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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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新たなエンマと私の関係は?



「おーいっ清野、起きてるか?」


 昨日は色々とあり過ぎて、心も頭も過労気味だ。

 数時間寝ただけでは、この疲労は回復出来ない。


 珍しく私のデスクに、冬賀さんがコーヒーを置いてくれた。

 私は紅茶の方が好きだけど、自分のを淹れるついでに私のも用意してくれたのだろう。有り難くいただきたいと思う。


「そんなに眠そうなのは珍しいな……あれっ?清野、その指輪って?」


 目ざとく冬賀さんが、私の左手の薬指に輝く指輪に気が付いた。 


「これ……昨日のエンマの話っていうのが、この件で」


「まさかプロポーズでもされたのか?閻魔大王に」


「そのまさか、なんですよ。色々と話を聞いていたら断る理由とか見当らなくて、頷いてしまいました」


「おいっ……分かっているとは思うが、相手は閻魔大王だぞ?」


 この手のやり取りを、何度、冬賀さんとしただろうか?

 私だって分かっている。相手は冥府の王である閻魔大王様だ。

 現世の人間がおいそれと会える人ではないし、ましてパートナーになるとか聞いた事も無い。


「私だって驚いてるんですっ。どこまで話して良いのか分からないんですけど、私自身も余りに重たい事実に、軽く引いてます」


 エンマの伴侶になるというのも驚きだが、私がエンマの命を分け与えられるという事に、気持ちが重くなる。私はやっぱりエンマの命が減ってしまうのは嫌だから。


「それは……大変だったな。いや、おめでとうの方が良いのか?清野も閻魔大王の事は大切に思っていたんだろ?よかったじゃないか」


「それがですね、実はそこまで良く無い話もありまして……その為に、このプロポーズは保留になっているんです」


「ゲッ?!頷いたんじゃないのかよ……」


 珍しく冬賀さんから本音ダダ漏れっぽい言葉が出てる。

 プロポーズの事より、その保留の方がびっくりさせたみたいだな。


「頷きはしたんですけど……。実はどうしてもひとつだけ納得のいかない事がありまして、その問題を受け入れるには時間が欲しいと伝えました」


「はぁーっ、閻魔大王落ち込んで無かったか?大丈夫だったのかそれ?」


「…………どうだったんでしょう?とりあえず指輪は受け取りましたし、形としては婚約?的なものかなって思うんですけどね」


 指輪を外して来る事も出来たけど、それも何となく出来なくてそのままにしている。そもそもジュエリーケースはエンマが持ち帰ってしまったから、指輪の置き場所に困るっていうのもあるのだけど。


「まぁ閻魔大王としては、大きな問題はひとつクリアしたって事か。きっと、ここまでが大変だったんだろうからな」


 何故か冬賀さんが1人ウンウンと頷き、胸を撫で下ろしている。

 なんだかんだと、人の心配事まで背負い込んでしまうんだな。大変な人だ。


 私は私で、これからのエンマとの関係を考えないといけない。

 エンマは私に命を分け与えるって言ってるけど……

 私はエンマには長生きして欲しいから。



 ◇



「清野っ、これを見てくれ」


 冬賀さんがノートパソコンを前に呼んでいる。

 さっきから何か考え込んでいるみたいだったけれど、何かあったのだろうか?


「これが陽太君がバイトをしている学習塾で、これが彼のシフト。今は中3生の受験が終わって、空き時間が多いそうだ」


 ノートパソコンのディスプレイに開いていたのは、メールソフトと学習塾のホームページだった。メール文の最後には「浅野陽太」とある。


「あ、これって早速、陽太さんからですか?」


 メールにはバイトのシフト表が添付されていて、文面には「僕のスケージュールを共有してもらえたらうれしいです」と書いてある。


「陽太さんってちゃっかりしてますよね。依頼では無いけど、こんなの見たら気になっちゃうじゃないですか?」


「そうなんだよなぁ、困った奴というか曲者だな。人の心をどうやったら掴めるのか、分かってやってる」


「その割には青木さんに嫌がられたり、怒られたりしてましたけどね」


 青木さんと一緒にいる陽太さんを見て意外に思ったのは、特に好かれようと媚びていなかった事だ。

 それどころか青木さんをからかったりしていたし、あの調子では青木さんに好かれるのは難しいんじゃないかな?


「陽太君も押しが強いからな……。でも実は、構って欲しくて態とかもしれないぞ。青木さんを怒らせるのが楽しいんじゃないのか?」


「あれですか?つい怒らせたくなるみたいな。確かにコツメカワウソって言ってる陽太さん、楽しそうにしてましたね」


「まぁ余り褒めた態度とは言えないけどな。ただ素の陽太君があんな感じなら、感情を隠さない青木さんに安心してるのかもしれないな。あんなに正直に嫌がったり怒ったりする人も、なかなか居ないだろ?」


 確かに、ちょっと分かる気がする。

 陽太さんのような人馴れした人でも、心開ける相手はしっかり決めてそうだもんね。

 青木さんの真っ直ぐさに安心出来たりするのだろう。


「こうやって陽太さんの事を話していると、やっぱり放おっておけなくなっちゃいますね」


「ああ、奴の思うツボだ」


 表示されている陽太さんのシフトを見ると、今日は仕事が入っている日だ。


「今日は塾に行く日なんですね。社長の護符があれば、しばらく陽太さんは大丈夫ですよね?」


「それなんだがな……」


 冬賀さんは眉根を寄せて、少し言いづらそうに口を開いた。


「逆に、刺激する事にならなきゃ良いんだけどな……。陽太君の中に寄生していた妖魔が消えて、なおかつ彼が護符を持っているとなると、明らかに術者と通じていると分かるだろ?」


「それって人型の妖魔は術者の存在を知っているって事ですよね?昨日の妖魔も冬賀さんの術に抵抗してきたり、かなりの知性を持っていたように思うんですけど」


 人型の妖魔は確かに知性を持っていて、仕留めようと追いかけても隠れられたりしてしまう。

 ただ、私が今までエンマから依頼された仕事には、ここまで知能を感じさせる妖魔はいなかった。


「俺も出会った事は数少ないが、人型の妖魔の中には明らかに知識や知恵のある奴がいる。何故そんな成長を遂げられたのかと考え出すと、中々闇が深くて嫌になるがな」


「闇が深い……?それって、私が聞いたら後悔しちゃうような内容ですか?」


「まあな、俺も考えたくなくて放置していた。でもそろそろ向き合わなくてはいけないのかもな」


 冬賀さんはそう言ってノートパソコンを静かに閉じた。


 感情を荒げるわけでもない。何かを静かに受け入れようとしているような、そんな冬賀さんの様子が少し気になった。

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