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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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対面?!



 冬賀さんの運転する車に乗り、青木さんの通う大学まで向かう。

 青木さんの通う大学は駅前にあるので電車移動でも良かったのだが、どうやら冬賀さんは車の方が良いらしい。

 

「もし人型の妖魔に出くわしたら、俺は動きを封じる。清野が妖魔を滅してくれるなら、俺はその作業に専念出来るからな」


 冬賀さんは出発前にも打ち合わせた内容を、念を押すように言ってくる。


「分かってますって。私は光球を確実に妖魔に当てて倒せば良いんですよね?任せてください。その道に関してはベテランなので」


 冬賀さんは私が妖魔を倒した現場を、たった1度しか見ていない。

 私が今までどれだけ沢山の妖魔を倒してきたかなんて、知る訳はないよね。


「あぁ任せた。俺は青木さんや、場合によっては周りの人も守らないといけないからな」


 確かにこんな会話を電車ではしづらいよね。こうやって冬賀さんのペースで動くなら車移動が最適だ。


「そういえば、昨晩エンマと会ったんですが、今日の仕事の様子を冥府から見ているって言ってましたよ?」


「はぁーっ?!なんだよそれは……父兄参観か何かか?それって何か意味あるの?今回の妖魔がヤバいとか?」


「それがよく分からなくて。何だか昨晩のエンマは変でしたし。何だかあのツンとした感じが消えて、娘を見守る父親みたいな?そんなモードでした」


「へぇーっ、普段の閻魔大王とか知らないけどな。ふうん……閻魔大王ってそんな遅い時間にも清野の部屋に来るの?」


「うーん。余り時間帯は気にしてないっぽいんで。朝から来ることもありますし」


「俺たちの常識とは違うって事か。清野はそれで良いのか?今日だって見てるとか言われて嫌じゃない?」


「嫌、ではないですね。ずっとエンマは私に特別な関心は無いと思っていたから、不思議には思いますけど」


「お前、それ本気で言ってるの?!」


「はい、エンマとはずっとそんな感じなので。逆に冬賀さんからはどう見えてるんですか?」


「は?!俺が言える訳ないだろ。まだ俺は命は惜しいからなっ」


 冬賀さんから見えている私とエンマは、おそらく私が昔に勘違いしていたような関係性ではないのだろうか?


 私はエンマから、特別な思いを掛けてもらっている存在。

 そんな勘違いをしていた頃もあったよね。



 ◇



 モザイク調のタイルが足元に広がる大学構内は、夕暮れ時だが人の姿は意外に多かった。

 2月は授業が無いと聞いていたけれど、結構多くの学生が来ているようだ。


 待ち合わせをしている青木さんも特に大学には用事が無いのに、今日は私たちの呼び出しに応じて来てくれる。


「青木さん、緊張してますかね?こんなに急に呼び出し掛けちゃって」


「そうでもないんじゃないか?結構、肝が座ってそうな人だったぞ」


 冬賀さんにはあの華奢な可愛らしい人が、そんな風に見えていたとは。

 確かにかなり個性的な内面を持っていそうだけど……


「青木様、お待たせ致しましたっ」


 子供のようなあどけない風貌に凛と輝く瞳を持った青木さんが、ガラス張りの校舎の前で待っていた。



 ◇



「すいません、お待たせして」


 約束の時間の10分前に私たちは着いたのに、既に青木さんはそこに居た。


「いえ、何だか落ち着かなくて早く着いてしまっただけですから」


 冬賀さんが青木さんに伝えたのは「早く対処しないと身近な誰かに被害が出てしまうかもしれない」という内容だった。


 いたずらに青木さんを怖がらせてもいけないが、悠長に構えられて被害が出てしまったら元も子もない。

 そんな事から青木さんにはあの黒い人型を放置すると、何らかの被害が出る可能性が高いとだけは伝えている。



「青木様を怖がらせてしまったのなら申し訳ない。今日は現場での事実確認と、必要があれば対処を行う予定でいます」


 冬賀さんが慣れた様子で説明をしていく。

 私達としても「物」を見ないと何も出来ないからね。



「アッキーせんぱーいっ!」


 誰かがこちらに向かって呼び掛けてくる。溌剌とした男の人の声だ。


「アッキー先輩来てたんですか?授業無いから暫く会えないかと思ってた……」


 小走りで駆けつけてきたのは、金に近い明るい髪色をした男性だった。耳に掛かるくらいの長さの髪が、緩くウェーブをして頬に散らばっている。


 「陽太君、久しぶり。今日はサークルでもあった?」


 陽太と呼ばれた青年は柔らかな笑顔を浮かべながら、小柄な青木さんを見下ろしている。明らかに好意を持っている相手に向けるような顔だ。


「そうなんですよ、新勧が近いからポスター作ってて。休みに出てくるのダルかったんですけどアッキー先輩に会えたから、まぁ良かったかな……。先輩は、何か用ですか?」


 冬賀さんと私の存在に今さらながら気付いたらしく、陽太さんが私2人に向かって軽く会釈をした。


「この方達は、これから私が構内の案内をさせていただく方々で……」

 

