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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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エンマの隠し事2



「先に着いていたか。……タクシーが違う道を選んだみたいだな」


 冬賀さんがまた機転を利かせて嘘をつく。

 エンマの言う通り、真面目過ぎる所があるせいだろう。


「そうみたいですね」


 私は演技をするのは苦手だから、軽く相槌を打つだけにした。


 冬賀さんの後から、青木さんと陽太さんが続いて事務所に入ってくる。商談室の照明を付け、2人にはそこで待っていてもらうとしよう。



「あれ?エン……閻魔大王はどこだ?」


 事務机の引き出しにポケット内の小物を仕舞いながら、冬賀さんがキョロキョロしている。青木さん達には聞こえないように、ひそめた声だ。


「ついさっきまでいたんですけど、ちょっと用事があるとか言って消えちゃったんですよ。仕事でも残ってたんですかね」


 冬賀さん達が事務所に入ってくると同時に、何故かエンマは消えてしまった。「用事を思い出した、また戻ってくる」そう言い残して。


「そうか。まぁ閻魔大王だから忙しいだろ。2人に説明をするだけなら態々一緒に居る必要も無いし、それもそうか」


 冬賀さんはそういうと、部屋の隅に置かれた段ボールから水のボトルを4本取り出した。


「行くぞ、顧客フォローだ」



 ◇



「僕の体を使って、誰かに悪い事していたかもしれないって事ですよね。えーっ……それって僕の記憶に無いなら、やってないって事になります?やばっ、よりにもよってアッキー先輩の前でこんな話するとか僕、残念過ぎません?」


 陽太さんの話を聞いていると、凄く大変な出来事があったはずなに、何故かフワフワと軽い。話し方のせいなのか、本人の受け取り方が軽いからなのか……。


「妖魔、という魔物に意識を完全に乗っ取られていた訳では無いので、浅野様の記憶に残っていないのなら、誰も襲ってはいないのでしょうね。

 それは早い段階でこちらにご相談いただき、直ぐに対処出来たのが要因ですので、青木様のおかげかと思います」


 あ、また冬賀さんがナチュラルに青木さんを褒めている。 

 さっきまで疲れた顔をしていた青木さんの頬に、赤みが差す。


「えっ、めっちゃ嬉しいんですけど……。僕を助けてくれたのがアッキー先輩って事ですよね?うわーっ……感動した。見て?鳥肌立ってる」


 そう言って陽太さんが上着の袖をまくる。

 青木さんの前に腕を差し出して、その後に冬賀さん、私にも腕を見せてくれる。陽太さんって、やっぱり相当なコミュ王だな。


 聞き馴染んでくると、陽太さんの声自体は結構低いのに、話し方によって違和感なく高くなるのが分かる。確か演劇コースって言っていたから、こういう声の出し方とかも実は研究していそう。


 妖魔に寄生したいと思われる程に魅力がある人って……。

 それもまたとんでもないな。


「あの……さっき居た、モデルみたいな方が何かをしたら、陽太くんが倒れましたよね。あれで助けられたのは分かるんですけど、驚いたと言うか怖かったというか……。何が起きていたんでしょう?」


「…………意識を、失わせていました。催眠術みたい、な?」


 く、苦しい言い訳になってるよ冬賀さんっ。でもそれくらいしか言い方が無いよね。


「催眠術、ですか……。そういう方の力を借りたりもするんですね。陽太くんはあの時、どんな感じだった?」


「どんなって……どうだったんだろうな。ちょっと一言では言えないというのか……。あれ、あの感覚に近いかも。授業中のすっごく眠い時、気が付いたら夢見て寝てて、起きたら一瞬『えっ?ここどこ?』ってなるやつ。何かちょっとの時間の筈なのに別の世界に居たような気がして、感覚バグってた」


 陽太さんはあの時の記憶が結構しっかりあるみたいだ。

 冬賀さんの作り笑顔が引きつっている。


「そうなんだ……別の世界、ね。陽太くん、首の方はもう大丈夫だって言ってたし、これでもう日常に戻れるね。良かった」


「そうですね、私共も本当に良かったと思っています。青木様からご依頼いただいていた件も、これにて解決ということで宜しいでしょうか?後日、お見積りからの変更点等、改めてご連絡させていただきます。何か気になる事がありましたら、またその際にお伺いすると言うことで……」


「あのっ!」


 どうしたんだろう?青木さん。

 まだ言い残した事でもあったんだろうか?



「あの……私もここで雇っていただく事は、出来ないでしょうか?」


「!!!」


「先程、催眠術を使う方がいらっしゃいましたよね?そういうスポット的な形で、私の写真を撮る力が必要であれば、使っていただきたいなと思って」


 まさかの青木さんから雇用願い。

 冬賀さんも驚いたのか、いつもの鋭い目つきが思い切り見開かれて丸くなっている。


「それは有難いというか、こちらとしても願っても無い申し出ではありますが……怖くはありませんか?今日もあんな事がありましたし」


 冬賀さんは静かに目線を陽太さんに送った。

 おそらく陽太さんに、青木さんが危険な事に足を踏み入れるのを止めてもらいたいのだろう。


「面白そう……。僕も良いですか?妖魔っていうのを呼び寄せるのに、僕の体って使えません?」


 いやいやいや、そうじゃないでしょ?

 陽太さんは、さっき大変な目に遭ったばかりだよ。


「なんだこれは……。清野、やっぱりお前を雇ってからおかしな事が続いてないか?」


「私のせいにしないでください。社長の自業自得じゃないですか?」


 そもそも青木さんの心を動かしてしまったのは冬賀さんだ。青木さんの行動力を知らなかったとは言わせない。


「そう来たか。だがな、これは明らかに風向きが変わってしまっている。今までとは違う流れに入り込んだみたいだ」


 冬賀さんはそう言うと、目を瞑って考え込んでしまった。


「あの、冬賀さん。駄目でしょうか?無理なら諦めますけど」


 青木さんは引く姿勢も見せている。

 陽太さんはきっと、青木さん次第で意見を変えるのだろう。


「そうだな、これはこのまま進めよう。今までと同じ所をグルグル回っていても仕方が無い……。

 青木様がそう言って下さるのなら、こちらの仕事にご協力下さいますか?仕事の依頼は不定期になりますが、それでも宜しければ」


「はい、宜しいお願いしますっ」


「えっと、僕も採用しちゃえます?」


「浅野様は危険を伴う恐れが有りますので、余りこういった件には近づかない事をお勧めします」


「僕だけハブられるの、悲しいんですけど」


 そんな上目使いしても、冬賀さんにはたぶん効かないと思うよ、陽太さん。


「陽太君は危ないから駄目って言われてるんだよ?ちゃんと聞いてた?」


 青木さんが強めの口調で陽太さんに言う。

 ここで陽太さんを御せるのは、やはり青木さんしかいないだろう。


「あ、その顔。そのプンッてしてる顔がコツメカワウソ。絶対似てますって、先輩否定してたけど」


 青木さんの幼く見える顔立ちに、少し苛立ちの表情が足されると、途端に警戒心を持った小動物顔に見えてきた。

 陽太さんが言っていたのは、この表情の事だったんだっ。





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