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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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潜む妖魔



 帰宅途中、今日あった事を相談したくて、自分からエンマに念話をした。

 意外にもすんなりと念話はエンマに通じ、私の帰宅を待って話をする事になった。


 私の帰宅を待ってというか、私が帰るとエンマが部屋で待っていたんだが……。

 エンマはお仕事の方は大丈夫なのだろうか?



 そうして今は、エンマのお腹を満たしながら話の最中。


「上手いなこれは、白米にも合う」


 黙々とエンマが食べ進めているのは「チリコンカルネ」だ。作り置きで冷凍保存しておいたミートソースがあったので、味をチリパウダーで付け直してみた。買い置きしていた大豆の水煮缶も使ったから、それっぽい感じに出来たはず。


「ですよね。ご飯でもパンでもいけますし、少し辛いんで食欲も出るというのか」


 私もエンマの向かいに座りチリコンカルネを食べる。

 さっきまで気落ちして食欲も無かったけれど、これなら食べられそうだ。

 一緒に食事をするこの平和な空間に、さっきまで落ち込んでいた気持ちがリセットされていく。



「なんだ?今日の自分の演技が下手くそで落ち込んでいたのか?」


 エンマはスプーンを口に運ぶのをやめ、ニヤリと笑って私の目を見た。


(やっぱり見てたんだっ!それも結構、初めの方から見てるよ)


「私は嘘を吐くのが苦手なだけなんです。エンマ様だって、嘘をついた人の舌を抜くとか言われてますよね?私が嘘吐きじゃなくて良かったですね」


「はっ、そんな子供騙しな事を言ってくるとはな。だがな、あれは冬賀の機転が無ければ不味かったな。間一髪だった」


 なんだろう?間一髪って。何の事?


「あの途中で接触してきた男。あの男の魂は色が失われていた。(スス)を被ったように黒く汚され、元の色も見えない。これがどういう事なのか?マコモは分かるか?」


 途中で接触してきた男って、陽太さんの事だよね?

 私は妖魔は見えても、人が生きた肉体に内包している魂の色までは見られない。

 私はやっぱりエンマから限定的な力しか与えられていないんだ。


「もったいぶらないで教えて下さいっ。もし魂の色が黒く汚されていたのなら、何だっていうんですか?黒って妖魔の色、ですよね?妖魔に何かされたって訳ですか?」


 エンマはもう全てを食べ終え、優雅な所作で水の入ったグラスを手に取った。一口飲み干しグラスを置くと、満足そうな顔で両手を合わせる。


「ご馳走様だ、マコモ。美味かった」


 いやいや、そういう言葉は嬉しいけれど、今聞きたいのはそれじゃない。


「あのですねぇ、エンマ様。そこまで教えてくれたなら、最後まで言って下さいよ」


「珍しいケースだが今までも何度か目にした事はある。私は現世の事には直接手を出せないが、知識くらいは与えてやれる」


「もしかしてエンマ様も協力してくれるんですか?」


「そうだ。妖魔の倒し方をマコモに教えてしまったのは私だからな。マコモがその道に踏み込んでいくなら、必要な知識は伝えよう。まぁ妖魔が入り込んだ人間と出会うなんて、滅多にない事だがな」


「妖魔が入り込んだって?それじゃ陽太さんの魂の汚れの正体って‥‥もしかして、見つからなかった妖魔?」


「そうだ、妖魔そのものだよ。よくわかったじゃないか、マコモ」



 ◇



 とんでも無い事を知らされてしまった。

 今まで倒してきた妖魔は「目に見える黒い何か」だったのに、その姿を隠せる妖魔が居たなんて。

 それも生きている人間の肉体に潜むなんて、悪趣味極まりない話だ。



「冬賀さん、そういう事らしいんですよ。陽太さんを早く解放しなくちゃです」


 エンマから妖魔の居所を聞いた私は、直ぐに冬賀さんに連絡を取り事務所に向かった。


 まぁ、向かったと言ってもエンマに空間移動を使ってもらったのだけど。

 今回の件は閻魔大王という有識者からの話が必要だから、ついでにそのまま一緒に居てもらっている。

 

「あぁ、妖魔は陽太君の体に入っているって事だな?それは分かった。急ぎでどうにかしないと拙いな……。だがな清野。今のこの状況って、これって普通なのか?」

 


 今私達3人は、事務所の商談室で顔を突き合わせて話をしている。

 

 私の向かいに冬賀さんが座り、エンマは私の隣だ。腕を組み、いつものツンとした表情で腰掛けている。


「俺さぁ、閻魔大王と同じテーブルに付くとか考えた事も無かったわ……。清野にとってはこれっていつもの事?有りえねぇ」


 冬賀さんは常識のアップデートに忙しいらしく、いつも以上に顔が険しい。もしかすると、また腹痛でも起こしているかも。


「マコモが言った通りに妖魔はあの陽太という男の中に潜んでいる。魂に寄生してその肉体を乗っ取っていると言えば分かり良いか?」


 エンマが私の説明に詳細を足していく。

 そうそう、こういう解説が必要だからエンマに居て欲しかったんだよね。私もこんな妖魔は初めて知ったから。


「じゃあ何だ、もし退魔をするなら陽太君の魂にへばり付いている妖魔をどうにかするって事か?そんな状態の魂に清野の退魔の力をぶち込んだら、陽太君はそれこそマズイだろ?」


 冬賀さんは私の力を何だと思っているのだろうか?一応、退魔の光は妖魔以外には無害ですけど?


