黒服現る2
「おいっ、おいっ!」
目は開かないけど、声だけは聞こえる。
これはさっきまで近くにいた、あの黒服の声だろう。
「お前、普通の人間じゃなさそうだから、救急車は呼ばないぞ」
勝手な解釈だな。でも別に救急車呼ぶ程でもないから、それでオッケーだよ。
「こんな所で倒れた女を1人に出来ないよな……。さっきの事も確認したいし、俺の事務所に連れてくぞ?このままここに居たら警察呼ばれそうだしな。お前みたいな得体のしれないガキをどうこうするつもりは無いから、余計な心配は無しにしてくれ」
私も黒服が何者か知りたかったけど……。
今はこの動かない体をどうにかしたい。声さえも出せないし。
黒服は私を横抱きにして運ぶと、ベンチだと思われる所に下ろし、私の体に何かを掛けた。ふわっとミントの香りが漂ってくる。
「ここに守りの護符も入ってるし、ミーニャを付けておくから俺にはここの様子が見える。車を回してくるから、ちょっと待っててくれ」
黒服はそう私に伝えて居なくなった。
ーー「マコモっ!さっきのはどうした?!返事をしろっ!」
あぁ、エンマからの念話が聞き取れる。黒服の言葉を聞いていたら、念話の声が聞き取れなかったんだよね。
やっぱりエンマが怒ってるな……。急に沢山の力を抜かれちゃったから、エンマも驚いたよね。
ーー「マコモっ?マコモどうしたんだ?おいっ!」
今の私には念話で答える事さえも出来ないから、ちょっとエンマは黙っていて欲しい。
後で沢山、怒られるからさ……。
*
眩しい照明の明かりで目が覚めた。
どうやら少し眠ってしまったみたいだ。
目の前にはローテーブルが有り、水のペットボトルが置かれている。
黒服が置いてくれたのだろうか?
「目覚めたか?あれから30分程しか経っていないが……、調子はどうだ?」
私が寝かされているのはソファーの上で、体の上には黒いコートが掛けられていた。黒服が着ていたものだ。
「目がまだ開きづらくて……、眩しいというか。でも随分、楽になりました」
黒服は私から離れた場所に座っているようで、遠くからギシッと椅子の鳴る音が聞こえる。
「そうか、それなら良かった。俺が見たのは一体何だったのか?ちゃんと聞けそうだ」
「はい。私も、色々と聞きたい事があるので教えてもら……」
ーー「マコモっ!!私の言葉に答えろっ!ええいっ、今からそちらへ行くっ!」
目が覚めたばかりなのに、嫌なテンションの念話がエンマから入ってきた。
もしかして、ずっと私に念話を送っていた?とか?
ちょっ、今来たらダメでしょ?!他の人も居るんだよ?
近くで空間の揺れを感じ、エンマが衣に焚き染めている気高い香りが部屋に漂う。
「まじかよ……」
黒服から漏れ出るような声が聞こえてくる。
閻魔大王様、降臨である。
◇
エンマ、来ちゃったのか……。
びっくりし過ぎて目が開いた。エンマが私の気付け薬になったみたい。
「久しいな、冬賀。マコモの世話をご苦労だったな」
エンマはスッと手を伸ばすと、私の頭の上に置いた。
「へっ?!はぁ??何が起きてんだよ‥‥。閻魔大王は、まさかコイツの為に現世に降りてきたのか?」
私のことを ″お前″ だの ″コイツ″ だのと呼ぶ黒服には腹が立つが、そういえば自己紹介もまだしてなかったよね。
「ここに居るのはマコモだ。清野真菰、私の部下だ」
部下っ?!ハッキリ言われてしまった。
私はエンマに生かされ育てられたから、それ以上の繋がり感じてたんだどなぁ‥‥部下、ね。
「部下っ?!現世の人間を部下にしたんですか?!……あぁ、違うな。そうか、この女は冥府の者なのか」
いやいや、それは違うからね?
勝手に納得しないで欲しい。
「まぁ、冥府から戻った者だな。死にかけていたが私が現世に戻した。マコモは幼い頃に妖魔に襲われたが、何故か魂を喰われながらも逃げ切れてしまっている。おそらく魂の力が潜在的に強く、幼くとも退魔の力を使えたのだろうがな。まぁ、マコモは特殊なタイプだ」
特殊って……、まぁ事実なんだろうけど。
「そうか……。退魔の光って事は、コイツは純白の魂の持ち主なんだろ?まさかとは思ったが、あんな一瞬で妖魔を滅するなんて、白い退魔の光しかあり得ないからな。そうか、そんな事もあり得るのか……クソッ!」
黒服はやり場の無い思いをぶつけるように ″ドンッ″ と、机の上に握った拳を落とした。
「マコモ。今後の為に教えておくが、この冬賀の妹もマコモと同じように純白の魂を持っていたらしい。子どもの頃の冬賀が、見よう見まねの術で妹を守っていたが、狡猾な妖魔には敵わずに喰われてしまっている」
「閻魔大王の所にはまだ、深月の魂は来ていないんだろう?もう喰われてから15年も経っているんだ……。深月の魂を取り込んだ妖魔は、一体どこに行きやがったっ!」
部屋の空気が冬賀さんの声で震える。
悲しみも怒りも含んだ心の叫びに、私が掛けられる言葉なんて見つからない。どんな言葉も冬賀さんの思いには届かないだろうから……
今はただ、冬賀さんの思いをしっかりと胸に留めておこう。




