エンマの隠し事4
「それにしても閻魔大王はどこに行ったんだ?」
確かにエンマは用があると言って消えたまま、帰ってきていない。
「何でしょうね?あの格好のまま何処へ行ったのか……。変は騒ぎを起こしてなきゃ良いんですけど」
「確かにな。まぁ閻魔大王の心配をするというのも変な話だが」
「何だ、私の心配をもしてくれるのか?冬賀は」
何処に居たのか、急に現れたエンマが私の隣にやってきた。
やはり冥府に帰った訳ではなかったらしく、着ている服もそのままだ。
「閻魔大王も現世をうろついたりするんだな。俺が知らなかった事ばかりだ」
「そうか。私は閻魔大王という立場だが、だからこそ人の世からは離れられぬ。だが流行りというのは難しく、店員に聞かねば最適な物かは分からない。中々、決断の難しい事柄であったのは確かだ」
「あ?あぁ、閻魔大王は買い物でもしてきたのか?へぇー。閻魔大王が買い物?そんなこともするのか……」
「もうマコモは連れ帰っても良いのだろう?帰るぞマコモ、話の続きだ」
「はい……あの続き、ですね」
正直言って気は進まないが、話をする他ないのだろう。
「社長、それではお疲れ様でした。失礼します」
「あぁ、また明日な」
冬賀さんの声を聞き終えると周りの景色は歪み、私はいつの間にかエンマの長い腕に包まれていた。
◇
エンマは部屋に着くなり後ろでひとつに結っていた髪を解き、軽く頭を振った。それと同時にエンマの髪と瞳の色がいつもの赤い色に戻る。
華やかで暖かいエンマの色を目にして心が落ち着く。見慣れたこの色の方が、やっぱりしっくり来るな。
エンマがダイニングの椅子に座ったので、私はテーブルを挟んで向かい側に座った。思っている事を正面から言うのは勇気がいるけれど、これはしっかり伝えたいと思ったから。
「エンマ様、話の続きですけど……やっぱり私はエンマ様の命が減るのは嫌なんです。もう、そういうのは止めませんか?」
「私には……マコモに伝えていない事があるのだ。それを言えずにここまで来てしまったというのか、ずっと言わずにいようかと迷いもしてきた。だが流石にそれも良くないと思い直し……」
意を決したように開いたエンマの口からは、いつもの簡潔な言葉が出てこない。
こんなに言いづらそうにするなんて……。
私も無理に言わせたい訳ではない。
「エンマ様、そんなに言うのが難しいのなら、今日でなくても良いですよ?」
「いや、それはいかんっ。今日はもう伝えると決めて、ここに来ているんだ」
何なんだろう?こんなまどろっこしいエンマを見た事がない。
エンマってこんな性格だったっけ?
「それじゃあ先に、私の言った事に返事をもらっても良いですか?私はエンマ様に、ご自分の命を大切にしてもらいたいんです。沢山あるからって無駄に使って良い訳ないですから」
私が言いたかったのはこれだ。これしかない。
エンマ様に命の大切さを諭すとか、訳の分からない事態になっちゃってるけど。
「私は命を無駄にしたとは思っていない。ただ私の命を分かち合いたいと、そう出来る相手を求めていただけなのだ」
「命を分かち合う……ですか?」
「そうだ。私がこの身に授けられた閻魔大王としての力は、それは強大な物だ。数百年と生きることさえ難しくはない。だがな、その間に人が変わり世が変わり、私はそれを見送りながら1人生き続ける。
だがたった1人、私がこの力を分け与えられる人物さえいれば、私はその者と共に生き、その者と同じ寿命で命を終える事が出来るのだ。
その者に出会い、命を分つ日を、私は長年夢見続けていた」
その相手が私だったと、そう言うのだろうか?
「でもエンマ様は……その1人を、選べないんですよね?」
「は?選ぶ?何故、選ばなければならない?」
「この世の人々は、多くの人の中から自分に合うパートナーを選ぶんですよ?趣味が合うとか性格が合うとか、ともかく合う人を見つけてから一緒に過ごすんです。なのにエンマ様は、偶然私が力を受け取れたから、だから私だけなんて嫌じゃないんですか?」
元はと言えば、私がエンマから初めて力を受け取ったのは、魂が欠けてしまった5歳の時だったはず。その時、エンマは私が力を受け取れると知ったのだろう。
自分の命を分つ相手がまだ5歳児。エンマは苦悩しなかったのだろうか?
「嫌だと思った事は無いが。マコモは特別だと思える相手を、選んでから決めるのか?」
「沢山の人達がいる中で誰かと特別な関係になるなら、選ぶって事になりません?」
「私が言っているのは、特別な相手の話だ。そんな相手は選びようが無いだろう。その相手を逃さないと心が決めているのだから。選ぶなんて、そんな考えはどこにも有りはしない」
エンマにとっては、たった1人の相手。
選ぶ選ばないではない、そう言う相手をエンマは求めていて、それが私だったというの?
それが真実なのだとしたら、私は嬉しすぎて頭がおかしくなりそうだ。
ずっとエンマの特別になりたくて、でもそうはなれない事に傷ついてきたんだから。
でも心の中に嫌な苦しみも湧き起こる。
憧れにも似た恋心を拗らせ続けたままで、この先ずっとエンマと一緒に居なくてはならないのか?
何だろう?その苦行は。
それって結局、エンマに利用されているって事に変わりはないんじゃない?
駄目だ。私はやっぱりエンマから逃れられないんだ。
エンマからの願いなら、私は聞き入れたいと思ってしまうし、今もまた、命尽きるまでの時間をエンマに差し出そうとしている。
笑えてくる。
私は大人になったって、ちゃんと説明されたって、エンマからの要求を断れない。