「そうだな。マコモの光球を妖魔に寄生された魂が受けたなら、それこそ木っ端微塵に消え去る事も有り得る。もう、あの男の魂はこの世から綺麗サッパリ消えるだろう」


 ちょっ、エンマまでなんて事をっ!

 冬賀さんも眉間に皺を寄せて、そんな残酷な物を見た時のような顔をしないでっ。


「私だって流石に陽太さんに向かって光球投げたりしませんよっ!勝手に私を加害者にするのやめてくれます?!」


 良かった……先に妖魔に寄生された魂と光球の関係を聞いておいて。知らなかったら私、陽太さんに向かって光球投げちゃってたよ。


「あの男の魂から妖魔を引き剥がせば良いのだが。どうだ冬賀、出来そうか?」



「魂に寄生した妖魔を引き剥がす、か」


 冬賀さんが眉間に皺を寄せて考え始めてしまった。


「寄生しているって事はまだ力があるって事だろ?そんな力のある妖魔を無理やり引き剥がしたら、それこそ陽太君の魂にダメージを与えるんじゃないか?」


 冬賀さんは考えに詰まったのか両腕を上げて軽く伸びをすると、その手を頭の後ろで組んだ。何か良い方法がないか考えているみたいだ。


「寄生している妖魔を弱らせる方が容易いかもしれぬな。妖魔の力が落ちれば、肉体に入り込んだとて居心地の悪さに勝手に出てくる。思い通りにならない肉体に居続ける理由は無いからな」


「その事なんだが、閻魔大王。過去、妖魔に寄生された人間達はどうやって助かったんだ?何か記録に残っていないのか?」


「そうだな。助かったケースは非常に少ないが、力のある術者によって助けられたケースばかりだな。生憎、どのような術であったかの詳細は記されていない」


「そうか……、知りたいのはそこなんだけどな。まぁ、それが知れたとしても俺が使えるとは限らないか。いや、使えない術ばかりだろうな」


 どうしたんだろう?冬賀さん酷く弱気じゃない?やっぱり術者って習得した術じゃないと使えないとかあるのだろうか?


「人型の妖魔から逃れられなかった人間は、幾人か見てきた。どうやら妖魔という物は、魂を数多く取り込むと人の姿を得たいと考えるらしいな。気に入った人間を見つけるとその肉体に入り込み、飽きると今度は別の体に乗り換える」


「それじゃ待っていたら、いつか陽太さんは解放されるんですか?妖魔を倒さなくても助かるっていう事?」


「妖魔に操られたまま人の姿で人の魂を喰らうのは、さぞ辛い記憶となるだろう。その上、妖魔は人の体を乗り換える際に元の体の魂を喰らっていく。悪事の片棒を担がされた上に魂まで喰われ妖魔に取り込まれてしまうのが、妖魔に寄生されると言う事だ」


 思っていた以上に陽太さんの状況は酷いんだ……

 

 私達にそれを止められるのだろうか?

 知ってしまった以上何とかしたい思いはあるけれど、方法が見つからない今は只々苦しいだけだ。


「エンマ様、そんな酷い事が陽太さんの身に起こるなら、私が弱目に作った光球を投げ付けて、少しでも妖魔を弱らせてみましょうか?!」


 エンマと冬賀さん、2人が揃って冷めた視線を私に向けた。「絶対に陽太さんへ光球を投げるなよ」って無言の圧力を感じる。



「待てよ、呪い……か。対象物に通じる物があれば、そこから祓える、か?」


 冬賀さんが何か思い付いたらしく、椅子から立ち上がった。


 「ちょっと、すまん」冬賀さんはそう言うと、自分のデスクへと向かった。

何か気になる事でもあるのだろう。



「これだ、これっ!」


 直ぐに戻ってきた冬賀さんが手にしていたのは、青木さんが撮った妖魔の写真だった。


「ここに妖魔がしっかり写っている。ここから祓ってしまおう。どうだ?閻魔大王」


「そんな便利な物があるのなら、使わない手は無いな」


 何やら冬賀さんとエンマだけで納得しているみたいだけど……


 青木さんが撮った写真で一体何をするつもりなのだろうか?

 

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