黒服現る4
「ふわぁー、暖かーいっ」
エンマの「風呂コール」により、帰って直ぐ湯船に直行となった。エンマは冥府に戻るのかと思ったら「まだ話す事がある」と言い、リビングに留まっている。
「なんだろ?話すことって?」
さっき冬賀さんの所で、私が急に就職を決めてしまったからお説教かな?それともまた、急にエンマの力を引き抜いた事へのお説教??
どの道「お説教」しかあり得ないよね。
「あー、今日は本当に疲れたなぁ……。まぁ仕方なし、怒られてやりますか」
エンマがまだリビングに居ると思うと長風呂するにも気が引けて、私は軽く体が温まると湯を上がった。
*
「おっ待たせしましたー、エンマ様っ」
リビングに戻ると、エンマがソファに仰向けに寝そべり寛いでいた。背の高いエンマだから、足がソファに乗らずに飛び出してしまっている。
「上がったか、早かったな。よく温まったのか?」
エンマが起き上がり、ソファに腰掛け直しながら私に話しかける。もうエンマの発言が、既に家族かお父さんだよ。私を子ども扱いするなと言った所でエンマのメンタルがこんな感じなら、そりゃ無理だよね。
「はい、まぁ。エンマ様もお疲れですか?珍しいですね、寝転ぶなんて」
「あぁ、色々と考えていた……、って何だそれは?羊じゃないな?」
「はい?あ、今朝の白いフリースは洗濯するので。これはお兄ちゃんが置いてったスウェットです。ちょっとサイズ大きいんですけど楽なので」
「……マコモ。現世には良からぬものが多いな。偽りや過ちが無くならないのも無理はない。人とは強くもあり、弱くもあるからな」
「ちょっ、どうしたんですかエンマ様?!何かおかしいですよ?私、そんなにエンマ様の嫌がる事しちゃいました??」
「いや、そうではない……。いやいや、そうかも知れぬな。マコモは私の予測の斜め上を行き、心を騒めかせる。なんだ?今日もいきなり冬賀の元で働くと言ったり、そんな服をまとったり」
冬賀さんの事はともかく、お兄ちゃんのスウェットにまでケチを付けるエンマの怒りのポイントがよく分からない。エンマも疲れて機嫌が悪いのだろうか?
「冬賀さんの所で働くのは、渡りに船って言うやつです。私にこれ以上合う仕事は、他に無いと思いましたし、冬賀さんも一緒に働ける社員を探していたみたいだから、ウィンウィンなんですよ」
私の力説にも関わらず、エンマが眉間に皺を寄せて渋い顔をしている。
「それが駄目だと言っているんだ。分からぬか?」
「全くもって分かりませんね。エンマ様は私の事情を理解してくれませんし、お互い様じゃないですか?!」
エンマはいつだって、私への説明が足りないと思う。幼い頃は、私の理解力が無くて仕方がなかったかもしれないけれど、今はもう話せば分かる年齢だ。これ以上、何の説明も無しにエンマの便利な持ち駒だけをやっていく気はない。
「分かった、この話はここまでだ。帰る。マコモの人生だ、好きにするが良い」
エンマは捨て台詞のようにそう言うと、周りの空間を歪ませて消えていった。
◇
シンと静まり返るリビングに、エンマの香の残り香が薄らと漂う。
さっきのやり取りは何だったのだろう?
何故、エンマはあんなに機嫌が悪かったのか?
私はまた言い過ぎてしまった事を後悔しつつ、さっきまでエンマが座っていたソファに横になった。
「まだ少し、暖かいな」
小さい頃の様に無邪気にエンマに抱きつけなくなったから、エンマの体温を感じるのは久しぶりだ。
冬賀さんの事務所から帰る時、後ろから軽くエンマにハグされたけれど、エンマの体と私の間には微妙に距離があった。その距離にドキドキしたけど寂しくもあったのだ。
「エンマとの距離は、どんどん離れていくなぁ……」
私がエンマの道具でしか無いのなら、その事をちゃんと伝えてくれたら良いのに。
それをエンマの口から聞いたら間違いなく私は傷つくけれど、受け入れたら楽にもなれるのだから。
「私、拗らせてるなぁ。閻魔大王に執着するとか訳わからんよ」
自虐ではあるけど、客観的に見るなら私の思いは不毛でしかない。
あの幼い日にエンマの赤い瞳を見てから、私は抜け出せない沼の中だ。
「そろそろ、楽になっても良いでしょ?エンマとは一線を引いて付き合わなきゃ」
私はちゃんと自分の足で立てるようになろうと思う。エンマに寄りかかるのは、そろそろお終いだ。




