エンマの隠し事3
「そういえば私達って、コツメカワウソ見てないですよね、社長」
思い出したっ。青木さんがコツメカワウソに似ているって話を聞いてから、私もそれが気になっていた事に。
「あぁ、そうだな。あの時は、そんな場合じゃなかったからな。今度2人でゆっくり行ってきたらどうだ、あの人と」
冬賀さんが言う「あの人」と言うのは、もちろんエンマの事だろう。
エンマと2人で水族館……。
楽しそうだけど、そんな過ごし方は考えた事も無かった。
「社長はコツメカワウソ見なくて大丈夫だったんですか?気になりません?」
「清野さん、コツメカワウソの話はもう良いです。もう、陽太君が変な事言い出すから……」
青木さんが困り顔になってしまったから、この話はもう止めにしよう。
気になる人の前で、動物に似てるとかイジられるのは嫌だよね。
「そっか、そういう感じね、アッキー先輩は」
陽太さんは分かったとでも言うように、軽く何度か頷いた。
「何?陽太君はもう納得出来た?それじゃそろそろ、冬賀さん達にお礼を言って帰ろう?」
「あ、あーーっ!僕さぁ、そう言えば昨日……塾バイトの時に、ちょっと変な絡まれ方しちゃってて」
塾バイト?陽太さんって塾で先生とかしてるの?!
「受け持ちじゃない子に突然『出ていけっ』って言われちゃってさ。もう驚いちゃって心臓バクバクだった……」
「それって今言わなきゃいけない事なの?陽太くん」
青木さんの陽太君を見る目が、どんどん冷ややかになっている。
陽太さん、早く帰った方が良いかもよ。
「あのね先輩、こっからが本題だから聞いといて。その子って凄く頭が良くて難関校狙えるのに、何故か最近うちの塾に入ったの。それも僕を指名で」
冬賀さんは何故か真面目な顔で陽太さんの話を聞いている。何か気になる点でもあるのだろうか?
「でも僕はバイトだし、そんなレベル高い事は教えられないから、その子は塾長が直々に見てたんだけど……何でか曜日を、僕がいる時に被せてくるの。最近の中学生ってどうなの?!って思っちゃってさ」
「だから陽太君、その話はまた後にしたら?私が聞くからさ」
青木さんはちょっとイラッとしてるかも。
思わず青木さんの表情に、小動物っぽさを見つけてしまう。
「待ってくれ。もしかしてその子が言った『出ていけっ』って言うのには、しっかりとした意味があるかもしれない」
「やっぱり分かりますよね、冬賀さんは。はぁーっ、思い出して良かったぁ。これで僕、これからもここに来て良いですよね?」
「おいおいおいっ、妖魔に狙われているからって、ここに来られても困るぞ浅野君」
えっ?妖魔に狙われているってどう言う事?陽太さんにロックオンしていた妖魔は、もう消し去ったはずじゃ?
「その『出ていけ』って言った塾の生徒さんが、実は妖魔に操られていたと言う事でしょうか?」
青木さんが理路整然と状況を把握して会話に加わってくる。
物の理解が早い人っているよね。
「さすがアッキー先輩。僕の考えてる事よく分かりましたね」
「陽太君の考えてる事っていうか、冬賀さんが言ってたじゃない……」
青木さんが陽太さんに塩対応なのは、だいぶ分かってきたな。
「もし本当にその塾の生徒が妖魔に寄生され操られているのであれば、だな。ただ浅野君を追いかけているストーカーの可能性もゼロではない」
「でもやっぱり僕のストーカーなら『出ていけ』なんて言わないですよ。あれはやっぱり僕の中にいた妖魔って奴に向かって言っていたと思います。結構、厳しい言い方だったから僕、悲しくなりましたもん」
陽太さんは分かりやすくションボリしている。でも目線はちょっとだけ冬賀さんに向けているから、これは冬賀さんへのアピールだな。
「だがな浅野君、それとこれとは話が別だ。俺がやってるのは仕事だから、正式な依頼じゃないと動かないんだ。浅野君がここに出入りする理由にもならないし、来られても困る。悪く思わないでくれ」
「えーっ!何でですか、冬賀さんっ!僕、今めちゃくちゃ狙われちゃってて、危ないかもしれないんですよ?助けましょうっ?!」
「依頼してからは調査費用と、その後の出張費と技術料も掛かりましたよね、冬賀さん?」
青木さんからの容赦無いコメントに、陽太さんも驚いている。
そんなびっくり顔でさえ、綺麗に通った鼻筋と二重のまぶたの目が、印象的な美に見えてしまうなんて凄いよね。
陽太さんの性格が、そのとっつきづらくもありそうな「美」を上手く誤魔化してくれている。
「そうだな、浅野君は何かあったら俺に連絡をくれたら良い。急ぐときは電話でも構わないから」
冬賀さんはそう言うと、ポケットから取り出した名刺を陽太さんに差し出した。
「これって……持ってるだけでお守りになったりします?」
「なる訳ないだろ?ちょっと待ってろっ」
冬賀さんはそう言ってその場を離れると、霊符を手にして戻ってきた。
「浅野君、これは『護符』だから肌身離さず持っていてくれ。君はどうやら妖魔に気に入られやすいみたいだからな。これで少しは厄介事を回避出来るだろう」
「え?もらって良いんですか?やったぁ、嬉しいっ……」
「冬賀さん、ありがとうございます。ほらっ、陽太君。お礼を言って帰るよ」
「あっ、それじぁまた何かあったらお願いしますっ。僕、呼んでもらえたら雑用でもなんでもするんで。今日はありがとうございましたっ」
「陽太くん、まだここで働く気だったの?」
「そうだけど?アッキー先輩だってそうでしょ?」
「もうっ……。帰るよ、陽太君っ」
青木さんに腕を引っ張られながらドアから出ていく陽太さんは、何故か嬉そうに見えた。
「リードを引っ張られる犬みたいだったな」
冬賀さんがボソっと言った言葉に思わず頷く。