「妹がこちらの大学に入学を希望してまして、知り合いのツテで青木様に案内をお願いしていました。青木様、今日は本当に無理を言って申し訳ありません」

 

 突然に冬賀さんの演技が始まり、青木さんは話を遮られてしまった。

 流石に黒い人型をした「何か」を確認しに来たなんて言えないからね。


 喋りを止められた青木さんは表情も変えずに小さく頷き、落ち着き払っている。


 冬賀さんが青木さんを「肝が座った」と言った意味が分かる気がした。

 状況からきちんと意図を読み取り、焦らずに対処する。そう言った事がすんなりと出来る人なのだろう。


 私はと言えば突然「妹」と言われて背筋がピキッと固まってしまったというのに。


 陽太さんは私をチラッと見ると、


「へぇー、じゃあ僕の後輩になるかもですね。僕は浅野陽太って言います。映画学科の1年で演劇コースです。聞きたい事があったら何でも聞いてください」


 そう言って陽太さんは、ヘラっと笑った。

 綺麗な薄茶色の瞳が夕暮れの時の陽光に輝き、形の良い唇の口角が綺麗に上がる。


 映像に映えそうな顔立ちだな……


 カメラを構えた事はないけれど、そんな事を思ってしまう程には特別に目を引く何かを持っている人だ。


「は、はいっ。ご丁寧に、ありがとうございます」


 緊張しながら私が陽太さんに言葉を返すと、私の横に居る冬賀さんの顔がニヤけているのが見えた。

 口元が緩んでいるから、きっと笑うの堪えているのだろうな。


(私が嘘付くのが下手だって、何となく分かってたでしょ?!)


 この数週間のうちに、私のストレート過ぎる性格は冬賀さんにバレている。

 「やっぱりな」とか思っているに違いない。

 


「それじゃ陽太君、またね」


「あ、はいっ。アッキー先輩もまた……。また、撮ってください。声かけてくれるの待ってるんで」


 陽太さんは青木さんにそう告げると校門に向かって歩いて行った。丁度帰り際に通りがかり声を掛けたのだろう。



「すいません、彼にはちょっと嘘を付いてしまいましたね。青木様とはどういったご関係なのか、分からなかったもので」


 冬賀さんが急な演技に青木さんを巻き込んだ事を謝罪する。

 仕方が無い事とはいえ、青木さんにも嘘を吐かせてしまったから。


「いえ、こちらこそありがとうございました。彼は、私の撮ったショートムービーに出てもらった事があって、それ以来仲良くしているんです。彼は人懐っこいしあの見た目だから、結構、周りからの妬みも多くて大変なんですけどね」


 おまけに青木さんに懐いてるみたいだから、周りは面白く無いだろうな。


「確かに、彼は人目を引く容姿でしたね。あの写真にも彼は写ってますよね?」


「あのスマフォの画像ですよね。学食で偶然会った陽太君を、私の友人達が囲ってしまったんです。それで、陽太君と一緒に写真を撮ってくれって私に言うものですから……。でも、撮ったらあの黒い人が写っていて、もう、私も焦ってしまって、慌ててスマフォのバッテリーが落ちたフリして隠しましたよ」


 その時の事を思い出したのか、青木さんは小さく笑った。

 困惑した出来事を思い返しての苦笑いなのだろう。


「そうだったんですね。青木様の気づかい、とても偉かったと思いますよ。突然起こった事に相手の気持ちを思って配慮するのは、なかなか出来ませんから」


 冬賀さんの言葉を受けて、青木さんの頬が朱色に染まっていく。さては冬賀さん、無自覚に人を落としていくタイプか?


「い、いえ、そんな事は……。偉くなんてないですよ。騒ぎになるのが嫌なだけだったので」


 青木さんは耳まで朱色に染まってしまっている。

 冬賀さんは思いを伝えるのが上手いけど、これはこれで問題ではないのか?



 ◇



 あれから青木さんの案内で構内を歩き、校舎や学食にも立ち寄ってみたが、結局、背の高い妖魔には出会えずじまいだった。


 あれだけ大きな妖魔であれば、すぐ見つかるものと思っていたのに……。初めての場所だったから、何か見落としがあったのかもしれない。


 冬賀さんも何を考えているのか黙り込んでいるし、いつもまとっている重い空気がなおさら重たい。


 妖魔には「好む場所」という物があるから、この妖魔は大学構内をテリトリーにしているのかと思っていたのに。

 ここに居ないとなると、もう場所へのこだわりを失い、ターゲットと定めた人に付いて行ったのかもしれない。


 私たちは、間に合わなかったのだろうか?


 青木さんがターゲットで無いのは良かったが、居なくなった妖魔を探すにも手掛かりが少な過ぎる。


 冬賀さんも私も、すっきりしない思いを抱えたままで大学を後にした。

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