非難はない。
だが文の向こうに、困惑と諦めが見える。
私はその手紙を折りたたんだ。
痩せていく。
それは妹が美しさに執着しているせいなのだろうか。
あるいは、自分のものにならぬ世界の中で、せめて自分の体だけは自分のものにしようとする、最後の抵抗なのだろうか。
私は答えを知らない。
けれど、後者であってほしいような、そうであってほしくないような気持ちになった。
もしそうなら、あの子はすでに深く追い詰められている。
夜、私はその話を夫にした。
「体を細く保つことに執着しているようだと、皆は言うの」
彼はしばらく考えていた。
「自分で選べるものが少なくなると、人は選べるものへ執着することがあります」
「食べるか食べないか、ということに?」
「ええ」
私は暖炉の火を見つめた。
「それではまるで」
「牢の中の自由に見えるかもしれませんね」
私は顔を上げた。
彼は言いすぎたと思ったのか、わずかに表情を曇らせた。
「申し訳ありません。軽々しく言うことではありませんでした」
「いいえ」
私は首を振った。
「でも、そう聞こえてしまうのよ」
牢。
華やかな宮廷に、そんな言葉はふさわしくないはずなのに。
だが妹の手紙や噂を拾い集めるたび、その不似合いな言葉が少しずつ真実味を帯びていく。
私は胸の前で指を組んだ。
「私は、自分が幸福であることを、時々申し訳なく思うの」
夫は驚いたようには見えなかった。
ただ静かに聞いていた。
「妹は皇后で、誰より華やかな人生を送っているように見えるのに、実際には少しずつ痩せて、息苦しさを訴えている。なのに私は、ここで子を抱いて、静かな家で笑っている」
「それは罪ではありません」
「わかっているわ」
「本当に?」
その問いに、私はすぐには答えられなかった。
「頭では」
やがてそう言うと、彼は小さくうなずいた。
「では、心が追いつくまで時間が必要なのでしょう」
私はその言葉に救われた。
無理に正しい理解へ引き戻そうとせず、ただ時間が要るのだと言ってくれることに。
その冬、私は妹への手紙に初めてこんな言葉を書いた。
おまえが苦しいのなら、せめて手紙の中だけでは取り繕わないで。
私はおまえの姉で、宮廷の人間ではないのだから。
おまえが泣きたいなら、泣きたいと書いてちょうだい。
それは姉としての祈りに近かった。
何もしてやれない。
代わってもやれない。
けれど、せめて本音を置ける場所でありたい。
返事はすぐには来なかった。
待つ時間の長さが、かえって不安を育てた。
私は子を抱き、食卓につき、夫と言葉を交わしながらも、心の片隅でずっとウィーンを見ていた。
やがて届いた手紙は、短かった。
姉さま。
あなたはずるいわ。
そんなふうに言われたら、泣きたいと書きたくなってしまうもの。
私は泣きたい。
でも、泣いても何も変わらないの。
変わらないと知っていて泣くのは、とても疲れることね。
私はその手紙を抱きしめるようにして持った。
ようやく本音を書いてくれたことが嬉しいのに、その本音があまりに疲れていて、嬉しさと悲しさが一緒に押し寄せた。
泣いても何も変わらない。
変わらないと知っていて泣くのは、とても疲れる。
その言葉は、まだ二十を過ぎたばかりの妹のものとは思えなかった。
私は暖炉のそばに座り、眠る子を揺らしながら長く考えた。
守られる妻であること。
抱ける母であること。
それは当たり前ではなかったのだ。
妹の人生が、そのことを残酷なほど鮮やかに教えてくる。
私はもう、あの夏をただ奪われた季節とは思えなくなっていた。
あそこで選ばれなかったことは、たしかに傷だった。
けれどそれは同時に、私がこうして穏やかに子を抱き、泣きたい時に泣ける家へ辿りつくための分かれ道でもあったのだろう。
妹は今も、美しいままだった。
人々はその美しさに息を呑み、皇后の優雅さを褒めそやす。
だが私は知っている。
美しさは人を守らない。
時にそれは、逃げ場をなくした鳥の羽をいっそう鮮やかに見せるだけだ。
そして私は、守られることの静かな価値を、ようやく知り始めていた。
※完結まで毎日投稿です。
よろしくお願い致します。




