潜む妖魔2
「問題は、あの男をどうやって呼び出すかと言う事だな。奴にはマコモが退魔の光を放つ純白の魂であるとは既にバレている。会って話しまでしたのだから、気付かれていない訳がない」
エンマが言うには大学構内で会った私たちを、既に陽太さんは警戒していたらしい。陽太さんの中には妖魔が居るから、私の魂の色はしっかり見られている。
「私が呼び出しても陽太さんは来ないって事ですよね。やっぱり私って男の人に避けられる運命なのかも」
こんな時にも男性から避けられる状況が出来てしまうなんて、私が持って生まれた運とかそういう物に違いない。
冬賀さんが何故かジロッとエンマの顔を見た。今のは何??
「清野の魂は妖魔には隠しようが無いからな。俺たちの事は伏せて、青木さんに呼び出してもらうのが良いだろう。騙すみたいで嫌だが、そうでもしないと陽太君に会うことさえ出来ない」
「それじゃ怪しまれないように、呼び出してもらう場所は大学構内が良いですか?人が少ない時間と場所を青木さんに教えてもらいましょう」
「そうだな。そこで妖魔を弱らせて、陽太君の体から出てきた所を清野が仕留めてくれ」
「はいっ。私は仕上げで妖魔を消滅しますね。あの……寄生した妖魔を弱らすって何をするんですか?」
さっきは冬賀さんとエンマは納得していたけど、私は何も分からずじまいだった。
青木さんが撮った写真を使うってどういう事だろう?
「あぁそうか、清野はまだこういう術には疎いんだな。これから少しずつ覚えてもらうが、俺と同じような術者にはならなくても良い。知識としてだけ入れておいてくれ。妖魔の写真はな、術の接点として使うんだ」
「術の接点??」
「そうだ。写真に撮られた姿と言うのは、呪術的に言うと魂の一部分なんだ。それに向けて使った術は魂の本体にも影響を与えられる」
「えっ?!それって大変な事じゃないですか?皆んな普通に写真に撮られますよ?」
「まあな。でも下手な呪いは効かない。もし効いたとしても相手にバレたり、何らかの理由さえ生じれば呪いは自分に返ってくる。そういうリスクがあるから流行らないだろ」
それはそうかも。呪いの手順を正しく踏めば踏むほどに怖くなりそうだ。
「だが正しく術としての力があれば、写真に写った姿から相手に影響を及ぼす事は可能なんだ。今回はその方法で妖魔から力を奪おうと思う」
力を奪うって?
思わず私は自分の左手首を見た。私がいつも力をもらうエンマの「紋」
「力を奪うって……妖魔の力をどうするんですか?」
「すまん、言葉の綾だ。退魔の術を使い妖魔の力を弱らせる。写真からの遠隔だと消滅させる程の力は無いからな」
「へぇー……、そうなんですね。でもそんな事が出来るなんて凄いですね。魂の一部……」
私は思わず手首の紋を、もう片方の手のひらで隠した。
もしかしたらエンマは、私に凄く大事な物を刻みつけているのでは?
私は横にいるエンマの顔を見た。いつもの美麗なエンマと目が合う。
「何だマコモ。隣にいるなら念話はいらないだろ?」
私が紋に手のひらを乗せていたから念話だと思ったのだろう。
「何となくこうしているだけなので、気にしないでください」
「そうか?なら別に良いが……」
この手首の紋がもしエンマの一部だというのなら、なおさら私はこれを刻みつけられた理由が知りたい。
エンマの力って、受け取る適性があるという理由だけでもらって良いの?
私がエンマの魂の一部を預かり続けているのなら、それは命を繋げているという事ではないだろうか?
