黒服現る3
「冬賀にマコモ、今日は妖魔退治ご苦労だったな。冬賀の仕事をマコモが奪ってしまったようだが、特に問題はないな?」
「あぁ、クライアントからは特に細かい指示は出ていないからな。報告書も適当に書いて処理する」
仕事?仕事って言った?
この冬賀さんって、仕事で妖魔を滅してるの?
私は詳細を知りたくて、エンマの衣の袖を引っ張った。
「どうしたマコモ、もう帰りたいのか?」
はぁーっ。やっぱりエンマは変わらずに私を子ども扱いしてくるのかぁ……。
「エンマ様っ。私はもう小っちゃい子じゃないですからっ!あの、聞きたい事があるんですけど冬賀さんっ。妖魔を倒すって仕事になるんでしょうか?」
「あぁ、何らかの相談を受けて調べた結果、妖魔が原因というのは結構あるからな。立地の良い店なのに何故か客が入らないとか、従業員同士のトラブルが多いとか。そういう類は大抵、妖魔が溜め込んだ「悪意」が影響して起こっている。だがら「退魔」はよくやっている。他にも手広く仕事は受けているから、それだけではないけどな」
まさか、こんなに私にピッタリな仕事があるなんて。適性のある仕事が見つかったかも!
「そうだ閻魔大王、やっぱり先月出した寿命の取り替え申請は通らないのか?俺としては是非叶えたいと思った依頼なんだ」
「冬賀。何度も言うが、そう易々と寿命はいじらない。定められた物を変えるのは在り方を歪ませると同義だ。悪く思うな」
「はぁーっ、そうか。どうにかしてやりたい案件だったんだけどな。それじゃあ閻魔大王、あの書類の者が冥府に来たら、裁定を緩くしてやってくれないか?出来るだけで良いから」
「善処しよう」
なんだか冬賀さんとエンマの関係って、取引先って感じ?エンマとは長い付き合いだけど、こんな姿は見た事が無かった。
「こっちのお嬢さんには名刺を渡しておくか」
私の目の前に一枚のカードが差し出された。
『祓い屋ーブラックウルフ
代表取締役 冬賀玄斗』
「ありがとう……ございます。ちなみに、あの、他に社員の方っていらっしゃるんですか?」
「生憎こんな商売柄だから、不気味がって事務職員も直ぐに辞めてしまうんだ。それに普通の人に手伝ってもらえる仕事も、そうそう無いからな」
も、もうこれは、決まりじゃないのか??
「あの、冬賀さん?」
「は?」
「私、清野真菰。ブラックウルフへの、御社への入社を希望いたしますっ!!」
「はぁ?!駄目だっ!何言ってるんだ、マコモは私の部下だろう?」
私は冬賀さんに話しているのに、エンマが割って入ってきた。確かに私が入社したら、エンマの仕事が後回しになるかもしれないけど。あ、エンマの力も使い過ぎちゃう?
「だ、大丈夫ですよエンマ様っ。私の体で出来る妖魔退治の数は急に増えませんし、エンマ様から力のもらいすぎとかも無いようにしますっ。ここに入社出来れば、私の収入は正しく税務処理してもらえますからね。今のままでは社会的信用がなさ過ぎて、満足に賃貸物件の契約さえ出来ないんですよ?!」
「それは分かった。いや違うっ、そうじゃない。そういう事じゃないんだ、マコモ!」
「じゃあ何だっていうんですかぁ?私にこの先、肩身の狭い思いをして妖魔だけを倒してくれとでも?そんな怪しい女、恋愛も結婚も出来ませんて。お分かりですか?エンマ様っ」
「何故そういう話になった?!そうだ冬賀、マコモは雇わないな?私の部下を奪うなんて愚かなことはしないだろう?」
「いや閻魔大王。これはブラックウルフにも好機だ。妖魔を倒せる人材なんて、なかなか見つからないからな。採用しよう、清野真菰っ。閻魔大王との強いコネクションは、我が社にとって強みともなる。とは言え俺も閻魔大王からの恨みは買いたくないし、部下の横取りはしたくないからな。我が社は副業も認めているから、そっちは今まで通りにやってくれ」
「ありがとうございますっ!私頑張りますっ!」
「私は良いと言っていないぞ、マコモ。それに条件も聞かずに了承などするものではない。冬賀、相手が何も知らない小娘だと思い騙す気か?」
何も知らない幼い私を騙すような真似をしたのは、エンマだったような?
「バックに閻魔大王が付いているんだ。騙したくとも騙せる相手じゃないな。清野、いやマコモか?今度、契約書や労働条件の通知書を渡すから、一通りしっかり目を通してから記入をしてくれ」
「冬賀、社員とするなら名前呼びは不適切であろう。清野と呼べ」
私の事を部下と言う割に、娘みたいに「マコモ」って呼んでるエンマはオッケーなの?
「……清野。もしかしたらお前は大変な事になっているのかもな。一体何なんだ?この状況は?!」
冬賀さんが少し心配そうな目で私を見てくる。確かに、こんなに就職の邪魔をしてくるとは思わなかった。
「エンマ様は確かに怒りっぽいんですが、いつもはここまで酷くないんですけどね」
私が冬賀さんに答えると、眉根を寄せたエンマにギロッと睨まれた。明らかに機嫌が悪い。
「マコモ、部屋まで送ろう」
エンマはそう言うと、座っていた私の脇に手を差し入れて立ち上がらせた。
「ちょっ、自分で立てますって」
「マコモ、冬賀の匂いがするな……」
「はい?確かにミントの香りがするかも。この事務所までは冬賀さんが運んで下さいましたし、コートも貸してくれていたので。それでですかね?」
「……気に入らん。邪魔したな、冬賀」
エンマはそう言うと私を包み込むように長い両腕で囲い、周りの空間を歪めた。
「あぁ、閻魔大王、悪かったな。清野もまたな」
目前にあった冬賀さんの姿と事務所の風景がかき消えていく。数秒の暗闇の後に見えたのは、自宅の玄関だった。
「さぁ、帰ってきたぞマコモ。とりあえず風呂にでも入って、その匂いを落とせ」
え?なんで?エンマの俺様がいつもより酷い。
ミントの香りはそんなに苦手なのだろうか?




