寄生の妖魔
「おはようございます社長、どうでしたか?青木様……」
冬賀さんからの連絡を受けた青木さんの様子が気になり、出社して直ぐに聞いてみた。
冬賀さんは寝不足なのか、いつもの鋭い目付きにキレがない。
あくびでもした後なのか、瞳が潤んで白目も少し赤くなっている。
事務机の上にはマグカップに入った飲みかけのコーヒーとミントタブレットのケースが並ぶ。胃を悪くしそうな組み合わせだ。
「青木様は協力すると言ってくれている。妖魔の件は半信半疑だが、陽太君の事があるからキッチリ祓って欲しいと言ってきた」
やはり青木さんは単身「ブラックウルフ」に仕事依頼に来るくらいには度胸のある人みたいだ。
「そうなんですね、良かったー。それじゃ出来るだけ早いスケジュールが良いですよね。日にちの事は言ってました?」
「それなんだが、大学構内だと知り合いに会ってしまいそうだから、別の場所にしたいと言われた。陽太君は目立つ存在らしいな」
大学校内で会った陽太さんの姿を思い出す。
確かに見た目も雰囲気もキラキラしたものをまとっていたな。
「大学以外の場所ですよね?何処が良いんだろう……」
「青木様が言うには、池袋の水族館だったら陽太君を呼ぶ口実があるらしいんだ」
「水族館ですか?ビルの最上階にありますよね」
「あぁそうだ。詳しい事は聞かなかったが『コツメカワウソ』を見に行こうと陽太さんに誘われた事があったらしい」
「『コツメカワウソ』……随分とピンポイントなんですね」
「何だかなぁ、陽太君に言われたらしいぞ『コツメカワウソ』に似ているって。青木様は否定したらしいが、それを確かめる為にいつか一緒に水族館に行くって話があったらしい」
「何なんですかそれ?!でもちょっと気になりますよね。青木さんコツメカワウソ……」
「人が多いのは気になるが、俺たちが紛れ込むには丁度良いんだよな。ただ寄生している妖魔を弱らせると、おそらく陽太君は人混みの中で倒れ急病人のような扱いになってしまう。出てきた妖魔を見失って取り逃す可能性も増えるから、その辺りのリスクをどう考えるかだ」
今回問題なのは、私の目の前で陽太さんの体から妖魔を出したいのに、私が居ると陽太さんが逃げてしまうこと。それなら……
「私が陽太さんに見つからないのが大前提じゃないですか?人混みは逆に有利ですよ」
「そうか、清野ならそう言うと思った」
「はいっ、出来るだけ早く妖魔を仕留めちゃいましょうね。私、気になって仕方がないんですよ……」
「そうか、やっぱり昨晩の内に霊符を書いておいて良かったな。もし青木様が今日行くとか言ったら、清野も迷わず行くだろう?」
「そりゃそうですけど……、もしかして社長のその寝不足って」
「あぁ昨晩、清野達が帰ってから身を清めて、明け方まで霊符を書いていた。だから寝不足だ、分かるか?」
「分かりますってっ、目が開いてないですよ社長」
「……そうか、頑張って開けてるつもりだったんだがな。俺ちょっとだけ寝てくるわ、青木様が今日の昼前に来るんだ」
「ええっ?!それを早く教えてくださいよっ」
「悪いっ、眠すぎた……」
◇
ローテーブルが置かれた横のソファーで冬賀さんが寝ている。
初めて私が「ブラックウルフ」に運び込まれた時に寝かされていたソファーだ。
どこから持ってきたのか寝袋を着て横になっているから、私が知らないだけで事務所にもよく泊まり込んでいるのだろう。
「スー…スー…」と言う寝息が規則的に聞こえてくる。
イビキとかかかないんだな……
私が掃除をした商談室は散々の汚さだったのに、何故か冬賀さんの事務机の上だけはいつも綺麗に整えられている。
テーブルの上はノートパソコンと使用中の書類だけ。
筆記用具も引き出しにしまっているらしく、メモ用紙以外は出ていない。
お気に入りなのか、小さな銀色の猫の置物だけがメモ用紙の横に置かれている。
そういえば冬賀さんと初めて会った時「ミーニャ」っていう黒猫が居たっけ……
自分が仕事に慣れるのに忙しくって、冬賀さんの事を知る機会が余り無かったな。
どこで術を覚えたのだろう?
何故自分も子どもだったのに、妹が妖魔に襲われてるって気が付けたのだろう?
冬賀さんって私以上に不思議な事ばかりじゃない?
閻魔大王と一緒に夕飯食べてる私に言われたくはないと思うけど。