◇
青木さんへの連絡は冬賀さんに任せ、エンマと一緒に私の部屋へと戻った。
流石にちょっと気疲れしてしまったので、ソファーへ倒れ込むように横になる。エンマが見ているけれど、まぁ良い。今更だから気にはしない。
「青木さん……信じてくれますかね?陽太さんの中に黒い人型が入ってるなんて」
横になったまま、頭にモヤついていた不安をエンマに話してみる。こんな事をエンマに言っても仕方がないのに……
「どうだろう、分からんな。だがあの学生が信じずに妖魔退治の仕事が立ち消えるなら、私が後に冬賀へ依頼すれば良いだけだ」
「でも陽太さんを呼び出せるのは青木さんですよ?青木さんの協力が無いままに私達が呼び出したり、待ち伏せをしたら、陽太さん逃げちゃいますって」
エンマは全て分かってる風に言うけれど、現実的な段取りはとても大事だ。
いつも妖魔を追い掛けていた私だから、それは分かっている。
「ならば私が一緒に動けば良いだろう。私が共に動けば妖魔の居所など直ぐに分かり、移動も一瞬だ」
確かにそうだ。初めからエンマに頼めば良かったんじゃない?!
「エンマ様っ!それじゃ、青木さんに頼んだ陽太さんの呼び出しはキャンセルにしましょう。エンマ様の協力があるんだったら、直ぐにでも動けますからっ。冬賀さんに連絡しないとっ!」
私は冬賀さんに連絡しようとスマフォを手に起き上がった。
そんな私の手をエンマの大きな手が握って止める。
「待てっ、浅はかだなマコモ。そうやって冬賀の仕事を奪う気か?今はまだ、冬賀と依頼主の間に事はある。私が力を使うのは、今の仕事としての形が終わったその後だ。それまで私はむやみに手を出さん」
「エンマ様ってどうしてそんなに頭が硬いんですか?!陽太さんを助ける為に出来る事をするだけじゃないですか?!」
「その真っ直ぐな考え方はマコモらしいが、それだけで私は動く訳にはいかない。物事の関わり合いから生じた事を、軽んじてはならないからな」
エンマはそう良い、私の横に静かに腰掛けた。
エンマの言う事は分かるようで分からない。陽太さんを助けるために全力で取り組むのが何故いけないの?
「エンマ様って気難しいんじゃないですか?そんな事を言ってて陽太さんの身に何か起きたらどうします?!」
「何か起きたとて、それは冬賀と依頼主、そして妖魔に寄生された男の間にある問題だ。私の問題ではない」
「冷たい。エンマ様、冷たいんじゃないですか?人1人の命が、人生がかかっているんですよ?黙って見ているとかよく出来ますね?!」
違う、私が言いたい事は本当はこんな事じゃないのに……
私だってエンマの役割は分かっている。
今だって、私個人に肩入れし過ぎているくらいだ。
「ごめんなさい……。ちょっと気が昂ってて……」
どうして私はこうなんだろう?言わなくて良い事を言ってしまう。
「気にはしない。マコモが言うことにも一理ある」
エンマはそう言うと、私の頭にそっと手を乗せた。
私の気持ちを静めるように、ゆっくりと頭を撫でる。
「何だか、こういうのあった気がします」
「何だ?言ってみろ」
「昔、小さい頃にお父さんが頭を撫でてヨシヨシしてくれたなぁって」
「おとう、さん…………」
「エンマ様って、お父さんみたいな時がありますよね。まぁ私のお父さんは、エンマ様みたいに綺麗じゃないですけど」
「冥府で、裁定の場でマコモの父親には会ったからな。知っている……」
「そうでしたね。お父さん来たって教えてくれましたよね。あれで私、すっごく安心したんですよ。あの時……」
「マコモっ!私は急ぎの仕事があるんだ。直ぐに冥府に戻らねばならぬ」
「はいっ?」
珍しく慌てたエンマが私の話を遮った。
「また来る」
エンマは一言そう告げると、あっという間に空間を揺るがせ姿を消してしまった。
あんなに慌てて帰ってしまうなんて……
こっちの世界に長居させ過ぎてしまったのだろうか?




