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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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エンマの隠し事5



「……分かりました。エンマ様の力は私が引き受けます。本当はエンマ様の命が失われるなんて、凄く嫌なんですけど。私の命はエンマ様に助けられてここに有る訳ですし、遠慮なく使ってください」


「いや、そういう話じゃなくてだな……。別に私はマコモに恩を着せたかった訳ではないし、マコモに我慢を強いるつもりも無いのだ」


「でもエンマ様は、私が命を受け取る事をお望みですよね?そして私にはそれが出来る。私はもう、エンマ様から逃れて生きようなんて思いませんから」


「私から逃れて生きようと、そう思っていたのか?」


「はい?何て言うか……ずっとエンマ様が側に居たので、独り立ちと言うか親離れというか、不毛な思いは吹っ切りろうと思い……」


「だから私はマコモの親では無いと、マコモも私は父親の代わりでは無いと言ったではないか?!!」


 さっきまで挙動不審だったエンマが突然キレた。

 いつものエンマだと言えばそうなのだが、このタイミングでキレるとは思わなかった。


「そうですよ!言ったじゃないですか?!私のお父さんはそんな風には怒らないんです。エンマは何でキレてるんです?」


 エンマは本当にどうしたというのだろう?

 思春期の男の子でもあるまいし、こんなに感情のコントロールが出来ないなんて。


「私は、マコモを娘だと思った事はない」


「はい、それは前にも聞きました」


「私は……マコモにこれを受け取ってもらいたい。それが私の思いだ」


 エンマはそう言い、ジャケットのポケットから赤い小箱を取り出すと、私の目の前に差し出した。



 それは何処からどう見てもジュエリーケースで、それもサイズから見て指輪でも入っていそうだ。


「何ですか?これ」


「マコモのサイズに合わせてもらった。良ければ嵌めてみてほしい」


 サイズ……嵌めるって、もうあれしかないよね?

 どうしよう、心臓って口から出る事ある?

 いや、出ないよね。でもこんなに暴れる心臓なら出てもおかしくないよ?


 さっきまで挙動不審なエンマに、内心で突っ込み入れていたのに、今は立場が逆転だ。

 今私にしゃべらせたら、きっと動揺して変な事を口走ってしまうだろう。


 でもまさか、ここまでお膳立てしておいて「マコモは指輪でも入っていると思っていたのか?」とか言われちゃったら、それこそもう立ち直れないよ?!


 とりあえず深呼吸だ。そう、深く息を吸って……


「なんだ?開けないのか?」


 エンマが怪訝そうな顔で私を見つめる。


「いや、何と言うか心の準備が」


 もし万が一、この箱に指輪が入っていたとしても、どの指に嵌めるのが正解なのだろう?私はエンマの特別だとは言われたけれど、求婚された訳ではない。今までのエンマとの付き合いにも、そんな雰囲気なんて全然無かった。


「もしかして、就職祝い、とかですか?」


 私の誕生日は5月だから、誕生日プレゼントならまだ先だ。

 20歳のお祝いとかなら、すんなり受け取れそうなんだけど。


 だから今、可能性が1番高いのは就職祝い。

 エンマは最初、私が仕事をするのに反対していたけれど、今日の働きを見て考えを改めてくれたのかもしれない。


「だから何故?そうなる?」


 エンマは軽く目を閉じ天を仰いだ。

 そして再び目を開くと、私の手から小箱を奪い取り、その蓋を開けた。


「あっ!」


 箱の中に入っていたのはやっぱり指輪で、煌めく石が見えた。


「貸せっ」


 エンマが私の手をつかみ、その指に指輪を嵌めた。

 途中引っかかりながらも、指輪は私の指の根元にしっかりと収まる。


 そしてその指輪の位置は……




「左手の、薬指……」


「今の時代は、指輪を贈らない事も多いようだが……マコモはキラキラしたものが好きだからな。日常的に使えるデザインなら、悪くはないだろう?」

 

 エンマの言う通り石はリングに嵌め込まれていて、引っかかりのないデザインだ。これなら普段から身につけていられるだろう。


「エンマ様は指輪を付ける位置の意味って、ご存知ですか?」


 不安になりそうな可能性は全て消してしまいたくて、念の為にエンマへ尋ねてみる。これで指輪の位置がただの偶然で、全て私の勘違いだったら笑うしかない。


「もちろんだ。この指以外に付けさせるものか。

 閻魔大王たる者が、その力を分つ者。それは己が伴侶だ。特別にして最愛の伴侶と共に生き、その生涯を終える。私にそんな道を歩ませてはくれないか?」


 余りに衝撃的な言葉に、脳が固まりフリーズしそう。

 伴侶?最愛?本当に?


「マコモ断らないでくれ。私の生涯を懸けての願いなのだ」


 エンマはそう言うと、テーブルの上に置かれた私の手に自分の大きな手を重ねた。

 上目使いで私を見るエンマの瞳は、少し不安げに潤んでいる。


 何これ?!可愛過ぎて頭が破裂しそう。

 こんな気弱なエンマを見せられたら、私の心はぐらつくどころか真っ逆様に落ちていく。


 こんなに愛らしいエンマを前に、私が頷かずにいられる訳はなかった。

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