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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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解放3



 私たちの頭の上を漂っていた魂は、そうだとでも言うかのように、クルリと小さな輪を描いて回った。


「これで……これでようやく……。よく今まで、頑張ったな。兄ちゃん本当は、もっと早く深月を助けたかったんだ……こんなに時間がかかって……ごめんな深月」


 そう言った冬賀さんの肩に白い魂が近寄り、優しく頬を照らした。

 冬賀さん切長の鋭い目じりに、今にもこぼれ落ちそうな光るものが見える。


「何が……起きているんですか?私には全然見えないから……」


「今だ、今そのカメラを使って冬賀を写せ」


 いつの間にか私の後ろに来ていたエンマが、青木さんに指示を出す。


「……はいっ。光が足りないので、冬賀さんは余り動かないでくださいねっ」


 青木さんがカメラを構えると、冬賀さんの肩にいた魂がゆらゆらと白い輝きを広げ、人の形を結び始めた。


 その白い輝きはゆっくりと小さな女の子の形を結びながら静かに地面に降り立つと、冬賀さんの脇腹に抱きついた。


「深月ちゃん、お兄ちゃんが大好きって感じですね」


 表情を緩ませた冬賀さんの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。


「すいません冬賀さん、泣き顔を撮ってしまって……でもこれはエンジュさんの指示なので」


 青木さんが申し訳なさそうに、でも凄い集中力で写真を撮っていく。



「冬賀にはこれくらいの褒美があって良いだろう。この男は今まで色々と耐えてきたからな」


「何ですかそれ?泣き顔を撮られるのはご褒美に入ります?」


「無論だ。冬賀にとっては最良の褒美になるだろう。この写真が今後、冬賀を支え続ける柱となるだろうからな」


「そんな事を言って……後で冬賀さんに文句を言われても知りませんよ?エンマ様だって、泣き顔は撮られたくないでしょう?」


「確かにな。もし私がマコモを思い泣いている姿を撮られたら、それはちょっと笑えんな」


「そんなの私だって笑えませんよっ。それじゃ私が何か悪いことしたみたいじゃないですか?!」


「そんなに怒るなマコモ。ほらっ、冬賀の妹がこっちを見ているぞ」


 冬賀さんの横で、青木さんの写真撮影に答えてピースマークを作る深月さんが、満面の笑みで微笑んでいる。

 声は聞こえないけれど、口を動かして何かを言っているみたいだ。


ーーあ、り、が、と、う


 口の動きから、そう読み取れる。


「ありがとうって、言ってくれているみたいですね。ん?他にも何か……」


ーーお、にい、ちゃん、を、よ、ろ、し、く、ね


「お兄ちゃんを、よろしくねって、言ってくれてますよ?」


「マコモはよろしくされなくて良い。私が断りをいれておこう」


「エンマ様っ、相手は子どもですよ?200歳を超えて大人げない対応はやめてくださいっ」


「子どもであろうと何であろうと、はっきりとさせねばならぬ事はある。そうか……あの女児が冥府に来た際に、きちんと話をしておこう。マコモは私の伴侶であり、冬賀とは仕事の上だけの関係であると」


「はぁーっ、本当にもう、エンマ様って……」


「私はもうマコモへの思いを隠す必要が無いからな。こういうのは、実に開放的で気分が良い……なんだマコモ、呆れたか?」


「いえ……そんなエンマ様が、大好きですよ」



 ◇



 意識を取り戻した常磐くんに大きな怪我は無く、疲れは見えたけれど顔つきはスッキリとしていた。

 皆で塾まで戻り、待機していたお母さんに常磐くんを引き渡し、この夜の大騒動は幕を閉じた。


 常磐くんのお母さんは私に繰り返し謝罪をしてくれたけれど、何だかとても気不味かった。

 だってこの事件を引き起こした張本人は私だよ?誤りたいのはこっちの方なんだ。


 いっそ「本当は、常盤君も被害者なんです」と伝えられたらどんなに良かっただろう。


 でもそんな事は出来ないから、妖魔から晴れて自由になった常盤君のこれからの幸せを、ただ願わせてもらおうと思う。

 

 人の悪意から生まれた「妖魔」に邪魔されない暮らしに戻って、そこで頑張る常磐君の未来を、私は心を込めて応援したいと思うから。


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